prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「デリシュ」

2022年09月26日 | 映画
フランス革命前夜からバスチーユ監獄陥落の数日前までの時期に設定された物語で、貴族のお抱え料理人が庶民的な食材であるジャガイモを使って新しく創作したデザートを宴会に出したところ、出席した司祭に手酷く貶され謝罪を要求されて謝ることなど何もないと屋敷を出て故郷のあばら屋に戻る。

まともな料理は王侯貴族しか食べられなかった時代で、貴族たちは異常に膨れ上がったエリート意識を隠そうともしないどころかひけらかして恥じない。
提供するメニューは貴族が要求したものだけしか許されない。
誰でも美味しくて栄養のある、また料理人の創造性を発揮した料理をとれる場としてのレストランが誕生するまでの物語として、革命の精神とうまく混ぜ合わせている。

オープニングで調理台に打ち粉が広げられ、さらに粉とバター、卵などが混ぜられて整形さらてタイトルになっている焼き菓子デリシュができるところから始まるわけだが、エンドタイトルでやはり粉が降っているところがバックになっている。あの集まって滋養と美味としてまとめられる細かい粉というのが、いってみれば民衆なのだろう。

公爵自身は美食家として料理の批判はしないのだが、同席した司祭が庶民的な食材を使ったことに理不尽な単に権威を見せるためだけの言いがかりをつけるあたり、宗教的権威に相当に批判的。

あばら家に転がり込んできて手伝いを申し出る謎の中年女性の正体を順々に明かしていくストーリーテリングや、修道院の前でキスしようとしているらしき場面で見るからに意地悪そうな尼僧が鉄格子を叩いてジャマするところだけ見せて直接には見せず、キスシーンはとっておきのところにもってくる構成が上手い。

オープニングのお屋敷の厨房の撮り方は手持ちの移動を多用してダイナミックだが、田舎にひっこんでからは固定カメラを中心に光の使い方に素晴らしいセンスを見せる。

ラストでフランスの野山の自然の美しさに、フランス料理史上の巨人であるオーギュスト・エスコフィエがフランス料理を支えるのは恵まれた自然が提供する食材の豊かさと、家庭で受け継がれてきた料理の伝統だと語ったのを思い出した。