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教えてもらうだけでは失格

チタンなどの難作材の金属加工を手がける千田精密工業は、ホンダのF1エンジンの制御ボックスをはじめ、太陽電池、半導体、液晶パネルの製造装置などの部品加工を手がけてきた。

岩手県に基盤を置く同社の優れた加工技術を担うのは80人からなる職人。営業マンはいない。千田精密工業しか持っていない技術を求めて顧客がやってくるからだ。

千田精密工業が優れた金属加工技術を獲得した秘密は何か?それは、常に顧客からの難しい依頼に答え続けているからだ。

同社は、単純な加工は大量受注であっても断る。加工技術に挑戦する部分がないと力がつかないからだという。そのかわり難易度の高い注文は断らない。千田社長は次のように述べている。

「どんな難しい加工でも、最初から『できない』とは一度も言ったことがない。かといって何でも『できる』といいかげんな対応もしない。必ず『やってみます』とだけ答えて、取引先からの難題に挑戦し続けてきた」(55p)

一方、千田社長は優れた職人達を次々と独立させ、職人のモチベーションと技を高めている。次のコメントが印象的だ。

「会社の傘の下でぬくぬくと仕事をされては困る。だから追い出しているだけ」

「先輩たちから技を教えてもらうだけでは職人失格。先輩たちができないことをやってこそ一人前」

ベテランから若手・中堅へ技術を伝承する動きがある中で、あえて「先輩から教えてもらうのではなく、自分で先輩を追い越せ」と言い切る姿勢から、他社がマネできない加工技術が生まれるのであろう。40歳になると多くの社員が独立するリクルート社の組織マネジメントとダブった。

常に背伸びをすることを要求するストレッチ課題に取り組み、社員を奮い立たせて限界に挑戦させる。非常にシンプルだが、自信と高い志がないとできない技である。

カベを毎日破れ」と言った元経団連会長の土光敏夫氏の言葉を思い出した。

出所:「千田精密工業:F1制覇の技、液晶に生かす」日経ビジネス2008年6月9日号, 54-55.
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