拝島正子のブログ

をとこもすなるぶろぐといふものを、をんなもしてみむとてするなり

高齢者(フィレンツェ)

2023-04-12 09:01:33 | 音楽

今日のあさイチで、福岡グルメの「キャベツと豚肉炒め」を作っている間のBGMがメンデルスゾーンの「イタリア」だったのはなぜだろう。BGMには隠れたヒントがあって、そこに音声さんのウィットが垣間見えて楽しいのだが、今回は不明である。だが、当ブログの今日のネタにとっては良い前振りであった。

ということで、イタリアのフィレンツェの話。「屋根のない美術館」と形容されるこの街の見所の一つはアルノ川にかかるヴェッキオ橋(ポンテ・ヴェッキオ。写真はウィキペディアから引用)。

この橋の名を聞いて、オペラ好きは「ジャンニ・スキッキ」のラウレッタのアリアを思い浮かべるだろう。娘が父に、お願いを聞いてくれなきゃヴェッキオ橋から飛び降りると脅迫する歌である。

このアリアはきわめて叙情的だが、叙情的なのはここだけ。他はドタバタ劇。しかも、主人公のジャンニ・スキッキが死人になり代わって偽の遺言をするという、私文書偽造罪の間接正犯に問われるようなとんでもない話である。ジャンニ・スキッキは、言うなれば、ヴェルディのファルスタッフに相当する。だが、ファルスタッフが好きなのは女性であるのに対し、ジャンニ・スキッキが好きなのはお金である。

そのフィレンツェで大昔、幅を効かせてきたのがメディチ家。「メディチ」(medici)は「医者」(medico)の複数だから(イタリアの名字は大概複数形である)、この一族はもともと医者の家系?この想像は当たりのようだ(ウィキペディアによれば)。

そういうことを書いてやろうと思ってたら、BSの「世界ふれあい街歩き」の舞台が偶然にもフィレンツェ(こういう偶然は極めて多い)。あれ?と思ったのは、街の人が取材班と別れるときみんな「アリベデル『シ』」と言っている。イタリア語の「ci」の発音は「チ」と習うが、多くのイタリア人が「シ」と言うことは知っている。NHKのイタリア語講座に出てたジローラモさんが、いつも陽気に「チャーオ!アミーシ!」と言っていた。お!ってことは、フィレンツェの人は、メディチ家を「メディシ」と言うのだろうか。言いそうである。日頃シーシー言っていて、「Medici」の「ci」だけ「チ」とは言えないだろう。

ところで、「アミーシ」のジローラモさんはナポリの人だから、私は「シ」は南部の方言だと思っていた。だが、フィレンツェってローマより北。そこでも「シ」って言うの?そうかと思えば、番組の舞台がフィレンツェの少し南のシエナに移ると、そこの修理屋さん親子は「アリベデルチ」って言ってる。え?南に行ったら逆に「チ」なんて……じゃあ、南部の方言だと思ったのは間違い?それとも、その親子は北部から移住してきたとか……分からん。

いやしかし、フィレンツェは本当に良い街のようだ。番組で、マーブル紙を染める女性の職人さんを紹介していたが、本当に魔法のようだった。その女性は、マーブル紙に恋してると言っていた。あら残念(なにが?)。

「ci」を「チ」だったり「シ」だったりいろいろのイタリア人でも、ヴェルディの「仮面舞踏会」のリッカルドの開口一番の「Amici miei 」(私の友(複数)よ)を「アミーシ・ミエーイ」と歌うのを聴いたことはない。「アミーチ」である。やはり標準語は「チ」なんだなー。「シ」と歌ったら直されるんだろうか。

ポンテ・ヴェッキオの「ヴェッキオ」は「old」の意味。つまり、「古い橋」と言うことである。「old」だから「年寄り」の意味もある。いったい人は何歳から「ヴェッキオ」(女性なら「ヴェッキア」)になるのか。日本では「前期高齢者」になったとき、という人がいるが、そういう説には絶対与しない(目前なので)。歳は関係ない。若いと思ってるうちは若い、と言っておこう。因みに、「ジャンニ・スキッキ」にはツィータという女性が登場するが、この人は「ラ・ヴェッキア」と呼ばれている(スコアにも「la vecchia」と表記される)。この人の歳をプッチーニは「60歳」と指定している。前期高齢者以前である。極めて不愉快だが、まあ、時代が違うということで大目に見て進ぜよう。