prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「パブリック 図書館の奇跡」

2020年08月14日 | 映画
外にいると凍え死ぬほど寒いシンシナティのホームレスたちが寒気を避けるために図書館にやってきていたのが、立て籠り事件にまで発展する。

そうなるまでに、図書館員(監督脚本を兼ねるエミリオ・エステヴェス)が前に悪臭がするホームレスを他の利用者の苦情に従って外に出したら75万ドルというべらぼうな賠償金を請求されたり、次の市長を狙う検察官(憎まれ役が板についたクリスチャン・スレイター)が圧力をかけてきたり、といったいかにも今のアメリカにありそうな事情を絡めて説得力のある展開にしている。

前半のスケッチ的な場面に張り巡らされた伏線の回収の意外性といい、各キャラクターの見せ場の用意といい、後味のよさといい、最近珍しいくらいがっちりした脚本。

ホームレス一人一人に至るまでのキャスティングと全体の演技アンサンブルの見事さ。
女優さん二人(黒髪のジェナ・マローンと金髪のテイラー・シリング)を魅力的に撮っているのも監督としての腕だろう。

スタインベックの「怒りの葡萄」(十代に読むべき本と作中で言われる)が重要なモチーフになっていて、その引用の朗読を聞いてもテレビ局のキャスターが何のことかわからない、事件性を煽って数字をとることしか考えてないのは、いかにもな話。

そういえば、スピルバーグが「怒りの葡萄」をミニシリーズドラマ化するという話、どうなったかな。今再生する意義というのは十分ある。

ホームレスの多くが黒人で軍隊経験があり、国に尽くしたのに何だこの扱いはという怒りをのぞかせるのをうんと誇張するとランボーにつながるのだろう。
いったん失業して家を失うと、なかなかやり直しがきかないというのは、日本でも言えることのはず。

市民的抵抗、それが正しくないと考えたら相手が国であってもノーを言う精神は日本ではおよそ根付いていないアメリカのもの。

登場人物の多くがアルコールやドラッグ、精神疾患の問題を抱えているのも今らしい。