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『鍵のかかった部屋』(読書メモ)

ポール・オースター(柴田元幸訳)『鍵のかかった部屋』白水ブックス

ニューヨーク三部作の最後の作品である。

幼なじみのファンショーが失踪した後、「書きためた原稿に価値があれば出版してくれ」というメッセージを受け取った批評家の「僕」。

出版された小説が評判になると、ファンショーから「妻と結婚してくれ」という手紙が届き、結婚する僕。

実は小説家になりたかった僕は、天才ファンショーに嫉妬しつつ、秘密を抱えたまま彼を探すという物語。

『ガラスの街』や『幽霊たち』に比べると、ストーリーが明確であるものの、やはり謎めいた作品である。

3部作に共通しているのは「自分とは何か」。次の箇所が印象的だった。

「人生が進んでゆくにつれて、われわれは自分自身にとってますます不透明になってゆく。自分という存在がいかに一貫性を欠いているか、ますます痛切に思い知るのだ。人と人を隔てる壁を乗りこえ、他人の中に入っていける人間などいはしない。だがそれは単に、自分自身に到達できる人間などいないからなのだ」(p. 96)

自分自身がよくわからないという感覚があるので、この文章は響いた。

ポール・オースターは、自分を探すために小説を書いているのかもしれないな、と思った。





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あなたの翼の陰に隠してください

あなたの翼の陰に隠してください
(詩編17章8節)
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『ウィンターズ・ボーン』(映画メモ)

『ウィンターズ・ボーン』(2010年、デブラ・グラニク監督)

精神を病んだ母と小さな妹と弟を世話しながら、行方不明になった父を探す17歳の少女リー(ジェニファー・ローレンス)。

なぜか?

薬物製造の罪で保釈中にいなくなった父を見つけないと、土地と家が没収されてしまうからである。

ストーリーが進むにつれ、リーの家庭は、地域一体で薬物を取り扱う「ヤバいファミリー」の一員であることがわかる。

もう少し渋めの映画かと思っていたが、マフィア映画に近くてびっくりした。

本作で最も印象に残ったのは、死をも恐れず、家族のために父親を捜すリーの「ガッツ」である。

ガッツ」があればなんとかなる、と改めて思った。

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疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう。

疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう。
(マタイの福音書11章28節)

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『幽霊たち』(読書メモ)

ポール・オースター(柴田元幸訳)『幽霊たち』新潮文庫

ニューヨーク三部作の第二作である。

私立探偵のブルーは、ホワイトという男から、ブラックという男を毎日見張るように依頼されるものの、何も起こらない。徐々にいら立つブルーは、ブラックの正体を暴こうと行動に出るが・・・。

まるで阿部公房の前衛小説を読んでいるような気になった。

ストーリーが謎すぎてよくわからない作品であるが、ヘンリー・ソローの『ウォールデン』を引用する場面が印象的である。

「たしかメモを取っておいたはずだ。我々は我々の真の居場所にはいない、これだこれだ。我々は偽りの場にいる。人間としての本来的な弱さゆえ、我々は檻(おり)を夢想し、自分をその中に閉じ込める。したがって我々は同時に二つの檻の中にいるのであり、そこから抜け出すのも二重に難しい。なるほどその通りだ、とブルーは思う」(p. 74)

この箇所は響いた。

自分の作った檻から出られない自分。

多くの人がその状態にあるような気がした。



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お前たちは心挫けてはならない

お前たちは心挫けてはならない
(エレミヤ書51章46節)

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『岳』(映画メモ)

『岳』(2011年、片山修監督)

舞台は長野県の警察山岳遭難救助隊

女性新入隊員の椎名久美(長澤まさみ)が、山の達人であるボランティア・島崎三歩(小栗旬)のサポートのもとで、成長していく物語。

ベタな演出と、やや無理のある設定にもかかわらず、全編にわたり感動してしまった。

なぜか?

それは、登場人物たちが「人を助ける」ために一生懸命になっているからだ。

不自然なほどにポジティブな三歩の姿も、胸に響く。個人的には、救助ヘリのパイロット役の渡部篤郎の演技がよかった。

本作を観て改めて感じたことは、「クールヘッドとウォームハート」の大切さ。人を助けるためには、パッションだけでなく、冷徹な判断が大事である。





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『ガラスの街』(読書メモ)

ポール・オースター(柴田元幸訳)『ガラスの街』新潮文庫

ポール・オースターによる「ニューヨーク3部作」を読んでみた。

第1弾は『ガラスの街』。

私立探偵と間違えられて、「スティルマンという男を見張ってほしい」という依頼を受けた作家のクイン。

なぜか受けてしまったクインは捜査に乗り出すものの、スティルマンと依頼人は行方不明となり、途方にくれる

途中までは「探偵小説」として単純に面白いのだが、後半になると謎めいたストーリーへと変わり、ラストは「?」という感じで終わってしまう小説である。

1点印象に残ったのは、クインが屋外で張り込んでいるときの一節。

「何時間も、空を見上げて過ごした。バケツと壁にはさまれた定位置からは、ほかに見るものはほとんどなかったし、日々が過ぎていくにつれて、頭上の世界を愉しむようになっていった。何よりもまず、空が絶対に静止していないことをクインは知った。雲のない、一面青空が広がっているように見える日でも、小さな変化やゆるやかな乱れはつねに生じている」(p. 212)

この箇所を読んで『戦争と平和』でアンドレイが戦場で死にそうになったときに、空を見て感動する場面がオーバーラップした。

偶然や運命に翻弄されている中で、「世界の真実」に気づく瞬間がある。

その瞬間を大事にしたい、と感じた。


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知識は人を高ぶらせるが、愛は造り上げる

知識は人を高ぶらせるが、愛は造り上げる
(コリントの信徒への手紙8章1節)

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『離婚』(読書メモ)

色川武大『離婚』文春文庫

色川武大の直木賞受賞作である。

半分本当で半分はフィクションらしい。

6年の結婚生活を経て離婚した夫婦が、再び一緒に生活するようになるのだが、そのほうがしっくりくるというストーリー。

「まことに阿呆なことですが、ぼくはときどき彼女マンションを訪れて泊っていくようになりました。そうして心の中で、離婚をしたあとで同棲するというのも悪くないかもしれぬ、と考えていました。すくなくともぼくたちにはぴったり合った関係かもしれないと思いました」(p. 52)

世の中には、籍入れないけれども一緒に生活する「事実婚」を選択する人たちがいるが、法律に縛られずに共に暮らすほうがのびのびできるのかもしれない。

結婚していたときにはいがみ合っていたのに、離婚したとたんにときめいてしまう映画『ラバーズ・アゲイン』を思い出した。






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