goo

『火宅の人』(檀一雄)

千歳空港の本屋さんでふと目にとまった『火宅の人』(檀一雄)を買った。

上下巻を読んだ感想を書こうとしたが、なんとも言葉にしにくい。「とにかく読んでください」というしかない。男性であれば、何かを感じるはず。単純だけど複雑で、妙にインパクトのある小説だった。

ストーリーは、奥さんや子供たちを放ったらかして、自分の思うがままに女性とつきあう小説家の物語。作者、檀一雄さんの自叙伝的な小説であるらしい。しかし、放ったらかしている子供たちに注がれるあたたかいまなざしや、自分のしていることをどこかで「おかしい」と感じつつも、天然の旅情にわが身をまかせる主人公の「揺れる気持ち」が伝わってくる。

文体があっさりとしていて、明るいので、暗くなりがちな内容も抵抗なく読める。シンプルだけど読ませる文章は、さすが「日本浪漫派」の作家だけある。20年をかけて書かれたというこの小説の大半は、豪快でハチャメチャな生き方が描かれているが、最後の方は、仕事や収入も減って、女性も去っていき、物悲しい雰囲気が漂う。

人間の弱さや愚かさを、そのまま描き出した、凄い小説だと思った。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )