音楽の大福帳

Yoko Nakamura, 作曲家・中村洋子から、音楽を愛する皆さまへ

■東北(とうぼく)への路■ その3

2007-12-20 00:35:20 | ★旧・曲が初演されるまで
■東北(とうぼく)への路■ その3
2006/4/28(金)

★7月1日のコンサート「東北(とうぼく)への路」では、雅楽奏者の八木千暁さんに

「白秋 ~波の間に」という曲を初演していただきます。

楽琵琶と龍笛で、奥の細道の旅の終わり、秋の風情を、表現したいと思います。

楽琵琶は、普段なかなか見ることが出来ません。

筑前琵琶、薩摩琵琶と異なり床に水平に構えます。

調弦も春夏秋冬で異なる調弦を用います。

例えば、春は双調(そうじょう)、夏は黄鐘調(おうしきちょう)、水調(すいちょう)、冬は盤渉調(ばんしきちょう)などです。

今回は、秋の平調(ひょうじょう)をつかいます。

有名な越殿楽も平調です。

私は、月に2回、「お能を身近に感じる会」でお能を習っています。

いまは、経正(つねまさ)をお稽古中です。

平経盛(つねもり)の嫡子・経正は、西海の合戦で討ち死にしました。

彼のために催された管絃講の弔いでは、彼が生前に愛していた「青山(せいざん)」の琵琶が仏前に供え置かれました。

この銘器について、お謡(うたい)では

「第一、第二の絃は、索々として秋の風。

松を払って疎韻落つ。第三、第四の絃は、冷々として夜の鶴の子を憶うて籠の中に鳴く」と

白楽天の詩句を引用しております。

平家の時代でしたので、この「青山」は、楽琵琶だったのでしょうか。

7月の新作「白秋」では、普段なかなか接する機会のない楽琵琶を間近でじっくりとご覧ください。

ちなみに「お能を身近に感じる会」の詳細は、

お能の出版社「檜書店」のホームページhttp://www.hinoki-shoten.co.jp/lesson/で。

観世流の大変素晴らしい先生方が懇切丁寧にご指導してくださいます。


★中村洋子ホームページ http://homepage3.nifty.com/ytt/yoko_r.html

★「東北への路」チケットお申込みは...
  平凡社出版販売株式会社 中崎 まで。 電話 03-3265-5885 FAX 03-3265-5714


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■「東北(とうぼく)への路」 その2

2007-12-20 00:33:28 | ★旧・曲が初演されるまで
■「東北(とうぼく)への路」 その2
2006/4/24(月)

★ 昨日(4月20日)は春の嵐。



芽吹いたばかりの新緑にわずかに残っていた桜、桃の花もすべて散り去りました。



本日は、うらうらな陽光、生まれたてのような、どこか怜悧な透き通る微風が体をよぎっていきました。



松尾芭蕉は、「弥生も末の七日」(陰暦の三月二十七日)、深川の草庵を引き払い、東北へと旅立ちました。



暁前の出立。



「月は有あけにて、ひかりおさまれる物から、富士の峯幽(はるか)に見えて、



上野谷中の花の梢、又いつかはと心ぼそし」と書いております。
 
この記述から、私は、花の盛りに江戸を旅立った、と思っておりました。



ところが、そうではありませんでした。



「弥生も末の七日」は、新暦の5月16日に当たるそうです。



花はもうとっくに終わり、したたるような新緑、初夏に差し掛かる頃です。



この旅は、芭蕉五十一歳の人生のなかで、晩年といえる四十六歳の時です。



彼は人生を「花」に見立て、自分は散リ行く花、あの咲き誇る上野谷中の桜を再び見ることがない



かもしれない、と心に詠じたのかもしれませんね。



「草の戸も住替る代ぞ雛の家」という句が想いを掻き立ててくれます。



「草の戸」とは、いわば、世捨て人の草庵のことだそうです。
 
この老い先短い世捨て人(芭蕉)が、庵を畳み、旅立ちます。



その空家に次は、お雛様を飾るような子や孫のいる新しい家庭が移り住みことでしょう。



“そうあって欲しい”と念ずる芭蕉。



散る桜を想う老人、お雛様と無邪気に遊び笑う幼子の姿が重なり合います。



老いと幼の見事な対比、人の世の悠久の流れ、流転が、この一句に見事に込められています。



7月1日の「伝通院コンサート」の第一曲目、斉藤明子さん演奏の10弦ギター用独奏曲はこうした



世界を表現したい、と思いますが、どうなることでしょう・・・




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■「東北(とうぼく)への路」~松尾芭蕉によせて~■その1

2007-12-20 00:31:39 | ★旧・曲が初演されるまで
■「東北(とうぼく)への路」~松尾芭蕉によせて~■その1
2006/4/14(金)

▼ことし7月1日(土曜日)午後7時から、東京・小石川の伝通院・本堂で、私の全曲初演による

個展コンサート「東北(とうぼく)への路」を開きます。

伝通院は、徳川家康の生母「於大(おだい)の方」の菩提寺。

格式の高いお寺です。

揺らめく蝋燭の明かりを前にして、本堂の荘厳な空間での演奏会は、幻想的です。

この本堂での個展コンサートは、ことしが3年目になります。

お蔭様でとても好評です。

音響も、能楽堂に匹敵する素晴らしさ。

有名なホールより優れているかもしれません。

今回は、松尾芭蕉「奥の細道」をテーマに、時空を超えた東北への旅を、音楽により表現いたします。

東北を「とうぼく」と呼ぶのは、お能の「東北(とうぼく)」から取りました。

発音が典雅ですね。


▼斎藤明子さんの10弦ギター独奏で、「春三月の旅立ち」から始まります。

「あらたふと青葉若葉の日の光」の日光、「五月雨の降り残してや光堂」の平泉。

「荒海や佐渡に横たふ天の河」の越後路へと旅をいたします。

斎藤さんは、日本人ギタリストとして初めてニューヨーク・カーネギーホールでリサイタルをなさった

実力のある音楽家です。


▼第2幕は歌です。

私の知人で鶴岡出身の婦人がいらっしゃいます。

民謡の名人です。

彼女は、小さい頃から大変苦労された方です。

「民謡を歌って慰めることで、日々の辛い労働を乗り切ってきた」と話されていました。

お母さんが歌う民謡を耳で聴いて覚えたそうです。

それは「最上川舟歌」です。

鋼鉄のように張りのある声で歌っていただきます。

鑑賞用ではない本当の民謡、生きる糧として歌い継がれてきた歌です。


▼次に、「最上川舟歌」の主題をテーマにした曲を、斎藤明子さん尾尻雅弘さんご夫妻のギター二重奏で

演奏いたします。

斎藤さんの10弦ギター、尾尻さんの7弦ギターという大変珍しい組み合わせです。

10弦ギターは特に低音が豊かで、オーケストラの響きにも匹敵しそうです。

「五月雨を集めて早し最上川」。

最上川のとうとうとした流れが髣髴とするといいですが・・・。

尾尻さんは、バッハから現代曲まで幅広いレパートリーで活躍中のギタリストです。

その真摯な演奏がいま、注目されています。


▼旅の終わりは、また舟に乗りて「蛤のふたみに分かれ行く秋ぞ」。

大きな旅を終えた安堵感と一抹の秋の寂しさ。

この世界を、八木千暁(せんぎょう)さんの樂琵琶と竜笛で表します。

八木さんは、雅楽の演奏団体「伶樂舎」のメンバーです。

古典や新作の雅楽演奏、さらに世界各国での演奏や、CD録音など多彩に活躍中です。


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