今朝の朝日新聞の「天声人語」に私のコメントが載りました。
5月下旬に荒川にシカが出現し、数日後に警察に捕獲されました。テレビではシカは人を物ともせずに軽々と逃げてしまい、なかなか捕まらないなどと報じていましたが、シカの動きを見れば緊張していることがわかります。また捕獲直後の様子を見ると呼吸が速く、ストレスが極めて強かったことがわかりました。結果として無事に捕獲され、死なせないで済んだようですが、ギリギリだったと思います。これはシカという動物の生物学的性質を知らないためです。
ところで、シカが出たらなぜ警察が出てくるのでしょうか?警察というのは犯罪者を取り締まるのが仕事ですが、シカは犯罪者ではありません。このシカは害獣としての捕獲申請が認可されたから、山に戻すわけにはいかないという説明を聞いて、違和感を持った人が多かったと思います。これは日本の野生動物についての法体系を知らないからです。
そして「殺処分もありうる」と報じられたら、「可愛そうだ、私が引き取りたい」という声が殺到したそうです。声を上げた人はシカを飼育するのがどういうことであるかを知っているでしょうか。シカは草を1日5キロくらいも食べます。その確保は大変です。毎日1000粒くらいの糞をします。秋になればオスジカは気が荒くなり、飼育者に対しても攻撃を仕掛けることがあり、手がつけられなくなります。
こういうことを考えると、この一連の騒動は、多くの人がシカのことを知らないために起きたことがわかります。
インタビューを受けた時、そういう話をしました。私が強調したのは、現代の都市社会は、自然との距離を持ってしまったため、生活実感として自然を知ることがないということでした。そのためにシカは可愛いとイメージし、殺すなどとんでもないと反応します。しかし、現実には埼玉で2500頭、山梨では1万頭以上、東京でさえ数百頭のシカが殺処分されています。そのことも多くの人が知らないことです。
そして、今、里山に野生動物が増えて、一触即発の状態にあります。つまり、シカやイノシシがいつ都市に出てきても不思議ではないのです。だから、今後、今回のようなことは度々起きるはずで、その度に大騒ぎをし、シカを殺さないでという大合唱が起きることになります。そうではなく、社会として野生動物にどう向き合うかを合理的に考えて体制を整えるべきだということが私のメッセージでした。
天声人語は限られた字数にまとめなければいけないので、担当者はうまくまとめたとは思いますが、それだけを読んだ人はここに書いたようなことまでは読み取れなかったと思います。