音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■ ブラームス、シャコンヌ、12音技法 ■

2008-01-27 16:11:55 | ■私のアナリーゼ講座■
■■ ブラームス、シャコンヌ、12音技法 ■■
                   08.1.27


★ブラームス(1833~1897)の交響曲第4番 OP.98 の4楽章

アレグロ・エネルジコ・エ・アパッショナートは、

わずか8小節のテーマを提示した後、それを30回も繰り返しています。

それは、「シャコンヌ」という形式になっています。

シャコンヌは、バッハ「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ」で有名です。

シャコンヌとは、バロック時代のゆっくりとしたテンポの

3拍子の舞曲で、数小節のとても短いテーマを、

何度も何度も変化させながら、繰り返します。



★この4楽章は、あまりに素晴らしい作品ですので、

さっと聴いただけでは、「シャコンヌ」であることに、

気付かれない方も多いかもしれません。


★この曲は、1884年(51歳の時)に1、2楽章が書かれ、

翌年に完成されました。

ドビュッシー、ラヴェルは、ブラームスを勉強し尽くしています。

私は、この4楽章を聴くたびに、

「これは、ラヴェルのボレロだ!!!」と、いつも思います。

皆さんは、どうお感じになりますか。


★ある程度円熟し、自信をもった作曲家は、

ごく限られた狭い枠の中で、自分の技法によって、

どこまで豊かな作曲が可能になるか、

それを試したくなるものです。

この4楽章から、そういう意味合いが感じ取れます。


★また、この「OP.98」という番号も、極めて重要です。

たびたび、ブログで書いておりますが、ブラームス晩年の

ピアノ小品集は、これ以降の「op.100番台」です。

ブラームスが、20世紀に向けて、新しい扉を開いた

画期的な楽章が、この「4楽章」といえます。


★4楽章を作曲した際、ブラームスの親しい友人で

後に、彼の伝記を書いたカルベックも理解できず、

「交響曲の終楽章にこれを置くのはどうか?」、

「これは独奏曲として、終楽章を差し替えたら」と薦めたそうです。


★このシャコンヌは、大きな意味で、変奏曲の一つといえます。

通常、変奏曲は、もっと自由にテーマを変奏させますが、

シャコンヌは、テーマを全く変化させずに、繰り返します。

変奏曲の極致ともいえます。

繰り返すだけでは、音楽になりませんので、

そこに何を加えるかが、とても重要です。

極めて伝統的で、古い形式である「シャコンヌ」が、

この「4楽章」においては、私には大変に新しく思えます。

なぜ、「新しい」のでしょうか。


★シェーンベルクは、この「ブラームスの変奏」という技法に着目し、

それを彼の「12音技法」の理論体系の根幹、としたのだと思います。

12音技法というのは、1オクターブの中にある12個の音を、

全部、“消費”するまで、 

その中のどんな音も使わない、という約束で成り立っています。

12のすべての音は、中心音にも、主音にも、属音になりえません。

その結果、調性というものが、感じられなくなります。


★しかし、テーマをいつも同じように演奏していては飽きられます。

そこで、シェーンベルクが考案したのが、

バッハの作品でよく使われる

テーマの「反行」、「逆行」、「反行の逆行」です。

テーマも含めて、この4種類の音列によって、

音楽を構成するということになります。

その拡大形、縮小形も用いながら、

縦横に展開していくことになります。


★その展開方法は、お気付きのように、「対位法」に依ります。

シェーンベルクは、このバッハからの大影響は当然のこととし、

さらに、「変奏、対位法の技術的」なものは、

ブラームスに、多くを負っています。


★以前、お話いたしましたように「小品」という形式は、

シェーンベルクから弟子のヴェーベルンへと引き継がれ、

ヴェーベルンの極端に微小な、切り詰めた小品の

アイデアの源泉となって行くのです。

現代音楽によく見られるように、

思いつきで音を置いていったのではなく、

ヴェーベルンの小品は、師シェーンベルクの作品と同様、

どの一つの音を抜いても、音楽が瞬時に、瓦解してしまうほど、

緊密な音の世界となっています。


★さらに、ヴェーベルンの影響は、

ブーレーズの「トータルセリエリスム」へと流れていきます。

この件は、また別の機会にお話いたします。


★ラヴェルは、意識したかどうかは別として、

ブラームス交響曲第4番「4楽章」に、匹敵する曲を

自分でも「書いてみたい」、「書ける」と思ったのでしょう。

それが「ボレロ」です。


★交響曲第4番の演奏は、素晴らしいものがたくさんありますが、

たまたま、最近聴きました セルジュ・チェリビダッケ指揮の

ベルリンフィルハーモニーの演奏に感動しました。

第二次大戦が終わって間もない、1946年11月のモノラル録音です。


★ブラームスのピアノ作品を弾いたり、聴いたりされる方は、

スコアを見ながら、この4楽章をお聴きになりますと、

ピアノの音色を作っていくうえで、とても参考になると思います。

ピアノを弾くのだから、ピアノ曲しか聴かないのではなく、

幅広く勉強なさいますと、

ピアノ曲も、より深く理解でき、より良い演奏になると思います。



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