リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

ノンフィクション作家星野博美さん(3)

2021年06月03日 16時23分07秒 | 音楽系
「旅ごころはリュートに乗って」の第3話「千々の悲しみ(ルイス・デ・ナルバエス)」を読みますと、

(スペイン国王であるフェリペ二世がポルトガル王位を兼務することになり)「これまでポルトガルの領域だから参入を控えていたスペイン傘下の托鉢修道会が、フィリピンから日本に渡り始めたのだ」

イエズス会はザビエルの来日から苦労して布教活動をしてきたのだが、スペイン系修道会に横取りされる危機感を抱いていたのです。

ジョスカンの「千々の悲しみ」に基づくヴィウエラ独奏曲「皇帝のうた」はナルバエスが1538年に出版したシフラ(タブ)集に収められています。ナルバエスは1548年からフェリペ2世の宮廷に仕えていましたし、シフラ集が出版されたのもスペインのバジャドリー(15-16世紀前半のカスティジャ王国の首都)、ナルバエス自身もカスティジャ王国のレオン出身だったと思います。カスティジャ王国はその後スペイン王国の中核になっていくわけですが、スペイン宮廷に仕えていたスペイン生まれの音楽家がスペインで出版したシフラ集所収のいわばスペインづくしなのが「皇帝のうた」です。

星野さんの「旅ごころ・・・」には、

「イエズス会が使節に、スペイン国王を象徴する曲を演奏させるわけがない、と私には思える。イエズス会としてはむしろ、スペイン賛美につながる要素は積極的に排除するのが筋ではなかったろうか」

とあります。

さらに、