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『菊と刀』(読書メモ)

ベネディクト(角田安正訳)『菊と刀』光文社古典新訳文庫

文化人類学者であるルース・ベネディクトが、第二次世界大戦中に、米国戦時情報局の依頼を受けて書いた報告書が本書のベース。

日本は「菊の栽培にあらん限りの工夫を凝らす美的意識」を大事にする一方、「刀をあがめ武士をうやうやしく扱う」文化を持つ、という点がタイトルの意味である(p. 15)。

本書の目的は、第二次世界大戦が終結した際、あっさりと負けを認めてアメリカを受け入れ、「軍国主義」から「平和国家」に大きく舵をきった日本の「変わり身のはやさ」を分析すること。

その答えは「文化の型」にある。

欧米がキリスト教の原罪をベースにした「罪の文化」を持つのに対し、日本は世間の目を気にする「恥の文化」を持つ(p. 352-353)。

「恥は周囲の人々の批判に対する反応であり」、「日本人はだれもが自分の行いに対する世評を注視する」(p. 354-356)、「日本では、個人にかかる社会的圧力が非常に大きい」(p. 495)とベネディクトは分析する.

だから、明治維新後も、「日本人は、世界の中で尊敬を集めたい」(p. 275)という焦燥に駆られて軍事力を強化したが、もともと原理原則があったわけではないため、戦争に負けると、あっさりと方針を切り替えた日本

ベネディクトは言う。

「日本は、平和国家として出直すにあたって真に強みをそなえている。それは、ある行動方針について「あれは失敗した」と一蹴し、エネルギーを注ぎ込む経路を切り替えることができるということだ。日本人の倫理は、方針転換の倫理である」(p. 478)

印象に残ったのは次の箇所。

「現代の日本人が自分自身に対して行う攻撃的な行動はさまざまであるが、その最たるものは自殺である。日本人の物の考え方によれば、しかるべく自殺すれば、汚名はすすがれ、個人は立派な人だったという評判を取り戻せる」「日本人は自殺に対して敬意を払う。したがって、自殺は立派な、甲斐ある行為となる」(p. 264)

この点は今でも色濃く残っているように思う。

なお、本書を読んで一番驚いたのは、ベネディクトが日本を一度も訪れたことがなかったこと。米国戦時情報局が集めた大量の情報を分析し、日本からの移民にインタビューしたベネディクト。

こうしたアプローチをとったほうが、主観を交えず、客観的に分析することにつながったのかもしれない、と思った。

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