拝島正子のブログ

をとこもすなるぶろぐといふものを、をんなもしてみむとてするなり

さらば、江戸川(ヨハネ受難曲の本番でした)

2023-04-29 20:37:41 | 音楽

昨夜からの時系列。本番前には肉を食え。と言うから、豚肉を叩いてシュニッツェルにした。

で、本番の今朝。白井の会場に向かう途中、小さな花の群生が目にとまる。万太郎にあやかるマータローとしては見逃せない。

で、いよいよ本番。麹味噌合唱団(仮名)で、曲はバッハのヨハネ受難曲(これはホント)、私は合唱のアルトで参加(これもホント)。思えば、季節合唱団であるこの団が今回の募集を始めたとき、私は、体調不良を錦の御旗に掲げていたから参加意欲は減退気味であった。だが、第1回の練習後のフェイスブックのお友達たちの「楽しかった」のコメントを見て、もともと錦の御旗はインチキぽかったから、歌いたくてたまらなくなり参加。ところが、今回、結構、メンバーが入れ替わっていて、カウンターテナーに対する化け物を見るような視線を久々に感じた。日本もまだまだである。

私は本番ではアルトのテナー寄りの端っこに居を構えるのが常であるが、1年前の本番のとき、右のアルトはプロ。左のテナーは助っ人のプロ。今回、人は入れ替わっているが、やはり右のアルトはプロ(本来はソプラノ歌手)、左のテナーは助っ人のプロもどき(強烈な声の持ち主)。いやいや毎年ながら、わくわくする席順でございまする。

ヨハネはマタイと違って、怒濤の進行。緊張感のある合唱が次から次へと続いたと思ったらもうWohin(後半のバスのアリアで、合唱がときどき「Wohin?」(どこへ?)と入る)。そのWohinで、ヴァイオリンと低弦(チェロ+コントラバス)の掛け合いに聴き惚れ、かつ、へー、ここでヴァイオリンはこんな動きをしてるんだ、と感心してたらあやうく合唱の出番に入り損ねるところだった。とにかく、今回、ソリストとオケの面々(プロのみなさん)が超すばらしかった。

そして帰路。会場から白井駅までを、普通人が通らない脇道を進んでいったら池にでくわした。

私は池好きである。さて、きっと、お友達は早々に電車に乗ったんだろう、あるいはどこぞのお店で打上げをやってるんだろう、しかし、私は日のあるうちに江戸川を渡らなければならない。写真に撮るためである。

私は、毎回、麹味噌合唱団はこれで最後との覚悟をもって挑んでいる。もし、今回で最後となったらこの江戸川の風景も二度と見られないかもしれない。だから、最後になるかもしれない江戸川の写真にこだわったのである。

とか言って、数日後に江戸川を超えた先での飲み会が決定しているので、あと一度は江戸川を渡ることは確か。とにかく、今日は、公の打上はなかったので、綾瀬でお一人様。綾瀬でのお一人様こそ、今日が最後かも知れない……とか思って駅前の中華に入ったら、テレビがついていて、最強の動物は何か?って話をしている。おお!普段、飲食店のテレビなんぞ邪魔以外の何者でもないと思っているのだが、これだけは見入ってしまった。すると、近くのテーブルの家族連れの中の就学前と思しき女子が私の脇に来て一緒にテレビを見ている(その家族の席からはテレビが見られない)。ね!面白いよね!第1位は当然シャチだと思いながらもお皿も紹興酒の瓶も空になり、反面胃袋は満タンになったので、結果を知らぬまま店を出る。当然シャチですよ、じゃなきゃおかしい。

 


バックハウス

2023-04-29 05:55:13 | 音楽

今週の朝ドラの最初の方で、綾(主人公の姉)が好きな男を目にとめるシーンで一瞬流れたのが例によって無伴奏のチェロ。その直後、その男に寄り添う女が現れたとき流れたもの悲しいメロディーはクラリネットでありました。とか書いといて、今日はピアノネタでござんす。

初めてピアノのプロの生演奏を聴いたのは、中学生のとき、神奈川県立音楽堂での安川加壽子だった。県立音楽堂が月に一回開催していた無料コンサートだった。休憩時間に事務所で次の回のチケットをもらえたので、しばらく通っていた。霧生トシ子のピアノや久保陽子のヴァイオリンを聞いたのもここだった。

初めて買ったピアノのレコードは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の第2番と第4番のカップリングだった。このときは、第5番「皇帝」よりも第4番が好きだった。ピアニストはケンプだった。暖かいピアノだった。ケンプがバッハのカンタータをピアノ用に編曲して弾いていたことは最近になって、某会でN中先生が弾いて聴かせてくれて知った。

初めて買ったベートーヴェンの「皇帝」のレコードは、クライバーンの演奏だった。街のレコード店にこの演奏しかなかったので選択の余地はなかった。アメリカ人でありながらソ連のチャイコフスキー・コンクールに乗り込んでいって優勝し、帰国後、オープンカーで凱旋パレードをした等々は、ライナーノートを読んで知った。第1楽章の展開部で、「ジャンジャジャーン」をピアノとオケが張り合うところとか大層華やかな(派手な)演奏だった。こういうのがアメリカ人の演奏?と思った。その後、その名はしばらく聞かなかった。久々に聞いたのは、辻井伸行さんがクライバーンの名を冠したコンクールで優勝したときだった。

初めて買い揃えたベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は、バックハウスのモノーラル録音の方。当時、レコードは1枚2000円(その後、200円ずつ値上がっていった。インフレの時代だったから。今再びインフレである。日銀の前総裁は、おやめになるときようやく「もはやデフレではない」と認めた)。だが、古い録音は廉価版と言って1000円で売っていた。バックハウスのベートーヴェンのソナタは、ステレオの新録音が2000円で、モノーラルの旧録音が1000円だった。高校生の私は、月の小遣いが1000円。それをそのままバックハウスの旧盤の購入に充てたのである。全32曲で何枚だったかは忘れたが、全曲揃ったとき私は既に大学生だった。最後に買ったのは第27番が入ってるやつだった。

ベートーヴェンのピアノ・ソナタで一番好きなのは第29番「ハンマークラヴィーア」。当然バックハウスで聞いていたのだが(この曲だけは、バックハウスは再録音しなかったので、新全集のそれは、旧録音を機械的にステレオにしたもの(擬似ステレオ)である)、私が大学生のときポリーニのレコードが出て評判になった。聴いたらやたらに速くてスポーツカーのよう。なじめなかったが、聴いてるうちにだんだん良くなってきて、いつの間にかポリーニ・ファンになっていた。ポリーニがこの曲を弾くのをサントリーホールで聴いたこともある。舞台に現れピアノの前に座るやいなや弾き始めた(舞台に登場して拍手が鳴り終わる前にタクトを振り下ろしたクライバーのよう。因みにクライバーとポリーニは友人同士である)。私の席は、舞台に向かって左側のステージの真横。ポリーニの背中越しに、ピカピカのピアノにポリーニの手が映ってて特等席だった。そんなこんなで、しばらくバックハウスのことを忘れていたのだが、数年前にホントに久々に聴いて、その悠然かつ堂々とした演奏に打ちのめされた。特に、第1楽章の展開部から再現部に入っていくところは他の追随を許さないと思った。

そのバックハウスは、池田理代子の「オルフェウスの窓」の最後の方に、没落するイザーク(主人公の1人)と入れ違いに神童として登場する。「オルフェウスの窓」は妹が持っていた単行本を読んだ。妹は第6巻までしか持ってなかったが、話はまだまだ続くということで、その先が気がかりだった。全冊大人買いして読んだのは大人になってからである(だから「大人買い」と言ったのである)。

因みに、Wikipediaの「オルフェウスの窓」のページには、作中の実在の人物欄があるが、そこに「バックハウス」の名は記されていない。編者にとって情報価値が低かったのだろうか。