駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『プライド』

2010年12月05日 | 観劇記/タイトルは行
 シアタークリエ、2010年12月2日マチネ。

 有名オペラ歌手を母に持ち、何不自由なく育った麻見史緒(笹本玲奈)と、貧しい母子家庭に育った苦学生の緑川萌(新妻聖子)は、ともにオペラ歌手志望の音大生。ふたりはイタリア留学がかかったコンクールで決勝へと進むが…
 脚本/大石静、演出/寺崎秀臣、音楽/佐橋俊彦。
 一条ゆかりの同名漫画をキャスト四人のストレート・プレイに舞台化。

 いやー、仰天。おもしろかったです。
 映画も意外や意外おもしろかったんだけれど(失礼!)、舞台はさらに良かった。
 原作が完結しているということもありますが、ほぼ前半の物語を抑えた映画とはちがって全編を舞台化、かつ配役は四人のみ、それでも十分わかるしおもしろいし、すばらしい。
 大石さんって本当にすごいんだな!と思いました。

 そしてもちろん奇跡のキャスト…!
 同世代のミュージカル女優として、ライバル扱いされたり比較されたりすることも多かったであろうふたりの初共演。芸風もニンもわりにちがうんだけれど、それが役のキャラとあいまって絶妙でした。実際にはふたりは意外に仲がいいと言うか、我関せずみたいな感じなんじゃないのかなあ、と邪推というか心配(^^;)。

 レナちゃんは背が高くて顔が小さくて本当にプリンセスタイプで、でも決して可愛いだけのかわいそうなお姫様ではない史緒をきちんと演じられる演技力、エラそうさがちゃんとあって、素敵でした。
 聖子ちゃんはそれからすると確かに背はそんなに高くなくて頭身も高くなくて、それを上手く使ってふてぶてしくも可憐にも見える萌をこれまた好演。
 どちらかというと、それでも史緒の方が役として損かな…と思わなくもない一幕でしたが、ニ幕に入るとそうでもなくなって、本当に絶妙なバランスでした。
 ま、漫画の終盤はまさかのメロドラマチック昼ドラ展開で、それは舞台のニ幕後半でもそのまんまだったのですが、それがまたふたりのバランスの絶妙さを保つ、という…
 かつ生の舞台は「えええ?」感をねじ伏せるだけの力を持っていますからね(^^;)。

 しかも歌唱が本当に良くて、史緒がコロラトゥーラで萌がメゾに近いと言いつつも実際にはそんなこともないわけで、そして演ずるふたりの声の質は本当に近いような遠いようなで、ハモりも上になったり下になったりするし、その響きが本当に絶妙です。
 楽曲がまた複雑で難しいのもいい。けれど聴いていて心地いい、まさに奇跡のようでした。

 物語はプライド、才能、成功といったことのほかに、結局は愛とかセックスとか生殖とか生命とか人生のモチーフを扱うことになります。
 実際には原作者も母親ではなく、別に経験がなくてもわかることはわかるのでしょうが、子供をみごもって初めて無償の愛を知る…という展開は、少なくとも私にはやはり引っかかる。
 でも少なくともその直前の展開は、蘭ちゃん(佐々木喜英)と神野さん(鈴木一真)の好演もあって、漫画より納得しやすい流れになっていたかもしれません。
 蘭ちゃんがニューヨークでもまれて、史緒とも一度離れて、それで改めて史緒に対して抱くようになった友情ともつかない大きな愛、その真摯な告白。
 史緒にはそれが素直にうれしくてありがたくて、たったひとりの友達をやっと取り戻せて、これで生きていけると思えて、顔を輝かせたのでしょう。逆に言えば、そのときにはもう、神野さんを愛し感謝し頼りにし始めていたのです。でもこういう愛情は不安定だし、愛したからといって愛されるものでもないということもわかっていて、だからこそ蘭ちゃんの友情がうれしかったのです。
 けれど神野さんは、社長夫人という役を演じる史緒が欲しいと言っておきながら、やっぱり史緒を愛し始めていたので、そして愛される自信は持てないでいたので、蘭ちゃんの告白に激昂したのです。
 そして酒に逃げ、萌に逃げた。そしてこういうとき、避妊する余裕なんてないもんだよね、と思える程度の人生経験を私も積んだ(^^;)。
 だから、人と人との関係は、こうやってねじれてもつれることがあるんだよな、と、思うのです。それがドラマです。

 四人で紡いだ関係は、萌がいなくなって萌の娘が残されて、それでまた四人だねと言っても変質してしまうし、違う物語、ドラマが始まってしまうものでしょう。でもそれはまた別の話。萌の死でこの物語は終わり、フィナーレナンバーとして再度ふたりのセッションが歌われ、幕は下りたのでした。
 ああおもしろかった。

 ところで客席は観客役として拍手することで舞台に参加できます。コンクールの場面しかり、クラブでの歌対決シーンしかり。
 ただ私は他の舞台でも歌のたびにいちいち拍手するのがあまり好きではなく、幕終わりにしかしなかったりします。
 今回私が一番気持ち良く拍手したのは、一幕終わりでした。完全にドラマチック芝居のあと暗転、のパターンのものでしたが、時間や展開の読みから言ってもここで休憩、というのがわかったし、本当に単純に芝居として、演技として、すばらしかったから。だから気持ち良く拍手が出来ました。
 まだ初日開いてすぐでリピーターもいない状態だったでしょうが、率先して拍手が出来てうれしかったです。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宝塚歌劇花組『CODE H... | トップ | 宝塚歌劇星組『宝塚花の踊り... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

観劇記/タイトルは行」カテゴリの最新記事