ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

第 7回 Domaine Jean Pillot & Fils@「キャッチ The 生産者」

2008-12-28 15:46:54 | キャッチ The 生産者
「ワイン村.jp」 (社団法人日本ソムリエ協会 オープンサイト)(2004年5月~2008年12月終了)に連載していた「キャッチ The 生産者」(生産者インタビュー記事)を、こちらにアップし直しています。
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。

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  (更新日:2005年1月21日)

第 7回  Jean-Marc Pillot  <Domaine Jean Pillot & Fils>



第7回目のゲストは、 フランスはブルゴーニュの生産者、ジャン・マルク・ピヨさんです。
ピヨさんはコート・ド・ボーヌの Chassagne-Montrachet(シャサーニュ・モンラッシェ) でワインづくりをしていますが、日本各地でのテイスティングセミナーのため、2004年12月に来日しました。
今回は、東京でのセミナーを終えたピヨさんに、彼のワインを飲みながらお話を伺いました。



シャサーニュ・モンラッシェは、隣接するPuligny-Montrachet(ピュリニー・モンラッシェ)とともに、偉大なるブルゴーニュの白ワインMontrache(モンラッシェ)やBatard-Montrachet(バタール・モンラッシェ)などを生み出す村ですが、グラン・クリュ以外では、いまひとつ印象が薄いAOCかもしれません。

じゃあ、グラン・クリュ以外の白ワインはどうなの?
また、実は生産量の半分以上を占めるという赤ワインについてはどうなの?と、実に疑問だらけです。

では、そんなシャサーニュ・モンラッシェでワインづくりをしているピヨさんのワインとは、一体どんなワインなのでしょうか?


<Jean-Marc Pillot>
1965年生まれ。シャサーニュ・モンラッシェで歴史あるドメーヌの5代目オーナーであり、エノロジスト(醸造家)。
12歳の頃から父の仕事を手伝う。ボーヌの醸造学校を卒業後、1985年にドメーヌに入る。
他のドメーヌでの修業も経験し、1986年から妹のベアトリスとともにドメーヌ・ピヨを引き継ぐ。
現在、生産量6万本のうち80%を輸出し、主要輸出先は、1位:アメリカ、2位:イギリス、3位:日本。




Q.ドメーヌ・ピヨの歴史を教えて下さい。

A.祖父の代まではトヌリエ(樽職人)もやっていました。
1900年代の頃はバルク売りをしていましたが、1930年頃からは瓶詰めをするようになり、仕事量が増えたと聞いています。
父ジャンの代になると畑も増えてきたので、樽作りはやめて、本格的にワインづくりに取り組むようになりました。


Q.現在のドメーヌの体制を教えて下さい。

A.父はすでに引退しましたので、母と妹と私の3人でやっています。家族経営の小さなドメーヌです。私の妻はドメーヌの仕事には関わっていません。
ピノ・ノワールとシャルドネを5haずつ、合計10haの畑から赤ワインと白ワインをつくっています。


Q.あなたのワインづくりについて教えて下さい。

A.できるかぎり"良いぶどう"をつくるようにしています。例えば、最適な時期に余分な芽や葉を摘み取り、グリーンハーベスト(*1)も行います。
これらは全て手作業で、収穫ももちろん手摘みで行います。

収穫したぶどうは100%除梗し、ピュアなアロマを残すよう、空気圧でプレスします。こうすると、絞ったジュースが酸化しません。
マロラクティック発酵(MLF)(*2)は毎年100%行い、MLFが終わるまでバトナージュ(*3)は欠かしません。
新樽の使用率は25~30%で、12ヵ月の熟成期間中、オリ引きは1回のみです。フィルターはかけません。


Q.シャサーニュ・モンラッシェの特徴は何でしょうか?

A.全体的に "力強さ"が特徴と言えるかと思います。
また、食事を楽しむためのワインでもありますし、誰にでも好きになってもらえるワインであると思います。
土壌的には、岩盤がむき出しになって崖になっている場所があり、その岩盤から直接ぶどうの樹が生えていますので、そこから吸い上げたミネラルで、生き生きとしたワインができます。


Q.シャサーニュは"白"のイメージが強いですが、赤ワインの特徴は?

A.シャルドネ用とピノ・ノワール用の畑は違います。ピノ・ノワールを植えている畑には、コート・ド・ニュイのヴォーヌ・ロマネと同じ、ジュラ紀に堆積した土壌が少し見られます。
シャサーニュの赤は、5年から8年熟成させると飲み頃になってくるワインです。ヴォーヌ・ロマネと同じ土壌の赤、ということを考えると、プライス的にお買い得ではないでしょうか?(笑)


Q.あなたとお父さんのワインのスタイルの違いは?

A.父は15~18ヵ月の樽熟成をしていました。が、長く樽に入れていると、せっかくのアロマが失われてしまいますので、私は1990年からは樽熟成は12ヵ月にし、フレッシュ感を残したまま瓶詰めするようにしています。
こうすると、花やフルーツのフレッシュな香りが残ります
瓶詰め後は、セラーで1年間寝かせてから出荷します。


Q.リュット・レゾネ(減農薬農法)でぶどうを栽培しているそうですが、ビオディナミ (*4)については、どのように考えていますか?

A.98年のように、ウドンコ病やベト病が広く発生したときには、ビオディナミが役に立たない年もありました。
私は、環境を守ることを第一としていますので、薬品を使わざるを得ない場合は、必要なところにのみかけ、噴霧器は使いません。また、益虫を増やすことができるような畑をめざしています。


(*1) グリーンハーベスト:
1本のぶどう樹の房数を制限するため、まだ未熟な段階の青い房を摘み取って落とすこと。

(*2) マロラクティック発酵(MLF):
主発酵の後、ワイン中のリンゴ酸が乳酸菌の働きによって乳酸に変化する現象。ワインの酸味を和らげ、複雑な香味を増す効果などがある。

(*3)バトナージュ:
タンクや樽の中のオリを攪拌して混ぜること。酵母に含まれる旨味成分を抽出し、酸化を促す効果などがある。

(*4) ビオディナミ:
英語では"バイオダイナミックス"。化学肥料や薬品を使用せず、独自の自然調剤を用い、暦や月の満ち欠けなどに従った独特の理論によって栽培を行う農法。





今回のテイスティングセミナーで提供されたワインは下記の5本(いずれも白)

1)Saint Romain Blanc 1999

2)Chassagne-Montrachet 1er Cru les Marcherelles 2000

3)Chassagne-Montrachet 1er Cru Morgeots 2000

4)Chassagne-Montrachet 1er Cru les Vergers Clos Saint Marc 2001

5)Meursault Genevrieres 1er Cru Cuvee Baudot 2001 Hospices de Beaune


ドメーヌ・ピヨでは、白のトップワインとして、グラン・クリュのChevalier-Montrachet(シュヴァリエ・モンラッシェ)、また、Puligny-Montrachetの1級や、Meursault Charmes(ムルソー・シャルム)など、赤ワインでは、シャサーニュ・モンラッシェ1級はもちろん、お隣の村、Santenay(サントネイ)のワインもつくっています。


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インタビューを終えて


一見まじめな職人風で、最初はちょっと口数の少なかったピヨさんでしたが、グラスが進んで口もだんだんとなめらかになってくると、

「僕って、あの自動車会社社長のゴーンに似ていない?」

と、一番似ているという横顔の角度でポーズまで取ってくれました。


この横顔、本当にゴーン氏そっくり!

そんなお茶目なピヨさんに、同席していた一同はみな大爆笑!
年齢をうかがったら意外と若く(失礼)、話をすればするほど、彼の魅力にどんどんと引き込まれていきました。



さて、肝心のワイン。
今回のテイスティングセミナーで提供されたのは白ワインばかりですが、どのワインも酸がしっかりとベースにあるのを感じました

やや樽のニュアンスが強めに感じる(2)や(4)、香ばしいナッツの香りを持ち、デリケートで心地よい酸味の(3)など、それぞれに個性があります。
特に(4)の酸には力強さがあり、しかもその余韻が非常に長く感じられました。これは長期熟成に耐えられるワイン、とピヨさんが言うだけのことはあります。

年にもよりますが、シャサーニュの白は10~20年は熟成可能とのこと。
もちろん、良い状態で保管できればの話です。


今回テイスティングした1級クラスのシャサーニュは、"偉大"とまでは言えないものの、そっとそばに寄り添ってくれるようなワインたちで、食事のお供にはもちろん、くつろぎの時にそのままずっと飲み続けていたいような、非常に心地よい余韻が実に魅力的でした。

普段から気軽に、そして長く熟成させたものはちょっと特別なときに。
そんな幅広い楽しみ方ができるのが、シャサーニュの魅力かもしれません。


*取材協力: Wijnhandel Herman B.V.

       (Special thanks to Masaki Takeshita)


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