8月12日の夜、一台の車が私たちのゲルに近づいていました。5年前に卒業した当時学生だった4人が合流することになったのです。その学年は学生のときにモンゴルの調査に来て、そのうち2人は卒業論文をモンゴルの野生動物で書きました。そのときにチョロンさんという人にお世話になって調査をしました。卒業後も連絡をとっていましたが、私が今年体感したこともあったのか、「もう一度モンゴルに行こう!」ということになったようです。社会人ですから調整をしても最大1週間休みをとるのが誠意一杯です。それがなんとかなり、私の調査の最後の方で合流し、それからチョロンさんに会いに行こうということになったのです。
話はそういうことですが、実際には彼女たちだけでウランバートルに来て、まったく知らないモンゴルのいなかに自分たちだけで行くのですから、なかなかスリリングです。私の運転手さんに友達を紹介してもらい、その人たち同士が携帯で連絡できるので、何の心配もありませんが、それでも心配はあったようです。12日の朝から電話連絡はとれたのですが、買い物にずいぶん時間がかかったらしく、昼になっても「まだ」、午後になっても「まだ」ということで、「早く出た方がいいけどな」とは思いましたが、「ま、子供ではないんだから」と任せていました。というのは電話連絡ができるとはいえ、初めての土地に日が暮れてから行くと、よけいに時間がかかり、迷いでもすると大変だからです。
実際、7時か8時に着く予定が9時になっても10時になっても着きません。私も落ち着かなくてゲルを出たり入ったりしていました。ボロさんのゲルはオルホン川に沿っているので、南北に流れる川沿いの道を北上します。とはいえ、ちゃんとした道路があるわけでなく、草原の中の轍をたどるので、間違えると違うところに行ってしまいます。そこで私の運転手のジャガさんが丘の上からライトを照らしながら待つと連絡しました。一方、彼女らの車はアラームライトの赤を点灯して走ることにしました。
その日は星空の美しい夜でした。星空を見上げながら、私の頭の中にイメージが湧きました。それはモンゴルというより、東アジアの地図です。真っ黒な地図に明るい点と赤い点があり、赤い点が明るい点に近づいていくというイメージです。
空想から現実にもどると、時計は11時を大幅にすぎています。11時55分くらいで、本物の赤い光が見えました。そうしたら、明るいライト光が動き出しました。ジャガさんが近づいていったに違いありません。11時59分になりました。そのときです。大きな流れ星が落ちました。胸がドキっとしました。2台が合流したようです。そうしたらもうひとつ大きな流れ星が流れました。12時をまわりました。
やがて車がつき、「やあ、やあ」ということになりました。私はこういうときは照れてしまって、気持ちをうまく表現できないのですが、気持ちでは彼女らを一人一人ハグしたいような感じでした。ま、無骨な日本の老人にはできないことです。