自然日誌 たかつき

自然についての問わず語りです。

アファンの森 10

2020年12月13日 | 標本

私はアファンの森の調査を続けさせてもらっています。これまでは調べて分かったことをニコルさんに聞いてもらい、喜んでもらうということが目的のような気持ちがありました。かと言って、ではニコルさんがおられないから調査をやめるかというと、そうはなりません。それは私と自然との関係ということもあるし、続けることが天国のニコルさんが喜んでくれることだと信じるからです。
 ニコルさんは上皇陛下が美智子様とアファンの森に来られた日のことを
「The best day off my life」
と言ってました。そして私がタヌキの食性を解明するために糞分析をしていると知って、天皇陛下であられたときに皇居にお招きいただいてタヌキの論文をいただいたことを誇らしく語っていました。その論文は通常の研究者の植生研究が1年間の季節変化であるのと違い、5年間も継続したものです。これが我が国での最長記録ですが、私のアファンの森での調査は今年で8年目になりました。サンプルが多すぎて未分析のものが残されていますが、これが完了すれば最長記録を破る事になります。
 通常の「論文執筆」でいえば、非効率な事です。合理的に考えれば最小努力で最大成果を上げるのが賢明です。でも自然から学ぶということはそういうことだけではないと思います。松木さんから学んだ頑固さや、ニコルさんから学んだ「生き物のつながり」を捉えることの大切さ、それに、幼い頃から「この子は根気強いねえ」と呼ばれながら育った私が生態学者としての余生の最後に自分らしい作品を作るには、これでもかというほど長い時間をかけてたくさんのサンプルを分析してやろうと思うのです。
 今年、アファンの森を歩く私の気持ちはこれまでと明らかに違いました。ニコルさんがこの世にいないという気持ちがいつも胸にありました。それだけに、森の中を歩きながら、この森に眠りたいと言ったニコルさんの魂がはっきりと感じられました。

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