駒子の備忘録

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宝塚歌劇月組『血と砂』

2009年11月10日 | 観劇記/タイトルた行
 日本青年館、2001年11月8日(千秋楽)。
 19世紀末のスペイン、セビーリャ。フアン(汐美真帆)、プルミタス(大空祐飛)兄弟はスペインの男の子ならば誰でもそうであるように、マタドールにあこがれていた。ある日ふたりは、親友のチリーパ(紫城るい)とプルミタスのガールフレンド・ルシア(音姫すなお)と共に、夢を叶えるべくビルバオへ向かう。フアンは幼なじみのカルメン(椎名葵)に、マタドールになったら必ず迎えに帰ってくると約束した。ビルバオの闘牛興行は明日のスターを目指す若者であふれていたが…原作はブラスコ・イバニェス、監修 柴田侑宏、脚本・演出 斎藤吉正、作曲 高橋城。
 バウ・ライブアパシオナードと銘打たれた小公演の上京版だったのですが、いやあ、やはりバウ公演はいいですね。総勢29名の役者すべてにきちんとした役がつき、なんらかのセリフをしゃべっています。こうでなくてはね。
 主役は共にバウ初主演のケロちゃん(汐美真帆)とユウヒくん(大空祐飛)。『大海賊』では特出の専科生に大きな役を持っていかれてしまっていましたが、それでも光っていたので、きちんとお芝居をしたところを見てみたいものだと思っていました。まさにタイムリーな「待ちわびた」企画。ふたりの魅力を生かしたキャラクターがそれぞれきちんと当て書きされ、絡むキャラクターもドラマも濃く、観ていて本当に気持ちの良い公演でした。
 フアン。生真面目で誠実、でも優等生ぶりの陰にもろいところも併せ持つ長男タイプのこのキャラクターは、ケロちゃんのニンにぴったりでした。スペインの国民的スター「エル・マタドール」として大人気を集めるようになっても、おごらず飾らず、故郷に帰って幼なじみのカルメンと結婚し、母親孝行をする、純朴なところがある青年。社交的なつきあいが苦手なのに、どうしてもと請われて会った闘牛ブローカーの姪ドンニャ・ソル(西條三恵)の妖艶さに惹かれてしまい、転落への道を辿る…
 喉が疲れていたのかやや声量のない歌でしたが、そのかすれるような甘い声でカルメンに語りかけたセリフなど、優しさにじんわりきてしまいました。
 片やプルミタスはやんちゃでまっすぐで正義感に篤く情熱的。ルシアを馬車で轢き殺したモライマ侯爵(大樹槙)に復讐すべく、義賊エル・アルコンとなる黒い役所。兄を裏切り者と恨み、兄嫁を誘惑するところなんか、よかったです。カルメンがちょっと通り一遍といった感じの演技に見えたのが珠に瑕でしたが。アクションシーンもフェンシング風の剣さばきでかっこよかったです。最後に兄弟ふたりで酒を飲み交わすシーン、よかったなあ。
 そしてこれが退団公演となってしまったミエちゃんのドンニャ・ソル。音楽家目指してウィーン留学までしたのに、マタドールと恋に落ちて結婚し、若くして死なれた未亡人。パトロネスとして新進マタドールたちを応援するようになるが、それが愛ゆえか憎しみゆえなのか自分でもわからない。「輝いている殿方に興味があるの」と言い捨て、スキャンダルで離婚し闘牛で大怪我をしたフアンからブエノスアイレス出身の若手スターに乗り換える…いい役でしたねええええ。クライマックスでトロとして出てきたのも素敵でした。
 ただ、私としては、ミエちゃんはどこまでこの役を理解してやっているんだろうか…とちょいと思ってしまったんですが。
 ふっきりすぎているというか、「ファム・ファタールってこんな感じ」というような、おんなじ感じの揺らぎ方のしゃべり方だったので。幼い感性のままでは演じきれない役だったと思うのだけれど、やっとこういう役もできる女役さんになりかけてきたところだったのではないでしょうか。早すぎる卒業が残念です。
 ラストの「アディオス」にはでも、泣きました、私。本公演で卒業するのならタカラジェンヌの制服である袴姿で大階段を降りる儀式ができたのだけれど、この公演のフィナーレでマタドールの衣装で踊ったのが、「男役の制服」とも言われる黒燕尾にも似ていて、餞になったのかもしれません。
 儲け役だったのはガラベエトオ(楠恵華)。フアンより一足先にデビューした先輩マタドールだったのが、怪我をしてフアンの付き人になったという設定なのですが、フアンへの愛憎なかばする感じがものすごくよかったです。復帰戦に赴くフアンを抱きしめるところ、よかったなああああ。
 兄弟の親友チリーパと、フアンを追い落とす若手スター・フユエンテスの二役を演じたのは紫城るい。本公演のショーでは女役をやらされることが多い人ですが、明るい輝きがあってよかったです。フユエンテスの方はちょっと作りすぎな感じもしましたが、これからこれから。
 気になったのはモライマ侯爵の悪者ぶりが弱かったことと、プルミタスに想いを寄せているフランチェスカ(美鳳あや)があんまりよく見えなかったこと。もっといじらしくやれればこれまた儲け役だったのに、どうも平板に見えました。ビルバオでのトロSのダンスはよかったのになあ。
 あとは、予算の問題なのかもしれませんが、ドンニャとカルメンにはもう一着ずつドレスが欲しかったです。違うシーンで前見た服が出てくるのはちょっと悲しかった…それとカルメンが後半修道院に入ってからですが、あんないかにも尼さんってな服しかなかったんでしょうか。星組『剣と恋と虹と』のときにアヤカが着ていたような黒い喪服のドレスとかでは駄目なんでしょうかね。あまりに地味でもったいなかったです。
 個人的には、エル・アルコンを追う刑事グァルディオラ役のエリちゃん(嘉月絵理)のファンなので、パンフレット写真が力入っててよかったのと、フィナーレでガンガン踊ってくれたことがうれしかったです。
 楽日なので、退団者の挨拶やカーテンコールがありました。
 素でしゃべっているところを見ると、ケロちゃんの方が本当はわりとやんちゃで、ユウヒくんの方が気ぃ遣いなのかもしれませんね。でも仲良さそうで、充実感にあふれていて、微笑ましかったです。ああ、いいものを観た。
 この日お誕生日のガイチさん(初風緑)がご観劇。着席のときに客席から拍手が上がっていました。
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