駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇月組『花の宝塚風土記/シニョール ドン・ファン』

2009年12月09日 | 観劇記/タイトルは行
 東京宝塚劇場、2003年7月10日ソワレ。
 前者は宝塚舞踊詩と銘打たれ、作・演出/酒井澄夫、作曲/吉田優子。チョンパで幕が開く、歌舞伎の変遷をめぐる日本物のショーであでやかでした。東儀秀樹の音楽で、これで退団の汐風幸が踊った場は秀逸でした。

 後半はNew Musical、作・演出/植田景子、作曲/吉田優子、衣装デザイン/コシノ ヒロコ。
 世界中の女性の憧れの的であるファッション・ブランド「ドン・ファン」のデザイナーであるレオ・ヴィスコンティ(紫吹淳)は女性関係も派手。私設秘書のジョゼッペ(霧矢大夢。この日は病気休演で北翔海莉が代役)はその後始末にてんてこまいさせられている。レオはビジネス・パートナーであるロドルフォ(汐風幸)らとともにバカンスでサルデーニャのシャトー・ホテルを訪れ、コンシェルジュのセルジィオ(彩輝直)の恋人ジル(映美くらら)と出会い、強い印象を受けるが…

 という、わりとよくできたミュージカルだったと私は思ったのですが…しかし、あまり宝塚歌劇っぽくありませんでした。
 十分に少女漫画っぽくはあったと思うのです。ジルを完全なヒロイン(つまり女主人公という意味です)にしたこういう物語ならいくらでもありそうです。

 ネタばれですが、才能のある姉にあこがれとコンプレックスを抱き、もしかしたら姉の恋人に横恋慕なんかも感じていたりして、でもその恋人に理不尽に捨てられ転落し死に至る姉の姿に復讐を誓うヒロインです。もう愛なんて信じられない。セルジィオはいい人だけれど、こんなふうに嫉妬と憎悪でドロドロの本当の私を知らない。とてもさらけ出せない。すべてをさらけ出しても愛してもらえるなんてとても思えない。復讐したい男は訳アリに見える。美貌だし心が揺れる。でも…
 事情が明らかになったとき、男はかつての恋人を愛していたこと、愛されていたことを再確認し、愛を再び信じる。ヒロインはそんな愛の形があることを知り、愛を信じるようになる。傍らには、ずっと側で見守っていてくれたセルジィオが、今も、いてくれる…
 というような、ヒロインのいいとこどりのストーリーは(笑)はけっこう少女漫画には見られるはずで、だからこの舞台も女性観客にしてみれば楽しいはずなのですが、しかし…私はあまり楽しくなかった。少女漫画っぽくっても、宝塚っぽくなかったからです。

 トップコンビの恋愛ではないから、というのは確かに大きいかもしれません。でもこれまでにもそういうタイプの物語はありましたし、私はこの舞台については機関誌などでその旨を承知していましたので、これが最大の原因ではなかったかな。
 この舞台が宝塚っぽく見えなかった理由、その最大のものとは、トップ男役演じる主人公がかっこよく見えなかったことにあるのではないでしょうか。

 いや、もちろんリカさんはかっこいいんです。見目は問題ありません。
 でも、世界を股にかけるプレイボーイで、眉目秀麗でやり手で、でも誰にも本気にならないちょっと気だるいところがあって、シニカルで寂しそうで…という主人公・レオは、あまり魅力的には見えないのです。あまりにシニカルでニヒルで、世界から身を引きすぎていて。そういうところが素敵、とかそういうところから私が救ってあげたい、とか思えるほど私の精神状態が元気でなかっただけかもしれませんが。
 魅力的って言うんなら、狂言回しの役回りだったジョゼッペが一番魅力的だったんじゃないでしょうか。代役はまったく過不足なくやっていたと思いますが、いかにもの当て書きで、ぜひともキリヤンのジョゼッペが観たかったです~
 そんな訳で、私がシビれたのは、単にユウヒくんのファンだということもありますが、スティーブ・オースティン(大空祐飛)です。ハリウッド女優で若干落ち目になりつつある、でもまだまだ魅力たっぷりのローサ・ヘミング(美原志帆)のマネージャーで、彼女の女優の部分も、後進に焦って不機嫌になったりする本名の部分も丸ごと愛していて、彼女がいちばん輝く場所を用意してあげることだけに腐心している男。くううううーっ、理想のあり方じゃないですか。ものすごい儲け役をややさらりと演じすぎた感もありますが…うっとりしました。

 しかし私はレオの元家庭教師が連発する
「私はレオの最初の女です!」
 はギャグだとしても下品だと感じましたし、でもこれは女性脚本家の手になるもので、だから性差やメンタリティはやはり千差万別なんだなあなどとしみじみ思ったりします。
 お衣装はどれも素敵だったし、ドレスが要のモチーフとなる物語にちゃんとなっていたところは素敵だったと思いました。フィナーレのアモーレが着たいわゆるシンデレラ・ドレス(なんて言葉は私の造語ですが…雰囲気わかっていただけますよね?)が、意外と宝塚のショーで見ないタイプの、本当に舞踏会で着る夢のようなドレスで、美しかったです。
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