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『絵のない絵本』(読書メモ)

アンデルセン(矢崎源九郎訳)『絵のない絵本』新潮文庫

貧乏な画家に月が語りかける物語。三十三のストーリーから成る。

月は、世界中の街に住む人々を、時代を超えて照らし出す。

小さい女の子や男の子、若者、老女、旅行者、俳優、編集者、商人、囚人、貴族や王様。幸せな人もあれば、不幸の中にいる人もいる。

よく考えてみると、誰にでも平等に月の光は人々に降り注ぐ。月は何もしないが、すべての人を見ているのである。

地味ではあるが、アンデルセンのやさしさが伝わってくる物語である。

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『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』(映画メモ)

『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』(2013年、ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン監督)

レンタルショップでDVDを探していたら「コーエン兄弟の最高傑作」というポップが貼ってあったので観てみた。

ルーウィン(オスカー・アイザック)は、売れないフォーク歌手。住む家もなく、友人・知人の家を渡り歩いて暮らしている。

プロモーターに売り込むものの「悪くはないが、金の匂いはしない」と言われてしまう。

印象に残ったのは、ガールフレンドのジーン(歌手)と喧嘩しているときのやりとり。

ジーン:あなたは負け犬よ
ルーウィン:人間には2タイプいる。人を成功者と負け犬に分けようとする人間と…
ジーン:そして「負け犬
(たしかこんな感じの会話)

自分らしい人生を歩むことと、世間的な成功をつかむこと。この二つを両立することの難しさを感じた。

なお、映画のはじまりと終わりが工夫されていて、思わず「上手い!」と思った。






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怒りのうちにも、憐みを忘れないでください

怒りのうちにも、憐みを忘れないでください
(ハバクク書3章2節)

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『不愉快犯』(読書メモ)


木内一裕『不愉快犯』講談社文庫

『ビー・バップ・ハイスクール』の作者でもある木内さんの小説は期待を裏切らない。

これまで『アウト&アウト』『藁の盾』『神様の贈り物』『バードドッグ』『キッド』『水の中の犬』を読んだが、すべての作品が抜群に面白い

本作は、反社会的パーソナリティを持つ狂気のミステリー作家・成宮が主人公。妻を殺しているにもかかわらず、巧妙な作戦で無罪を勝ち取るが、そうは問屋が卸さないという展開である。

とにかく、強烈なキャラクター設定と、作品の「疾走感」が半端ではない。

漫画的な要素を小説に取り込んでいるという意味では、お笑い&テレビの要素を映画に持ち込んで成功しているたけしさんと共通点があるな、と感じた。



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『追憶の森』(映画メモ)

『追憶の森』(2015年、ガス・ヴァン・サント監督)

この映画は、原題(The Sea of Trees)よりも邦題のほうがよい。

夫婦関係がギクシャクしている中、妻を事故で失ったアーサー(マシュー・マコノヒー)は罪の意識に悩み、世界的な自殺の名所である青木ヶ原で死のうとする。

そして、樹海に入り込んだところ、同じく自殺をしようとしていた日本人サラリーマン・ナカムラ(渡辺謙)と出会い、樹海から脱出しようと助け合う、というストーリー。

人生に絶望していたアーサーだが、ナカムラを助けようとするプロセスにおいて、生きる力を取り戻す。

他者を助けようとする行為が、自分の成長につながることがわかる作品である。



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世も世にあるものも、愛してはいけません

世も世にあるものも、愛してはいけません
(ヨハネの手紙Ⅰ・2章15節)

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『硝子戸の中』(読書メモ)

夏目漱石『硝子戸の中』岩波文庫

新聞に掲載された漱石のエッセイ。ちなみに、硝子戸の中とは、漱石の書斎のことである。

書斎を訪れたお客さんとのやりとりが中心に書かれているのだが、その中の一人に、大学時代の友人Oさんがいる。

「彼の性質が鷹揚である如く、彼の頭脳も私よりは遥かに大きかった。(中略)大学を卒業すると間もなく彼は地方の中学に赴任した。私は彼のためにそれを残念に思った。しかし彼を知らない大学の先生には、それがむしろ当然と見えたかも知れない」(p.28-29)

その後、Oさんは中学の校長となった。

「昨年上京したついでに久しぶりで私を訪ねてくれた時、取次のものから名刺を受け取った私は、すぐその足で座敷へ行って、いつもの通り客より先に席に着いていた。すると廊下伝に室の入り口まで来た彼は、座布団の上にきちんと座っている私の姿を見るや否や、「いやに澄ましているな」といった。その時向の言葉が終わるか終わらないうちに「うん」という返事が何時か私の口を滑って出てしまった」(p.29)

一瞬のうちに大学生に戻ってしまった漱石がかわいい。

漱石の内側を垣間見れる本である。







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『ストレイト・ストーリー』(映画メモ)

『ストレイト・ストーリー』(1999年、デヴィッド・リンチ監督)

しぶい映画である。

アルヴィン・ストレイト(リチャード・ファーンズワース)は、娘と暮らす老人だが、ある日、長年会っていない兄が倒れたという知らせを受ける。

見舞いに行こうとするものの、車の運転ができないアルヴィンは、草刈り機に手作りキャビンをくっつけて旅に出る(ちなみに、速度は時速8キロ、旅程は500キロ以上)。

旅の途中で、いろんな人と出会い、アドバイスを与えたり、自分の人生を振り返ったりする。

ある老人と一緒にパブで飲んでいるときに、戦争中のつらい体験を話す場面が印象的である。

誰にも話せずに、ずっと胸の奥に沈んでいた罪の意識を言葉にすることで、すこし心が軽くなるアルヴィン。

旅は、ライフレビュー(人生の振り返り)をうながしてくれるのかもしれない、と思った。









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憎しみはいさかいを引き起こす。愛はすべての罪を覆う。

憎しみはいさかいを引き起こす。愛はすべての罪を覆う。
(箴言10章12節)
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『フィガロの結婚』(読書メモ)

ボオマルシェエ(辰野隆訳)『フィガロの結婚』岩波文庫

伯爵家で召使をしているフィガロとシュザンヌは結婚することになるが、初夜権(女性の召使が結婚するときに主人が初夜を過ごす権利)を行使しようとするアルマヴィヴァ伯爵。そうはさせないように策略をめぐらすフィガロとその仲間たちの物語である。

フィガロは、小さいときに親と分かれ、怪しい人たちの中で育ち、さまざまな職業を転々としてきた渡世人。とにかく頭の回転が速く、世渡り上手である。

自尊心が高いフィガロだが、実は、自分というものがわからない。第5幕第3場の長セリフが心に響いた。

「さては、持てあましているこの俺自身がそもそも何者だ。為体(えたい)も知れぬがらくたの、とりとめもない寄せ集めだ。かてて加えて、阿呆らしいけちな野郎だ。(中略)とうとう、夢も望みも破れて砕けて幻滅の男となり果てた…幻滅の男と!シュゾン、シュゾン、シュゾン!」(p.198)

自信満々に見えたフィガロなのだが、やはり愛するシュザンヌ(シュゾン)がいてこそ、自分という存在を確かめられるのだ。

パートナーの存在が、個人のアイデンティティを支えているのかもしれない。


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