ベラルーシの部屋ブログ

東欧の国ベラルーシでボランティアを行っているチロ基金の活動や、現地からの情報を日本語で紹介しています

2024年9月5日放送の特別番組「東京のサムライの失敗」について

2024-09-06 | ベラルーシ旅行・長期滞在・留学注意情報
 ベラルーシで拘束された日本人男性についての特別番組がこちらの5日午後9時45分から放送されました。
 視聴しましたが想像以上の内容でした。これはスパイ活動をしていたと断定されて当然で、本人も自分が犯罪行為をしていたと取り調べで認めています。
 ベラルーシ当局はかなりの長期間に渡り、中西氏を尾行し、望遠カメラで同氏が軍事関連施設などを撮影していた様子を撮影していました。
 言い逃れなど全くできないほどの大量の証拠です。
 
 分かりやすいように内容を時系列で箇条書きにします。( )内は私からの補足です。

 中西氏は法律が専門である。(日本の大学の法学部出身のようです。)

 中西氏の妹が浄水装置・水処理作業の会社社長と結婚したが、その後離婚。この元義兄が日本の国家公安委員会とコネがある。(この会社社長のフルネーム、顔写真も番組内で報道されました。ちょっと検索したらすぐその会社のHPが見つかりましたが、このブログ上では伏せておきます。)

 この元義兄社長から諜報活動の資金援助があった。

 中西氏は一時期、東欧各国を旅行していた。そこでも諜報活動をしていたようだ。

 そしてちょうどマイダン革命が起こった2014年にウクライナへ行き、そこで諜報活動をしていた。

 2016年、ウクライナのクプリャンカにある教会で洗礼を受けて、アントニーという洗礼名をもらい、正教徒になった。

 2018年にベラルーシに入国してゴメリで居住を始める。お金を出して、ゴメリのベラルーシ女性と婚姻関係を結んだ。女性のほうもお金のために戸籍を売った。お互い同意の上だが、ベラルーシはこれは違法行為で、これだけでも罪に問われる。中西氏はゴメリの居住権を得られ、ゴメリ大学での日本語講師の職にも就けた。
 しかし日本語教師という肩書きは諜報活動をしていることを隠すためだった。

 婚姻届上だけの妻ともその後、離婚。(最初からその約束だったようす。同氏の逮捕により、元妻はお金のために婚姻関係を結んだという違法行為が明るみとなり、おそらくすでに処罰を受けたと思われる。)

 同氏は2019年にゴメリで会社を設立。しかしこれはペーパー会社で、実際には何の業務形態もなく、日本からの資金受け取りの隠れ蓑として存在していただけだった。会社が存続するように税金はきちんと納めていたが、それも利益から捻出したのではなく、日本からの入金の一部をそのまま税金としていただけで、全く形だけの企業だった。

 大学の日本語教師の安い給料では考えられないほど、多くの出費があった。

 2018年から今年の逮捕に至るまでの6年間で、ベラルーシの国中を旅行しまくっていた。行き先は観光地ではなく、国境近くの町や村であり、鉄道などの交通インフラ、鉄橋、工場、軍事施設などの写真を大量の撮影していた。ゴメリ空港の写真とビデオを撮影し、元義兄社長に送ったと中西氏は証言した。

 2020年の大統領選挙後のデモのようすも写真やビデオに収めていた。
 写真だけで9000枚撮影し、元義兄社長に渡していた。その元義兄は公安に渡していたというのがベラルーシ当局の見立て。だから、日本政府のスパイだと報道している。

 元義兄社長とは2週間に6回電話をしたこともあり、ラインを通じて長期間に渡り大量のやり取りをしていた。それが今回証拠として押収された。内容の一部が番組内で報道された。ラインの画面がそのまま映し出された。 

 元義兄社長はベラルーシに起業進出したいと思っていたらしく、そのことも中西氏に依頼していた。ラインでは「現状では(ベラルーシに進出しても)日本企業のメリットは少ない。ベラルーシ進出はかなり厳しいのが実情。」「(ミンスクの企業の)社長秘書と話してもダメですね。」 「ベラルーシ(経済)は中国に飲み込まれるのは時間の問題。」などと元義兄社長に助言している。取り調べで日本と中国は経済上のライバルなので、一帯一路のような中国についての情報もベラルーシで集めていたことを認めています。)

 さらにベラルーシ当局は中西氏が在ベラルーシ大使館員と積極的にコンタクトを取っていた。同氏は尾行されており、例えばベラルーシ当局の記録によると、日本大使館が面している大通りにあるレストランで同氏が日本大使館員とよく食事をしていた。2021年9月7日の深夜ミンスク市内の公園で同氏が日本大使館員の男性と落ち合って木の影で何かしゃべっていた。(全部ベラルーシ当局にばれてますね。)
 2022年4月24日、ミンスク市内の書店の近くで同氏と日本大使館員が落ち合って何かしゃべっていた。
 この日本大使館員のフルネームは報道できないが、下の名前は「ヤスシ」である。(いや、これで誰のことなのかばれてしまいますよ。ベラルーシのテレビ番組で晒しています。が、ベラルーシ側はわざとそうしており、日本大使館を威嚇したように思えます。ベラルーシ当局からするとそれぐらいしても構わないだろうと思っていますね。つまり日本大使館があ諜報活動に加担している証拠が大量にあり、大きな自信があるということです。)

 同氏には集めた情報を日本へ渡す手段として二つの方法を使っていた。一つは予備(詳細はこの番組内では語られませんでした。)もう一つは日本大使館経由であるという証拠をを抑えている。(日本大使館が情報受け渡しに関与しているので、中西氏が日本政府の諜報機関のスパイであると言っていいというのがベラルーシ当局の見解です。)

 確かに中西氏は元義兄社長とラインで以下のような会話をしている。2021年9月6日。中西氏「明日は大使館関係者と飲みに行くのですが、基本は割り勘とすべきなのでしょうか。アドバイス頂ければと思います。どちらかと言えば私が誘った感じです。もっとも勤務時間外でもいいですよ、との声は大使館関係者からですが。」(←私は「日本大使館関係者が勤務時間内にお酒を飲みに行くの?」と思いましたが。)
元義兄社長「大使館員であれば割り勘で問題ないと思いますよ。ただ流れを見て出さなければいけない場合や向こうが出す場合は見抜くことも必要かと思いますよ。」
 (このようなやりとりが日本大使館員と接触があった証拠、ということですが、これだけで日本大使館員が諜報活動に加担していたどうかと言われると・・・。それより真夜中の公園で日本人の男二人が待ち合わせとかそちらのほうが怪しいですよね。とにかく中西氏も日本大使館員も完全にベラルーシ当局にはマークされていたんですね。中西氏は尾行されていたことに全く気がついていなかったのでしょうか。それだとスパイとして素人ですよね。そこのところを少々馬鹿にするためにこの特別番組が制作されたような気もします。)

 さらに2022年1月26日(ウクライナ侵攻およそ1ヶ月前)元義兄社長とはこのようなラインのやりとりも。社長「とにかく安全第一ですからね。ウクライナ近いので心配です。」中西氏「ありがとうございます。こちらの部隊は既に臨戦体勢にあります。先日も専用貨車に軍用車を搭載していました。写真なんて撮ったら即拘束でしょうね。」社長「写真はやばいですよー。」中西氏「全くですね。」

 このように写真撮影をしたらいけないことも自覚していた上で諜報活動をしていたということです。番組の最後のほうで、髪型からして拘束されてまもない頃の取り調べの様子の録画が放送されており、取り調べ官から「これ(写真撮影)が犯罪だと分かっているのか。」という質問に「はい。分かっています。犯罪行為をしました。」と中西氏は自ら認める発言をしています。

 日本の方から見れば「いや、これは罪を認めるよう言わされているのだ。」と思われるかもしれませんが、私が見たところ、中西氏には拷問を受けたような跡はなく(テレビ画面に映ってないだけかもしれませんが。)健康上の問題はないと面会した大使館員(これはヤスシさんではないでしょう。)が証言しており、そのように官房長官も記者会見で言っており、髪の毛は短く刈られ、手錠はかけられているものの非人道的な扱いは受けていないと思われました。
 
 ベラルーシ当局は同氏のバックに日本の公安と大使館がいるので、日本政府の特殊任務を受けてベラルーシに送り込まれてきたスパイだとしています。大使館は治外法権なので、大使館員のヤスシさんがベラルーシの警察に捕まることはありません。元義兄社長も日本に住んでいるから逮捕されません。ベラルーシ領内に入ったら、逮捕される恐れがありますが。
 中西氏は逮捕できるから逮捕されました。これから起訴され、有罪判決が出るのはまちがいないでしょう。
 しかし同情する気は全く起こりません。ベラルーシの法律を知っていた上で6年間もあえて撮影禁止地区で撮影禁止の施設の写真を撮っていたのですから、罰せられるのは当然です。
 同じ日本人として恥ずかしく思います。ベラルーシで犯罪行為をしていた日本人がいたことを申し訳なく思います。特にゴメリ大学の日本語の学生さんたちに申し訳ないです。日本語を教えてくれていた先生が逮捕されたと知って、どれほど驚き落胆したか・・・。このせいで日本を嫌いにならないでほしいです。日本語の勉強をやめる人が出てこないことを祈ります。

 日本大使館が諜報活動に加担していたと国営テレビで報道されて、日本外務省は何と言うでしょうか。本国大使館員が同氏の諜報活動に関与していたなどとは事実無根だとかベラルーシ当局が挙げた証拠は捏造だとか主張するのでしょうか。
 日本とベラルーシの関係が悪化しないことを祈るばかりです・・・。

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 追記です。
 9月6日、官房長官は今日の閣議後会見で、ベラルーシの国営放送が、同国で拘束された日本人男性に関する特別番組を放映したことについて「極めて遺憾」だとし、放映後ベラルーシ外務省に抗議したことを明らかにしました。
 
 官房長官によると、この放送に先立ち番組の予告映像の中に男性の人権の保障の観点から問題ある内容が含まれていた(←これは手錠をはめられていた様子が映像の中に入っていたことだと思います。)ことを受け、在ベラルーシ日本大使館からベラルーシ外務省に対し、放映中止を強く申し入れていたそうです。
 もちろん、ベラルーシ側は日本政府側の声を耳など貸しません。逆に「情報の受け渡しに日本大使館(日本外務省)が加担していたのに、何を言うか。」と思っていたのではないですか。
 そして予定通り放映。中西氏が日本大使館経由で情報を渡していたのだから、日本政府がベラルーシへ送り込んだ特殊任務員だと内容です。こちらの大使や大使館員たちはどのような思いでこの放送を視聴したのでしょうか・・・。

 官房長官は「政府として邦人保護の観点からできる限りの支援を行っていく」と述べました。どれぐらいの支援ができるでしょうか? 
 以前ベラルーシで逮捕された日本人2人に対しても、大使館員が拘置所へ面会に行く、裁判のときの通訳や弁護士は必要か尋ねる、大使館員が裁判の傍聴をするということぐらいしかしていませんでした。と言うより、支援などできないんですよ。「いや、この日本人は悪くない、無罪だ、釈放せよ。」と日本政府がベラルーシ政府に言ったら、ベラルーシの法律を日本政府は尊重しないのか?と抗議されるだけなので、ほとんど何もできないんです。
 
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 さらに追記です。この番組で本名や顔を晒された中西氏の元義兄社長さんですが、すでに日本のマスコミから取材を受けています。
 それによると・・・
 長野県に本社がある会社社長の男性は6日、「番組内容は事実無根だ。そういう機関とは会社としても個人としても付き合いはない」と語った。共同通信の電話取材に応じた。 番組は男性を中西さんの情報提供先と指摘したが、男性は取材に「完全なプロパガンダだと思っており、これからも全く関係ないと主張していく」と語り、日本政府とも相談する意向だとした。
 ・・・だそうです。ああ、お気の毒なことです・・・。

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 また追記です。
 ベラルーシ外務省はスパイ活動容疑で日本人男性の身柄を拘束したことに関連し、山本広行駐ベラルーシ大使を呼んで抗議したと発表しました。
 5日に報道された特別番組について日本政府が放送中止を「執拗に」ベラルーシ政府に要求したとしています。そして放映後は、放送したことに対する抗議文を送ってきたそうです。
 これに対しベラルーシ外務省は、犯罪を隠すという日本側の要求は馬鹿馬鹿しいものであり「(日本政府が)無能のため」(ベラルーシ政府は)考慮しなかったと回答しました。
 ベラルーシ側は山本大使に「日本人によるスパイ活動で自国の安全が損なわれた」と批判しました。

 ベラルーシ外務省によると、事件の捜査は最終段階にあり、起訴も間近なようです。
 ベラルーシの法律によるとスパイ活動容疑に対しては3年から7年の懲役の判決が出されるそうです。
 拘置中の容疑者に日本大使館員が面会することなどは認めています。ベラルーシ外相は、この件に関してベラルーシ外務省は日本側との更なるコンタクトを拒否するものではない(全く話し合いたくないわけではない)と述べました。
 その一方でベラルーシの主権を侵害する外国諜報機関のいかなる行動も容認できないことを強調しました。(当然ですよね。)

 山本大使を呼びつけたのは、今回の番組放映に対して抗議したから抗議し返したというのが目的ですが、その日本大使館員の中に中西氏のスパイ活動に協力していた人がいたというのがベラルーシ側の主張なので、その点についても抗議されたと思います。
 テレビ番組でフルネームではないものの名前を名指しされた大使館員は、ベラルーシ政府からペルソナ・ノン・グラータを発動されてもおかしくない状況だと思いますので。