ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

ローカルブドウ品種のワインー仏ボルドーの例

2021-01-08 21:57:51 | ワイン&酒

3日連続で取り上げてきた(チリ、アルゼンチン、日本)ローカルブドウ品種ワインを紹介するシリーズ4日目は、フランスのボルドーです。

 

ボルドーワインでローカル品種?といっても想像しにくいかもしれません。

高価なメドック格付けワインで知られるボルドーは、赤ワインならカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロ、カベルネ・フランといった著名国際品種がすぐに浮かんできます。

ほかにどんな品種があるか、ご存じですか?

 

2020年12月、ボルドーと日本をZOOMでつないだオンラインセミナーが、ボルドーワイン委員会の主催で開催され、そのテーマが「正統派だけじゃないボルドーワイン」でした。

そこで登場した品種のワインに、「そう来たか!」と大いに納得させられたので、皆さんにも紹介したいと思います。

 

ボルドーの赤ワイン用のブドウで、一番栽培面積が多いのがメルロです(66%)。

次がカベルネ・ソーヴィニヨン(22%)、カベルネ・フラン(9%)と続きます。

この3品種で97%ですから、ボルドーの赤ワインといえば、大半がこの3つのどれかでできているわけです。

 

が、ボルドーの赤ワイン用品種は、あと3つあり、合計6品種あります。

マルベック(2%)、プティ・ヴェルド(1.5%)、カルメネール(0.05%)で、主要3品種にこれら補助3品種を加えることで、ブレンドの幅が広がります。

 

補助品種3つは、昔はもっと使われていましたが、カベルネやメルロの台頭で、生産の一線から後退してしまいました。

しかし、近年、この昔ながらの品種に注目を寄せる生産者が増え、脚光を浴びています。

その背景には、温暖化による気候変動や、新しいスタイルの赤ワインを創出する必要性などがありました。

 

先述したように、ボルドーの赤ワインの多くが、主要3品種で造る伝統的なスタイルです。

生産者により、使用ブドウ品種数、比率はさまざまで、産地のテロワールの違いもありますが、それでもボルドーらしい伝統的なスタイルの赤ワインの枠内に収まっているものがほとんどでしょう。

となると、消費者サイドとしては、「飽きてくる」こともあるわけです。

 

そこで、補助3品種に注目し、これらを加えて商品ラインナップの幅を広げ、さらには、補助品種単体にフォーカスした商品の開発へと進んでいきました。

 

 

今回の紹介アイテムの中にも、補助品種単体のワインがありました。

オンラインセミナーでしたが、試飲ワインを事前に送っていただいたので、試飲しながらのセミナーです。

 

 

Château Recougne Cuvée Carménère 2014 (AOCボルドー・シュペリウール)

シャトー・ルクーニュ・キュヴェ・カルメネール 2014

 

カルメネール100%の赤ワインで、右岸のラランド・ポムロルの近郊の畑から来ています。

ボルドーのカルメネールは19世紀のフィロキセラ禍で姿を消しましたが、それを復活させた中心人物が、シャトー・ルクーニュの3代目グザビエ・ミラード氏です。

グザビエ氏は、1850年代のカルメネールの樹をサン・テミリオン近郊で見つけたことから実験が始まり、2000年には古株のセレクションを構成。

多彩なワインを造るためのアッサンブラージュ用にと栽培しましたが、温暖化が進む現代にはピッタリの品種となりました。

 

というのも、アルコールが低めに仕上がりやすいので、口当たりのいい飲みやすいワインが造れるからです。

デメリットは、収量が低いこと、収穫時期の見極めが難しいこと。

 

しかし、「困難があるからこそチャレンジのしがいがあり、進歩につながる。

ボルドーのイメージを変えられたら、次世代のやる気がアップする」と、グザビエ氏の息子で4代目のマルク・ミラードさんは言います。

 

シャトー・ルクーニュ 4代目 マルク・ミラードさん

 

「新しいトレンドを考えたキュヴェのひとつとして、このカルメネール100%ワインを紹介します」とマルクさん。

熟成に樽は使っておらず、ステンレスタンクのみ。

 

飲んでみると、まず色が濃く、熟成のニュアンスも色と香りに出始めています。

ワインらしい香りがあり、甘いスパイスの風味、熟成の味わいが出ていますが、酸が多く、若さがまだしっかり残っています。

タンニンはよく溶け込んでなじみ、やわらかなまろみが感じられ、ボディはしなやか。味わいに複雑味があり、余韻も長く、香りも素晴らしいワインで、これはおいしい!

 

マルクさんによると、

ペッパーのようなスパイス、熟度の高いノーブルなベジタル香、ハーブ感があります。

ハツラツとして、みずみずしさ、なめらかさ、まろみのあるしなやかさがあり、アロマが余韻の長さを作り出しているそうです。

 

「果実味豊か、甘みがあり、しなやか」という、現在のトレンドに入る赤ワインだそうで、マーケットのニーズに沿ったワインづくりを進めていくとのこと。

カジュアルなシーンでワインを楽しむ若い世代のニーズにも合うワインを提供したいそうです。

 

日本には30年前から1社が継続して入れているそうですので、これは日本で買えます

寿司、刺身、天ぷらでも楽しんでほしい、と言っていましたが、ネタ次第でしょうか(笑)

 

ワイナリーでは、川に面した畑で、赤品種はカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フラン、カルメネール、白品種はソーヴィニヨン・ブラン、ソーヴィニヨン・グリ、セミヨンを栽培しています。

ラベルがトラディショナルなので、よくあるボルドーワインに見えがちですが、「CARMENERE」の文字を見逃さず、見つけたらぜひ試してみてください。

 

※輸入元:JSRトレーディング  希望小売価格:3,300円(税抜)

 

 

Petit Verdot by Bell-Vue 2018  Château Bell-Vue (AOCボルドー)

プティ・ヴェルド・バイ・ベルヴュ 2018 シャトー・ベルヴュ

 

次はプティ・ヴェルド100%の赤ワインです。

プティ・ヴェルドのボルドーでの栽培比率が1.5%なのに、シャトー・ベルヴュでは所有する畑の20%がプティ・ヴェルドです(2.05ha)。もちろん、これは非常に珍しいことです。

しかも、プティ・ヴェルドの樹の樹齢が80年以上という古木がほとんどといいますから、昔から大切に守ってきたことがわかります。

 

実はプティ・ヴェルドは、19世紀末から20世紀のボルドーで多く栽培されていました。

収量が高い品種でしたが、晩熟タイプのため、次第に忘れられていきます。

しかし、近年の温暖化で、見直されてきました。

イノベーションが進み、収量管理が近代化したこともあります。

 

シャトー・ベルビュのゼネラルマネージャー ヤニック・レイレルさん

 

樹齢80年以上のプティ・ヴェルドはボルドーの遺産であり、それを世界に発信するためにプティ・ヴェルド100%のワインを造った」とヤニックさんは言います。

 

ヤニックさんによると、プティ・ヴェルドはタンニンが多い品種なので、手摘みで収穫後は選果をしっかり行ない、除梗をします。

4℃という低温で10日間のマセラシオン(浸漬)を行なうことで、クリアでピュアな果実味とアロマを出しているとのこと。

ステンレスタンクで12日間のアルコール発酵後、一部を粘土製のアンフォラへ、一部を400リットルの木樽に入れます。

 

多孔質のアンフォラは果実本来の豊かさを出し、

木樽は粘性を高め、甘みを含ませるため、

両者の併用により、おいしさを出し、マーケットが求めるエレガントなワインになると言います。

 

飲んでみると、こちらも色は濃い赤紫で、複雑でノーブルな香りがします。

アタックはまろみがあり、やわらかでなめらかなボディにビックリ!

まだ2018年なのに、すでにおいしく飲め、複雑味も出ています。

 

ヤニックさんも、

「濃厚なフルーツの香りペッパー系のスパイシーな香りがあります。タンニンは存在感たっぷりで、骨格がありますが、ビロードのようななめらかさががあり、濃密、濃厚です。今飲んでもおいしく、収穫から10年くらいは熟成させて楽しめるでしょう」とコメント。

 

このプティ・ヴェルド100%のワインも素晴らしかったですが、日本未輸入とは残念…

 

 

ボルドーでは補助品種として扱われてきた品種を、生産者自らが改めて光を当てることで、今の時代にもふさわしい新たなカテゴリのワインが生まれています。

今ではチリの方が有名になってしまったカルメネールも、プティ・ヴェルドも、元はボルドーのローカル品種。

新しいけれど、実はトラディショナルなボルドーのローカル品種100%のワインは、要チェックですね

 

今回取り上げられなかったもう1本のワインは、機会を改めて紹介します。

 


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