prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「隣人X 疑惑の彼女」

2023年12月16日 | 映画
惑星難民Xが何くわぬ顔をして普通の人に紛れて生きているらしいという疑惑から話が始まるわけだが、週刊誌の臨時雇い林遣都の担当になった女二人のどこに一体そういう疑惑がかけられる余地があるのかさっぱりわからない。

上野樹里が36歳になっても結婚しないとか、ファン・ペイチャが台湾人で日本語が不自由とか一般的なレベルの差別を受けてはいるのだが、普通の意味での移民難民あるいは疎外された人間の話ならともかく、惑星難民といったデカい話にするにはムリがある。
「エイリアン・ネイション」みたいなエイリアンを移民になぞらえたアナロジーなのかと思ったが、アナロジーというにはあまりに真っ正直に移民そのものだ。

しかも上野樹里の方には両親まで出てきますからね。
宇宙人?は人をコピーするという設定だと思ったが、それはどうなったのだろう。

宇宙人が地球人に紛れて生きているというのはウルトラQの「宇宙指令M774」のルパーツ星人の昔からあったし、はっきりしたフィクションとして描いていた方が、もっともらしかっただろう。






「バッド・デイ・ドライブ」

2023年12月15日 | 映画
リーアム・ニーソンの証券会社のトップが車の運転席の下に爆弾を仕掛けられ、こういう時に限って普段反抗している娘と息子が後部座席に座ってしまい、そこに謎の犯人からの脅迫電話がかかってくる。
単純だが強力なシチュエーションとそれに変化をつける小技のバランスが良く、車が走ったり止まったりのメリハリも効いている。

リーアムが息子と娘を守ろうとするパパぶりと証券会社のトップという手を汚す立場の両面を陰影をつけすぎずに演じる。
さすがに御年70歳を過ぎてフィジカルなアクションはムリだが、座りっぱなしのアップ主体でこなせるシナリオを選ぶ選球眼は確か。

後で考えると出来すぎじゃないかと思えるところもあるのだが、91分というコンパクトな尺を勢いで押し切るところが頼もしい。
スタントに何十人もの名前が並ぶのも昔のアクション映画風。

ちょっとひっかかったのは、屋敷の敷地内に車があるのに、わざわざ路上に出ている車に乗り込むこと。

スペイン映画「暴走車 ランナウェイ・カー」のリメイクだという。ドイツや韓国でもリメイクされているというが、どれも未見。
舞台がベルリンなのだが、ドイツ版リメイクはどうだったのだろうか。まあ、どこの都市でなければ成立しないという話ではない。





「ミステリと言う勿れ」

2023年12月14日 | 映画
崖っぷちを走る車をフォローしながら崖から飛び出して墜落炎上するのを捉えたつかみはOK。おそらくVFXだろう黒煙と炎もよくできている。

それから「犬神家の一族」ばりの旧家の室内の広大さ(特に奥行き)を生かした画作りに目を見張る。
クレーンかドローンか、とにかく大ぶりにカメラを動かした外景の描き方もいい。
犬神家と違って死人は冒頭にまとめて描いているからそれほど血生臭くはならない。

中盤から終盤にかけて伏線とその回収がいささかうるさくなってきてテンポが落ちる。
ゲストスターが出てきてからは特にそう。





「翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」

2023年12月13日 | 映画
大阪の都構想だとか万博だとか、果ては日本大阪化計画と称して日本全体の侵略を企てて白い粉をばらまいたりミサイルに見立てた通天閣を発射したりするのだから、関西三府県、特に大阪を敵役に仕立てているわけなのだが、問題になりそうなぎりぎりのところで躱している。
あくまで茶番劇の分を守るバランス感覚ととるかツッコミ不足ととるかは微妙。偏見か知らないが、関東より関西の方が京都と大阪と兵庫(芦屋というべきか)と並び立っているからややこしそう。

前作もそうだったけれど、現在の埼玉から回想?形式にカッコに入れた体裁にする必要あったのか疑問。内容にさほど有機的なつながりがあるでなし、大宮vs浦和の綱引きってそれこそどうでもいい話。

東京に対する埼玉が大阪に対する滋賀にそのまま対応するのかどうか、統計があるわけではないが東京の場合はもう少し地方出身者が多いのではないかな。いわゆる「東京は田舎者の集まり」ね。
地方色と「身分」=金があるかどうかが微妙にごっちゃになっている。

衣装・美術が外国人が見た日本像に近い、思い切ったキッチェ趣味で通している。
二階堂ふみの出番がやや不足。









「シチリア・サマー」

2023年12月12日 | 映画
イタリアがサッカーW杯で優勝した年だから1982年の話ということになるか。相手チームの西ドイツが統一されるのが1990年。

半世紀足らず前のシチリアというのがああも封建的だったのか、ゲイというだけで文字通り殴る蹴るの乱暴狼藉を働かれる。

冒頭、祖父と父、孫の三代がウサギを狩るところから始まるのだが、銃を振りかざすところからしてマチズモがびっちり充満していて母娘の女二人が割り込む余地もない。
ひなびた田舎の風景なのだけれど、その分封建的ということになるか。

銃の発射と大詰めでの花火の打ち上げをひっかけている。

サッカーを中継しているテレビを屋外に持ち出して一家で見ている図が印象的。





「ポッド・ジェネレーション」

2023年12月11日 | 映画
子宮を体内からいわばアウトソーシングして独立したポッドとして扱うという着想は一応奇抜だけれど、夫がいつも家にいるので一緒に過ごす時間が長い分、胎児が妻より親和性が高くなるというあたりで想像力が尽きてしまったみたいで、普通の出産とあまり手順が変わらなくなる。

妻が自分のお腹を痛めなくても子供を得られるというのは養子だって似たようなものだろうし、ポッドは会社のものだと担当が強調する分、壊していいのかと思ってしまう。
つるんとしたポッドと生々しい赤ん坊とのコントラストは一応目を引く。









「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」

2023年12月10日 | 映画
バカに鬼太郎の背が高いなと思ったらあれは鬼太郎の父親であって(つまり目玉のおやじということになるのだが目玉だけになるのは後の話)鬼太郎が誕生するのはラストもラスト、エンドタイトル後ということになる。誕生にふさわしいというべきか。

かなりの程度、旧日本軍の戦争犯罪に踏み込んでいて、血液製剤は731部隊を思わせ、それに製薬業という「犬神家の一族」の家業と亡くなった(が、存在感は失っていない)当主のイメージと旧家的体質を重ねている。
(余談になるが櫻井よしこは今はドがつく右翼だが前はミドリ十字を追求していた、なんでああなったのか)

それから鬼太郎の相棒になる水木というキャラクターは水木しげるの「総員玉砕せよ!」の生き残りで、自分勝手な上官を激しく面罵する。ああいう具合に罵倒できたらよかったのにという心残りも入っているだろう。
実際、みすみす若い命を散らさなくてはならなかった恨みつらみというのはそうそう簡単に忘れられるものではないし、忘れてはいけないものでもある。
その語り部が水木であり、鬼太郎でもある。

後半、ずいぶん血が大量に流れて、赤を強調した色彩演出も目立つ。
エンドタイトルが「墓場鬼太郎」の模写というのも、キャラクターデザインが違うが世界観がシリーズが進むたびに変わるというのは珍しくないものね。





「ベネデッタ」

2023年12月09日 | 映画
キリストが冒頭からしきりと真偽とりまぜて登場して、それが冒瀆的な表現なのかどうなのかバーホーヴェン氏簡単にシッポをつかませない。
十字架にかけられたキリストの腰の布をとると性器がなくてつるんとしているのにびっくり。
ベネデッタにキリストがとりついたように見える時と悪魔がついたようになる時と両方。

同じ修道院を舞台にしているせいもあってケン・ラッセルの「肉体の悪魔」を思わせる。エロとグロが表に出ているのも一緒。

シャーロット・ランプリングだと「愛の嵐」、ランベール・ウィルソンだと「悪霊」のイメージをそれぞれ応用したようなキャスティング。





「ナポレオン」

2023年12月08日 | 映画
戦闘シーンの数珠つなぎの間にナポレオンの政治的な立ち回りと妻ジョセフィーヌの奔放な振る舞いが描かれるわけだが、2時間38分という長尺の割にダイジェスト的な印象が強い。
4時間を超すというアップルでの配信版を待てということかな。

マリー・アントワネットなどギロチンにかけられて終わり。ロベスピエールやタレーランの出番もごく短い。

冒頭、ナポレオンが勇ましく馬を駆って走り出したと思ったら大砲の弾が馬の首に命中して転倒、わずかな運の差で生死が決まったのを端的に見せる。

ジャック=ルイ・ダヴィッドによる有名なナポレオンの戴冠式の絵画を再現したシーンが出てくるが、裏ではこういう手順で行われていたのですといったタネ明かし的な興味がある。

それにしても86歳にしてこうもスケールの大きな戦闘シーンを、ほぼ実写(に見える)でこなすリドリー・スコットには驚かざるを得ない。

音楽の使い方が画面と距離を置いた感じで、時代が近いことやロウソクの照明といい、何度かキューブリックの「バリー・リンドン」を思いだした。同じナポレオンを主人公にした映画を構想していたわけだが、どんな風だったのだろう。
ノート段階でも公開されないものだろうか。
(と、思っていたら、Alison CastleのSTANLEY KUBRICK’S NAPOLEON という大冊が出ているらしい。)





「花腐し」

2023年12月07日 | 映画
シナリオライター志願だった元若者(柄本佑)と一応監督をしている元若者(綾野剛)との対話がメインで、現在のシーンがモノクロ、過去のシーンがカラーという具合にちょっと逆のような描き分けをしている。

バターを使ったアナルセックスを描くのに「ラストタンゴ・イン・パリ」のタイトルをセリフで挙げるわけだが、前に荒井晴彦脚本作品としては「ベッド・イン」でもやっていたし、何より実際の「ラスト」の撮影現場でベルトリッチとマーロン・ブランドがマリア・シュナイダーの同意を得ずに性描写にあたったのが最近になってわかって存命中だったベルトリッチが非難にさらされたのはまだ記憶に新しい。
細かい話になるが、そういう状況でわざわざ描きますかね。わざわざ入れるまでもないと思うが。

ゴールデン街的なセンスは正直、辛気臭い。





「正欲」

2023年12月06日 | 映画
正欲と書いて性欲にひっかけているわけね。
新垣結衣はアセクシュル(他人に性的な欲望、関心を抱かない人)役がある程度定着してきた感はある。「逃げるは恥だが役に立つ」も近い。
相手の磯村勇斗とベッドで手足を絡ませながら肌は接触しないあたり違う意味で刺激的。

水に広い意味の官能的な感触を付与して描くのにある程度は成功しているが、タルコフスキーを思い出すまでもなく、不満は残る。

磯村健斗がペドフェリアと見なされるのは、モノや人が直接映る映画では作り手の狙い以上が射程に入ってしまう分難しいと思う。誤解と言い張れる余地があまりない。

検事役の稲垣吾郎が石頭のようで裏にまわると脆いところをよく表現していた。





「駒田蒸留所へようこそ」

2023年12月05日 | 映画
何度か転職しているウェブマガジンの記者が初め下調べもしないでウイスキーメーカーを訪れて大恥をかいたのをきっかけになんとか成長していくのと、ウイスキーメーカーの女社長が苦心惨憺しながら会社を立て直していくのが並行して描かれる。

ウイスキーの原酒のブレンドにすごい手間暇がかかることをずらっと並んだサンプルの数で見せる。
社長が元美大生でBL趣味のスケッチからウイスキーのテイストを思い出すあたりが強引ながらなんとなく納得する。

テイスティングルームのソファがかなりぼろぼろで、会社の景気がぱっとしないのを見せる。
美術では空の雲のデフォルメの仕方が印象に残る他、長野の実景をおそらく忠実に再現している。

家族の再生というのをテーマに押し立てて、初め社長に絡む同年輩の男を元カレかと思わせて(社長は見ての通り↑若くて美人ですからね)実は兄でしたというあたり、恋愛劇に落とし込まないよう配慮している。
担当編集者もここでは恋愛対象にならないのであって、物足りないとも言えるがテーマに忠実とも言える。

大半のシーンで社長が作業着姿なのだが、足元をちょっとおしゃれしているのがポイント。

DMM.com製作なのね、これ。
どういう事情と経緯でそうなったのか知らないが、ウイスキー作りというモチーフは珍しい。

配電盤が老朽化していて後で漏電する伏線なども教科書通りという感じ。




「ロスト・フライト」

2023年12月04日 | 映画
ジェラルド・バトラーが現実離れしたタフガイではなく、機長としてのスキルはきっちり身につけているけれど自分では銃をとらない役で、ドンパチはたまたま一緒になった元外人部隊マイク・コルターと少数精鋭の特殊部隊に任せてある。
このコルターが敵か味方か、なかなかわからないので相当にハラハラさせる。

敵役は凶悪犯揃いだがテロリスト扱いはしていないのは「ダイ・ハード」ばり。
大口径狙撃銃が登場して通常の車の装甲を貫通させるのが見もの。

ジェラルド・バトラーが最初の方で「誇り高きスコットランド人だ」と自己紹介するのは事実。





「首」

2023年12月03日 | 映画
前にビートたけしが話していた戦国時代の設定のごくラフなプランで、うんとカネかけて人馬の隊列を撮っておいて乗っている男の顔がアップになると志村けんのバカ殿、というのがあった。
志村の起用はかなわなくなったが、発想とするとそれに近い。

もともと北野武の監督作は女を仲間に入れないホモソーシャルな体質が強いのだが、あからさまにホモセクシュアル(衆道というべきか)に傾いて混同した感じになっている。

衣裳は黒澤明の娘の黒澤和子なわけだが(心配)、全体に凄く傾いた(かぶいた)デザインを採用している。
信長だけではなく武将たち全般がそう。

加瀬亮の信長が怪演で、尾張弁を採用しているのは津本陽「下天は夢か」以来だろうが、森蘭丸から弥助からそれぞれ意外な展開を見せる。

一瞬あとには裏切って殺したり殺されたりといった展開がグロいのとバカバカしいのと両方で、美術衣裳が豪華なのとコントラストになっている。





「デシベル」

2023年12月02日 | 映画
爆弾が爆発しても至近距離にいる人が死なないどころか突き飛ばされた程度のダメージで済んでしまうのには目が点になった。それも何度もですよ。
何ですか、これ。

潜水艦の艦長が陸に上がったところを狙われ、そうなったのには深海での魚雷攻撃にまつわる謎が伏せてあるというお話の仕掛けなのだが、どうも持って回った印象が強い。
爆弾が爆発するかしないかでハラハラさせるシンプルな構造でなんでいけないのだろう。

いい加減なところを挙げていったらきりがないが、プールの客が爆弾が解除されたと思ったらすぐ集まってくるノー天気さで、まだ爆弾残ってるか知れないではないか。

韓国映画でもこんないい加減な脚本があるのだな、と逆に勉強になりました。