鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

世界金融危機を克服するのは他者を思いやる気持ちと説くジャック・アタリ

2010-02-21 | Weblog
 欧復興開発銀行初代総裁、ジャック・アタリ著の「21世紀の歴史」と「金融危機後の世界」を読んだ。リーマン・ショック以後の世界経済の動きを解き明かしてくれる本がいまひとつ見当たらなかったのが、書店で世界金融危機を予見した書と帯に出ていたので、読んでみよう、との気になって購入した。ざっと読んでボヤッと金融危機のからくりが理解できたような気がしたが、最後に著者が「他者の幸せは自らの利益であることに気づいてこそ、人類は生き延びることができる」となにやら宗教めいたことを述べているのが面白かった。
 ジャック・アタリは2035年よりも前にアメリカ帝国による世界支配は終焉し、次いで超帝国、超紛争、超民主主義といった3つの未来の波が次々と押し寄せてくる、と予言する。また、世界の太古からの歴史を振り返り、13世紀から世界の中心はブルージェ(ベルギー)、ヴェネツイア、アントワープ、ジェノヴァ、アムステルダム、ロンドン、ボストン、ニューヨーク、ロサンジェルスと移り変わってきたことを振り返る。
 ジャック・アタリは今回の世界金融危機の根源はシステムにあり、一部の人間の欲望とその他大勢のパニックが相互にショック反応を起こし、シェークスピア悲劇のようなある種の抜き差しならない状況に陥ったと分析する。危機へと導いた一連の出来事はアメリカをはじめとするすべての先進国における社会的不平等の拡大からスタートした、とも見る。今回の金融危機は金融機関が一斉にCDS(投資家が企業の債務不履行を回避するためのクレジット・デリバティブの一種)やCDO(債務担保証券)など一般には容易に理解しがたい商品を開発して、むやみに市場拡大を図ってきたことが、危機をコントロール不能な状況に追いやった、ともしている。
 結論として、ジャック・アタリは「G8」を「G20」、ないしは「G24」に拡大し、その「G20」なり、「G24」を国連の安全保障理事会と合併し、経済的権力と政治的正当性の機能をまとめあげて、「世界ガバナンス理事会」を設立し、「国際通貨基金」、「世界銀行」、その他の国際金融機関をこの「世界ガバナンス理事会」の権限のもとに置き、ささやかな世界統治システムを構築することを提唱している。
 そして、ジャック・アタリは最後に今回の危機からの教訓として、次の4つの真理を確認したい、と述べる。ひとつは「我々各自が社会的制限なく身勝手に行動すると、自らの利益だけを追求し始め、その果てには自らの子孫の利益さえ奪い取ってしまう」、2つには「他者の幸せは自らの利益であることに気づいてこそ、人類は生き延びることができる」、3つには「いかなる種類の仕事であれ、労働だけが富を得ることを正当化できる」、4つには本当に希少なものとは”時間”である。人々の自由時間を増やし、人々に充実感をもたらす活動に対しては特に大きな報酬がもたらされるべきである」としている。
 世界金融危機に冷静な分析をしている著者が最後には宗教家めいた言説を唱えていることに意外な感じを持ったが、言われてみれば最後は人の問題につきてくる。ただ、最後の”時間”にはちょっと違和感が残った。後進国の貧しい人々にとっては時間より、生きるための希望といったものなのではなかろうか、と思った。
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