麻里布栄の生活と意見

小説『風景をまきとる人』の作者・麻里布栄の生活と意見、加えて短編小説。

生活と意見 (第511回)

2015-12-20 23:54:58 | Weblog
12月20日


なお「マハーバーラタ」に浸っています。路頭に迷うことになるかどうかはっきりわからなかった二週間前、ふと思い出して高円寺のガード下にある都丸書店に行きました。およそ2年ぶり。あればいいな、と思ったちくま学芸文庫版はなかったのですが(神保町でも馬場でも見かけません)、三一書房の、英訳からの重訳でほぼ全訳という全9巻本の1~3巻が各1000円で出ていました。定価は4500~5500円なのでかなり安い。30分、立ち読みしながら悩んで1、2巻を買いました(原典訳だと3巻までの内容に相当)。まだレグルス文庫を読み終える寸前でしたが、それから時間のある限り、その本と、原典訳第2巻を読んで、レグルス版では省略されているエピソードの概要を余白に書き加える作業をしています。と同時に、三一書房の1巻を改めて頭から精読しました。思ったことは、レグルス版がとてもすぐれた縮訳版であるということ。もし、初めて読むのにこの三一版を選んでいたら、1巻の真ん中までもたどり着かなかったろうと思います。「世界の初めに大きな卵があった」というようなところから始まるのですが、なにが大テーマなのかさっぱりわからない。これこそプルーストのいう“開きすぎたコンパス”です。初めて読むときはやはり、パーンドゥ家とクル家の主要共通ご先祖あたりから入ってくれないと興味が持続しません。その点、レグルスではヤヤーティ大王の話から入って数代後のドリタラーシュトラとパーンドゥ世代まで、主に数奇な結婚の話を中心に一気に読ませる。とてもいいですね。ただ、縮訳の性で、プロフィールのわからない人物がしばしば登場して頭を悩ませる。しかも、誤解を招く書き方がしてあることもある。たとえば「マハーバーラタ」の伝説的な作者である詩人ヴィヤーサ(ヴァーサ)が実際はドリタラーシュトラとパーンドゥの父親なのですが、レグルスだと二人はヴィチットラヴィーリア王の子供となっています。たしかに名目はそうなのですが、ここには書かれていないドラマが背景にあり、それを知らないと、あとでヴィヤーサが「パーンドゥ兄弟にとってのお祖父さん」と書いてある理由がわからない。――でもまあそういう部分を除けばこれほど複雑な物語をここまで短くした手際はすごいと思います。しかもそれがインド人の手で行われたというのがいいところ。外国人が審美的な基準で編んだのではなく、インド人から見て人間が生きるために大切と感じられるエピソードが選ばれている。つまり“たましい”が抜き出されていると思うからです。――最終的な愛読書としては(エピソードを書き加えた)レグルス版になると思いますが、できるところまで全訳も読み進むつもりです。――明らかに「現実逃避」という側面を強く持つ読書ですが、自分を許してやりたいと思います。
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