麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第321回)

2012-04-01 21:41:18 | Weblog
4月1日


更新、遅くなりました。

中央公論新社から「ランボーの言葉」(激訳)という本が出ました。見かけはイロモノっぽいですが、読んだら、とてもよかったです。訳者はちゃんと自分の解釈を書いていてその多くに共感しました。それで火がついて、3種類のランボー全詩集をいろいろ拾い読みしました。高橋彦明訳も。

と、ひさしぶりにヘンリー・ミラーを読みたくなり、中断していた新訳の「ネクサス」を三分の二まで読み進めました。若いころ、河野一郎訳で読んだときにはわからなかったミラーの「老い」も感じ取れる作品。もはやここには「性の作家」はいません。これが小説なのかどうかもよくわかりません。ただ、作中のミラーが、まだフランスに出発する前に、「薔薇色の十字架刑」のためのメモを書くシーンまできたところで、この物語はすでに終わりを迎えているといえるでしょう。ミラーがそのメモを書けたのは、自分で気づいたとおり、モーナとは終わってしまったから。そうでなければ記録なんてぜったいできないはずだから。あとの話はそれを信じたくない男のみじめな告白になることでしょう。

それでもヘンリー・ミラーは「北回帰線」を書いた。たぶん、一度死んだあとで。「北回帰線」は本当の傑作です。ミラーのその他の著書はすべて「北回帰線が生まれるまで」という注釈書、あるいは資料といえます。それは稲垣足穂が「自分の著作はすべて一千一秒物語の注釈」といったことと同じです。そういえば、2人は誕生日が同じです。若い頃は私も占星術を信じていたので、よく覚えています。「弥勒」はある意味「薔薇色の十字架刑」です。昔は、足穂のほうがミラーより純粋だと思いました。しかし、いまは、その評価は逆です。そうして、やはりミラーの純粋さは志賀直哉に似ていると思います。

暗夜行路はぜんぜん傑作ではありません。でも、とてもいい作品です。薔薇色の十字架刑と同じように。

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