鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

新境地開いた、文句なしに面白い東野圭吾の「新参者」

2009-09-23 | Weblog
 東野圭吾著の「新参者」を読んだ。雑誌の小説現代に04年8月号から5年にわたって計9回間欠的に掲載されたのを一冊にまとめたもので、9回の短篇がそれぞれ独立した話となっていながら、全体としてはミステリーを形成しているというもので、川上弘美がよく恋愛小説らしきもので行っている手法で、ミステリーでは横山道夫が「半落ち」で用いたのが有名だが、舞台を日本橋人形町の商店街にとっているのが珍しい。東野圭吾としては新境地を開いた面白い推理小説である。
 日本橋署に新しく赴任した加賀恭一郎なる刑事が人形町のさるマンションの一室で起きた殺人事件の捜査の乗り出すことで、話は展開していく。第1話は煎餅屋「あまから」の一人娘、上川菜穂が店番をしているところへ退院したばかりの祖母、聡子が帰ってきた場面から始まる。そこへ保険会社の営業マン、田倉がやってきて、診断書を受け取りに来たのだった。その翌日、日本橋署の加賀と名乗る刑事がやってきて、昨日田倉が来た時間を確認しきた。なんでも殺された女性の部屋に田倉の名刺が置いてあり、そのアリバイを確かめに来たのだ、という。時間がはっきりしないので、日を置いて加賀刑事と菜穂と話した結果、祖母の病気を本人に知らせないように父親の文孝と田倉が示し合わせて一芝居打った事実が判明し、田倉への疑いが晴れた。
 第2話は料理屋「まつ矢」のおかみ、頼子が旦那の泰治が銀座の飲み屋の女給に入れ込んでいるのにお灸を据えようと女給の好物の人形焼にワサビを仕込んで渡したところ、実は女給は甘いものがきらいで、同じマンションに住む殺された女性にあげてしまった。容器についていた指紋から、おかみの企みが判明したが、殺人には関係ないことも証明された。
 第3話は瀬戸物屋「柳沢商店」の嫁姑が商品の陳列からぞうきんの作り方までことごとく対立することに殺された三井峯子なる女性は友人に贈るために夫婦箸を買いに来たことから、嫁の麻紀と知り合い、頼まれてキッチンバサミを買っていたことが判明する。姑が伊勢に旅行へ行くのに好きなアワビをそのキッチンバサミで刻んで食べられるようにとの配慮からだった。
 第4話は時計屋の主人が追いだした娘の妊娠を知って水天宮にお参りし、三井峯子と触れ合う、第5話は三井峯子が離婚して、友人から子供を水天宮近くで見かけたと伝えられ、そのお嫁さんが喫茶店に勤めている、と知らされ、勝手に洋菓子店の店員と思い込んだ、第6話は殺された女性を発見した翻訳家、第7話は離婚した夫が清掃会社を経営していること、第8話はまた人形町に戻って凶器に使われた独楽の紐を売っている玩具店、「ほおづき屋」、そして最後は離婚訴訟に関与した税理士事務所の所長の話とつなぎ、いずれの話にも加賀刑事が登場し、犯人を突き止め、めでたしめでたしとなる。
 推理小説にありがちな謎解きで、犯人を追いつめていくような感じではなく、それぞれの話が人情味あふれるホロッとさせる小話となっていて、徐々に包囲網を狭めていき、犯人をあぶり出す。ミステリーに慣れた東野圭吾ならではの筆致で、一気に読ませた面白い小説であった。
 最後に同僚の刑事から「あんた、一体何者なんだ」と問われた加賀刑事は「何者でもありません。この町では、ただの新参者です」と答えたところで終わっており、タイトルの新参者はここから取っているのだろうが、読んだ後味も爽やかだった。
 
コメント
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