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『ひとりが好きなあなたへ』(読書メモ)

銀色夏生『ひとりが好きなあなたへ』幻冬舎文庫

「そして君は途方に暮れる」などの作詞で知られる銀色夏生さんの詩集。万華鏡の写真(著者撮影)と詩が交互に織り込まれているところも斬新である。

良かったのは次の詩。

ぼんやり、空を眺めて、鳥が飛ぶのを見てた。
鳥は、飛ぶね。
あんな、力を入れないふうに。
なに考えてんだろ。
鳥は、いいね。
いいのかな。
いや、違うかな。
鳥の気持ちはわからない。
僕の気持ちもわかられない。
だれの気持ちもわかるわけない。

(p.64-65)

あとがきも印象的だった。

「ひとりが好きなあなたへ、というタイトルの本を作りたいと思ってから、この原稿を書き終えるまで、時間はあまりかかりませんでした。だいたいひとつの気持ちで書きました。この中にとても好きな文があります。なぜその時にその言葉がでてきたのかわかりませんが、その2行を書けたから満足です」(p.158)

「2行が書けたから満足」という点がいい。

気負いのない、自然体の詩に癒された。




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『ダウン・バイ・ロー』(映画)

『ダウン・バイ・ロー』(1986年、ジム・ジャームッシュ監督)

大学生のとき、小樽にある「サード・ベース」という(今はない)小さな映画館で観たことがある白黒映画。

名監督ジム・ジャームッシュの作品だったので観にいったが、寝てしまった思い出がある。しかし、改めて観るととても面白かった。

DJのザック(トム・ウェイツ)とポン引きのジャック(ジョン・ルーリー)が無実の罪で刑務所に入れられ同室になったところに、英語の苦手なイタリア人ロベルト(ロベルト・ベニーニ)が入ってくる。ロベルトの提案で3人は脱獄に成功し、それぞれの道を歩むという物語。

特別なメッセ―ジもないのだが、それぞれの役者の味が出ていて、映画の質感がとてもよい。

Wikipediaによれば、"Down by law"とは、刑務所のスラングで「親しい兄弟のような間柄」という意味らしい。

ザックとジャックは一匹狼同士で仲が悪いのだが、そこにお調子者で楽観的なロベルトが入ることにより「チーム」になる。ロベルトはうるさいだけでとてもリーダーという柄ではないのだが、やはりチームを率いているのはロベルトである。

この映画をみて「道化的リーダーシップ」もあるのだな、と思った。






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力は弱さの中で十分に発揮されるのだ

力は弱さの中で十分に発揮されるのだ
(コリントの信徒への手紙Ⅱ12章9節)

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『17歳のカルテ』(映画メモ)


『17歳のカルテ』(1999年、ジェームズ・マンゴールド監督)

以前読んだ『パーソナリティ障害』(岡田尊司著、PHP新書)で紹介されていたので観てみた。

この映画は、境界性パーソナリティ障害(深い自己否定感を持ち、躁鬱状態を行ったり来たりする症状)で入院歴のある女優ウィノナ・ライダーが、原作(実話)を読んでほれ込み、製作総指揮を取って作ったらしい。

境界性パーソナリティ障害を持つ主人公スザンナ(ウィノナ・ライダー)が精神病棟に入院し、さまざまな障害を持つ患者たちと交流し、友情・対立・悲劇・成長を経験するという内容である。

ウィノナ・ライダーも良かったが、何と言っても存在感があったのは、リサ役のアンジェリーナ・ジョリー。リサは(たぶん)反社会性パーソナリティ障害を持っていて、人の弱みや心の傷を徹底的にえぐり、相手が死んでも悲しまない冷酷な性格の持ち主。

「あなたの心は死んでいる」というスザンナの言葉に、苦しみながら「私の心は死んでいない」と応えるリサ。

この場面を見て、「パーソナリティ障害は、変える必要があるし、実際、変えることができる」という岡田先生の言葉を思い出した。

どんなに重篤な障害を抱えていても、人は成長できる、と感じさせる映画である。

ただし、メンタルが弱っているときには観ない方がいいかもしれない…








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『紙の動物園』(読書メモ)

ケン・リュウ(古沢嘉通 編訳)『紙の動物園』(早川書房)

表紙のイラストがかわいかったので買ってみた。
(ちなみに、このイラストは著者の奥さんが書いたもの)

著者のケン・リュウは、中国に生まれ、11歳で米国に移住し、ハーバード大で英文学とコンピューターサイエンスを修めてプログラマーとなり、その後、ハーバード・ロースクールで法律を学んだという。現在、特許関係の弁護士をしつつ短編小説を書いているらしい。

収められている短編は、どれも「哀しさ」と「優しさ」が絶妙に織り込まれた作品である。

表題の「紙の動物園」は涙なしでは読めない名作であるが、個人的には「文字占い師」が良かった。

どの作品も、「中国」「IT」「法律」といった軸に沿って描かれているのが印象的である。どの軸も著者の出自・仕事・関心とつながっているので、作品に迫力がある。

本書を読み、良い仕事をする上で軸を持つことの大切さを感じた。

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神に従う人は必ず実を結ぶ

神に従う人は必ず実を結ぶ
(詩編58章12節)
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『あるがままに自閉症です』(読書メモ)

東田直樹『あるがままに自閉症です』角川文庫

会話のできない重度の自閉症である東田さんのエッセイ。しかし、その文章は、シンプルかつ論理的で、深い

本書を読み、重い障害を持ちながらも、学び続ける姿勢に感銘を受けた。

例えば、東田さんは「自分の意思で物を取る」ということができなかったという。

「自分で取る発想がなければ、物を取るために自分の手をどれくらい伸ばして、どう動かせばいいのか考えられません。けれども、自分でつかむことを何度も練習するうちに、だんだんできるようになったのだと思います」(p.24)

そんな東田さんが、なぜ優れた文章を書けるようになったのか?

「僕は一人で朗読CDを聴きながら文学作品の文章を目で追ったり、英語のラジオ講座を聴いてロールプレイをしたりすることが、少しずつできるようになってきました。それまでは母が音読しながら、今どこを読んでいるのかを指で指してくれていました。CDの速さに合わせて、目がついていかなかったからです。文字を一文字ずつ読んでいたせいで、遅れてしまっていたのでしょう。そのうち、単語をひとまとまりで読めるようになり、ようやく文章もCDに合わせて、黙読できるようになりました。あきらめずに勉強し続けてきて良かったと思うのは、みんなの話の内容がよくわかるようになったこと、いろいろなことに興味を持てるようになったことです。知識が増えても、僕の障害自体が良くなることはないのかもしれませんが、生きがいにはつながっています」(p. 56-57)

学ぶことと生きることが直結していることが伝わってくる。

「僕が使う比喩の的確さや語彙力は、子供の頃からの教育のおかげだと思っています。家庭では、発達検査で出された数値ではなく、僕の興味にそった学習を続けました。高校生までは、かなりの時間を勉強にあてていました。文章力は、書くことを続けた結果です。最初に物語をつくったのは、僕が四歳の頃です。七歳になると作文コンクールに応募を始めました。そして十二歳の時、作家になるきっかけとなった、グリム童話賞大賞(中学生以下の部)を受賞することができたのです。2017年までに、僕は二十冊の本を出版しました」(p.188)

僕の興味にそった学習」を「継続した」ことがポイントなのだろう。

この本を読んで、人間の可能性と底力を感じた。


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『生きる』(映画メモ)


『生きる』(1952年、黒澤明監督)

ミイラ」とあだ名がつけられるほど無気力な渡辺(志村喬)は、市役所の市民課・課長。しかし、胃がんで余命が短いと知ってから、要望があった公園建設に邁進する。そして、あの有名な「公園でブランコに乗るシーン」で亡くなっていく。

この映画で最も印象に残ったのは、渡辺の葬式に参加した部下や関係部署の役人が、それぞれの情報を持ち寄りながら、渡辺の行動を振り返る場面

集団リフレクションの結果、徐々に渡辺の凄さがわかり、皆が感極まって「明日から俺は変わるぞー」と盛り上がる。しかし、翌日の職場ではいつも通りのお役所仕事に戻ってしまう

このシーンを見て「研修に参加している途中はモチベーションがマックスになるものの、職場に戻ると冷めてしまう管理職」の実態がよくわかった。







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悪事については幼子となり、物事の判断については大人になってください

悪事については幼子となり、物事の判断については大人になってください
(コリントの信徒への手紙Ⅰ・14章20節)

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『日本国憲法』(読書メモ)

『日本国憲法』講談社学術文庫

BBC放送のHard Talkという番組を聞いていると、各国の政治家や活動家たちが、憲法を拠り所にした議論をしていることが多い。自国の憲法をしっかり読んだことがなかったので買ってみた。

人権や個人の尊重が全面に出される第三章(国民の権利及び義務)を読んでいて気になったのが「公共の福祉」という概念。

第13条【個人の尊重と公共の福祉】すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
(p.17)

公共の福祉って何だっけ?」と思ってWeb検索していたら、いろいろと論争があるらしいことがわかった。

その中でもわかりやすかったのが、法学館憲法研究所の「中高生のための憲法教室」に載っていた解説。

「個人が最高の価値であるのならば、その個人の人権を制限できるものは別の個人の人権でなければなりません。つまり個人の人権を制限する根拠は、別の個人の人権保障にあるのです。(中略)すべての人の人権がバランスよく保障されるように、人権と人権の衝突を調整することを、憲法は「公共の福祉」と呼んだのです。けっして「個人と無関係な社会公共の利益」というようなものではありません。また「多数のために個人が犠牲になること」を意味するのでもありません」
http://www.jicl.jp/chuukou/backnumber/09.html

集団や組織の中では「人権と人権が衝突する」ことはよくあるが、それを調節することは容易ではない

「個人を尊重すること、人権を尊重すること」の難しさを感じた。

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