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『名人』(読書メモ)

川端康成『名人』新潮文庫

本書は、川端康成が、不敗の名人・本因坊秀栽(しゅうさい)の引退碁を観戦したときの記録である。

この勝負は昭和13年6月から12月にかけて半年にもおよんだ。なぜなら、高齢の名人が病気がちで、何度も中断されたからだ。

結局、最後の試合には負けてしまうのだが、最も印象に残ったのは本因坊秀栽名人の、集中力である。普通は相手を研究して勝負にのぞむものだが、名人は違った。

「私などはそんな相手のことよりも、碁そのものの三昧境に没入してしまう」(p.74)

また、ある日、名人が自宅で稽古していたときのこと。隣の部屋にお客が来て、子どもが大騒ぎしていたことがあったという。しかし、その後聞いてみると、名人はお客が来たことも、子どもが騒いでいたことも知らなかったらしい。稽古に没入していたのである。

名人は気晴らしに将棋、麻雀、ビリヤード(撞球)をするが、川端康成は次のように語っている。

「麻雀や撞球でさえ、碁の時と同じになって、没我の境にはいってしまうから、相手の迷惑はとにかく、名人自身はいつも真実で、また無垢だったとも言えるだろう。常人の夢中になり方とはちがって、名人はなにか遠くへ失っていた」(p.90)

「なにか遠くへ失っていた」という表現が集中度を表わしている。心理学では、何かに没入している状態を「フロー状態」と呼ぶが、この状態が人の成長を促すと言われている。

普段の仕事の中で、どれだけ没入できるかが学びの深さを決めるのだろう。











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まず30分聞くことに徹する

先日、OJTのワークショップに参加したときのこと。困った若手社員を育てたマネジャーの事例を聞いていて「なるほど」と思ったことがあった。

困った若手の問題行動の背景には、それなりに理由があるのだが、その理由をしっかりと聞くことの大切さである。

そのマネジャーは、若手の話をじっくり聞いたところ、問題を起こす原因がわかり、それ以降は適切な指導方法をとることができたという。

ここで問題となるのは、若手はなかなか本音を語ってくれないという点だ。

「話をしてから何分くらいで本音を語り出しましたか?」と質問したところ、

30分すぎですね」という答えが返ってきた。

もちろん個人差はあるだろうし、聞き方にもよる。しかし、「まずは30分聞くことに徹する」というのは、わかりやすい「教え」である。

30分聞き続けることができるか。そこに育成の鍵があるように思った。

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主よ、憐れんでください

主よ、憐れんでください
(詩編41章5節)


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『仕事と人生』(読書メモ)

城山三郎『仕事と人生』角川文庫

晩年の城山三郎氏を知ることができる「エッセイ+対談+追悼集」である。

本書を読むと、特攻隊に志願した戦争体験が、城山さんの仕事の土台となっていることがわかる。とにかく「まっすぐ」な人である。

最も印象に残ったのは「残された歳月」というエッセイ。その中で、城山さんは次のように語っている。

「それにしても、「今年は」というか、「今年も」、私は、「仕事あっての人生」ではなく、「人生あっての仕事」という思いを、重ねさせられた」(p.14)

仕事中毒の人ほど「仕事=人生」になってしまうが、奥さんを亡くされた後の城山さんは「人生>仕事」になったのだろうか。それにしても、「人生あっての仕事」の意味は深い。

心身の衰えを感じる城山さんは、仕事の仕方についても再考している。

「体力、特に歩く力が、鍛えているつもりなのに、かなり衰えてきている。それだけに、二、三年前から、我が身に言い聞かせるようになっていた。「考えてからやる(シンク・アンド・トライ)」ではなく、「やってみた上で考えよう(トライ・アンド・シンク)」と。人生の持ち時間がすくなくなればなるほど、そのように生きたい」(p.15)

人生の時間は限られている。その意味で、「やってみた上で考える」という生き方が大事なのかもしれない、と思った。

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PDCAと経験学習

先日、QC活動が盛んなIT企業の改善発表会を見学する機会に恵まれた。

QCの7つ道具を駆使した改善活動は大変有効だなと感じた。

と同時に、やはりPDCAサイクルと経験学習サイクルは違うこともわかった。PDCAの場合には、計画(P)に対する評価(C)が行われるわけだが、発表を聞いていると、「目標値と実績値の差」や「改善点」のみに着目した「狭い振り返り」になっていたからだ。

スキルには「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3種類があるが、QCの場合には、テクニカルスキルの改善にばかり焦点が当てられ、ヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルの学びが引き出されていない傾向が見られた。

QC活動は定量的に物事を捉えるという利点があるがゆえに、定量的に捉えられない側面に目が行かないという問題も含んでいるようである。

PDCAサイクルを活性化するためには、評価(C)のステップにおける「振り返りの幅」を広げる必要がある、と思った。



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あなたを尋ね求める人は見捨てられることがない

あなたを尋ね求める人は見捨てられることがない
(詩編9章11節)

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『武器よさらば』(読書メモ)

ヘミングウェイ(高見浩訳)『武器よさらば』新潮文庫

はじめてヘミングウェイを読んだ。

最初のうちはつまらなくて「アメリカ文学は軽いな」などと勝手に思ってしまったが、徐々に引きこまれて、途中から面白くなった。

時は第一次世界大戦。アメリカ人の青年将校フレドリックはなぜかイタリア軍に参戦しており、そこで戦禍に巻き込まれていく。赤十字要員として戦争に参加したヘミングウェイ自身の経験がベースになっているので、迫力がある。

ちなみに、最初の3分の2は戦争の話で、後半3分の1は恋の話である。夢中になって読んだのだが、読んだ後は、前半と後半がつながらなくて、「結局何がいいたいの?」と感じたのが正直なところ。

ただし、ヨーロッパにおいて複数の国が戦っている様子がリアルに伝わってきた。特に、敗戦濃厚なイタリア軍の敗走シーンは絶品である。

ヘミングウェイのメッセージは掴みきれなかったが、ヘミングウェイの経験を共有できたような気がした。


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忙しいから振り返る

職場学習を促すために「振り返り」は欠かせない。

しかし、現場からは「忙しくて振り返っている時間がない」という声を聞くことが多い。

先日、「忙しい中で、いかに業務を振り返るか」というテーマで企業の方々と議論していたとき、「いかに忙しさを解消すべきか、というテーマで振り返ればよいのではないか」という意見があった。

これは素晴らしい発想の転換である。

忙しい現場というのは、仕事の仕方が非効率だったり、仕事の配分が悪かったりするために、個々人が疲弊し、悪循環に陥るケースが多いように思う。

どっぷりと仕事に埋没していると「忙しくて振り返る時間なんかないよ」という考えになりがちだが、「なんでこんなに忙しいのだろう」と一歩引いて振り返ることで、悪循環から抜け出せるきっかけが見つかるかもしれない。

忙しいからこそ振り返り、仕事の仕方を見つめ直す必要がある、と感じた。
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災いの日に、あなたこそわが避け所です

災いの日に、あなたこそわが避け所です
(エレミヤ書17章17節)

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『スケアクロウ』(読書メモ)

マイクル・コナリー(古沢嘉通訳)『スケアクロウ(上・下)』講談社文庫

ひさしぶりにミステリ小説を読んだ。ハラハラドキドキで、グイグイのめりこめるところが、ミステリの良いところだ。

しかし、本書が一味違うのは、新聞記者の世界を実感できるところだろう。リストラ宣告を受けた記者が、最後に一発スクープをかましてやろうという気迫がすごい。それもそのはず、作者のマイクル・コナリーが記者出身だからだ。

えげつない殺人事件がテーマであるが、その記述が最小限に抑えられているところもよい。

なお、スケアクロウとは「案山子」のこと。ITを駆使して犯罪を犯す殺人鬼のあだ名であるが、この憎たらしい悪役が、この小説を盛り上げている。

ちなみに、主人公のマカヴォイは十数年前に大事件をスクープし、出した本がベストセラーになったのに加え、ラリー・キング・ライブにも出演した元有名人なのだが、その後たいした活躍がなかったためにリストラ対象になってしまった。このあたりは、一寸先は闇のメジャー・リーガーのようで、アメリカらしい。

本書で最も感銘を受けたのは、あと2週間でリストラという立場で、一発逆転のスクープを「俺が書く!」という執念でのたうち回るマカヴォイの姿である。単なるハラハラドキドキ小説と違うのは、その点にある。

こだわりと執念を持って仕事をすることの大切さを感じた。







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