prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「主人公は僕だった」

2007年05月28日 | 映画
「タクシードライバー」のシナリオを書いたポール・シュレイダーのオフィスに押しかけて「なんで俺のことがわかったんだ」と詰め寄った少年がいたというが、小説にせよ映画にせよ、このお話の主人公は自分をモデルにしているに違いない、と思い込む人というのは結構多いらしい。それをひっくり返して見せたようなアイデア。
自分の運命というのは、誰かの手によって決められているのではないか、という気がふっとすることは珍しくないと思うが、その感覚をうまくつかんでいる。

ただドラマとすると、登場人物というのは作者の手を離れて勝手に動き出すものだと思うが、ここでは作者と主人公が出会っても一方的に作者が運命を決められることに変わりはなく、あまりダイナミックな展開にはならず予定調和的なのが、ちょっと物足りない。
主人公が何十年も同じ勤務を続けている、本当に自分が自分の人生の主人公にはなっていない役人、という設定は、黒澤明の「生きる」を思わせる。

エマ・トンプソンがぼさぼさ頭にパジャマにカーディガンに裸足といういでたちで始終タバコをふかしているあたり、実によくエキセントリックな作家の感じを出した。当人自身が物書きなわけだし、鬱病に悩まされた経験があることを告白しているのもキャスティングの計算に入っているのだろう。

役に立たない医者の役が、エンド・タイトルを見たらトム・ハルス(「アマデウス」のモーツアルト役)なのにびっくり。
(☆☆☆★★)



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