駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『鳳凰伝/ザ・ショー・ストッパー』

2009年12月01日 | 観劇記/タイトルは行
 東京宝塚劇場、2002年10月22日マチネ。
 架空の時代の中国。戦に破れ滅びてしまった国の王子カラフ(和央ようか)は、生き別れた父ティムール王を捜して北京へ赴く。そこでは皇帝のひとり娘トゥーランドット(花総まり)が、その美貌にひかれて求婚してくる異国の王子たちにみっつの謎を出し、解けない者の首を容赦なく刎ねていた…脚本・演出/木村信司、作曲/甲斐正人。プッチーニのオペラ『トゥーランドット』をベースにした作品で、1934年に上演、1952年に再演されたものの21世紀版。
 …筋が通っていたのはアデルマ姫(ふづき美世)だけか? カラフに危ないところを助けられ、恋い慕い、けれど振り向いてもらえず、自害しようとし、それすら冷たくあしらわれ、狂乱のさまを見せる…
 タマル(彩乃かなみ)もよかったのだけれど…この奴隷娘はカラフよりむしろティムール王に惚れていたとしたほうが自然なのでは、とちょっと思ってしまったので。それに、アデルマとトゥーランドットのシーンはあったけれど、タマルとトゥーランドットが関わる場はなかったはずで、なんだってタマルが
「あなたさまならわかるはず」
 とまでトゥーランドットを理解し期待しているのか全然わかりませんでした。これはキャラクター設定の問題ではなく、脚本上の筋運びの問題だと思いますが。役者は好演していて、カラフの名を明かさないため、またティムール王に害を及ぼさせないために自刃する場面は、客席の涙を誘っていました。
 同様に元王子・現盗賊の頭バラク(水夏希)も、ナイスガイのいいキャラクターだし、弁慶の立ち往生もかくやという壮絶な絶命シーンは胸うちましたが、そうまでカラフとの間に固い友情・信頼が培われる過程がほとんど描かれていないので、なんだかなあ…という感じでした。
 トゥーランドットも実はおもしろいヒロインです。本当は男として生まれて、父を助け、国を守り、継いでいきたかった。だが女に生まれてしまい、婿を取る身なので、そんじょそこらの男にはなびかない、むしろ隣国の世継ぎを根絶やしにして自国領に取り込んでやる、という意気は良いではありませんか。かつて異国の男たちに蹂躪された先祖の姫の無念を忘れない、というのも、ヒステリックだけどロマンティックで少女魂には感じ入ります。なのに…カラフに惚れる理由がわからん。
 カラフがトゥーランドットに惚れる理由もまたよくわからん。それが私にとってこの芝居の最大のネックでした。
 そもそもカラフという男がよくわからん。戦争に嫌気がさして、国の再興なんて虚しい夢、国がどこだろうと王が誰だろうと民が幸せに生きていければいいじゃない…とすっかりアナーキーになってしまった若者、のように見せたがっていたように見えたのですが…だとしたら彼はトゥーランドットに自分の死に場所を求めたということなのでしょうか?
 でも、続く台詞やパンフレットのあらすじによれば姫の美貌に心奪われただけのようだし、それって馬鹿みたいじゃない? というか、姫の求婚者はみなただ姫の美貌(とその継承財産の巨大さ)にひかれていただけであり、カラフも同じなら、たとえカラフだけが謎を解いたんであろうが、姫がこれまでの求婚者たちとちがってカラフだけを愛するようになる理由がないじゃないですか。無理矢理キスのひとつもしたからなんだっていうの? ずーっとずーっといやがっていたのに、急転直下膝を屈する理由がわからないから感動できなかったんですよね。
 カラフが謎を解くその知恵と勇気に心動かされた、というような演出にするべきだったのではないかしらん? もちろんそれ以前に、カラフのいいところ・かっこよさをもっと上手いこと表現しておいてほしいところですが。タカコさんは確かに素敵なスターだけれど、役者の容姿だけに頼っていたんじゃキャラクターになっていないでしょう。
 トゥーランドットはカラフの知恵と勇気に初めて心動かされた、だけど国は奪われたくない、謎を解いた者に嫁ぐという誓いの言葉を破ろうとする。そこらの求婚者たちとちがって本当にトゥーランドットを愛していたカラフは、条件をゆるめて、今度はこちらから謎を出す。夜明けまでに自分の名を当てること。当てられたら首を差し出す、当てられなかったら結婚する…
 トゥーランドットは必死でカラフの名を探る。バラクも、タマルも、彼の名を明かすくらいならと死を選んでいく。結果的にはバラクもタマルもカラフへの愛故に命を落としているのであり、ここには本当は、愛は奪うばかりのものではなく与え合い豊かに幸せになるものだ、というようなエピソードが入って姫の心を揺さぶらせるべきなのでしょうが…
 姫は嘆き怯え絶望する。見かねたカラフは自ら姫に名を告げてしまう。姫を愛しているから、悲しませたくないから、苦しませたくないから…
 夜明け。姫はみんなの前で王子の名がわかったという。
「その名は愛!」
 そして結ばれるふたり…これなら、愛と葛藤があって、スリルがあって、「おおおお」となったのでは、と思うのだけれど…
 新聞評で、トゥーランドットの台詞が女が男に隷属するもののようで違和感があった、としているものを読みましたが、あれはむしろ人間が愛に服従する、ということを意味していたのではないかな?
 仕事先の知人を同伴したのですが、遅刻されて、私としては初めてのことなのですが初っ端5分を見逃しました。もしかしたらそこでカラフのすっごいいいシーンがあったのかもしれません…だとしたらすみません…

 ショーの作・演出は三木章雄。芝居の時間が長かったため普通より短いショーで、パレードもはしょり気味の、あわただしいショーでした。プロローグが暗いというか、あまり素敵に感じられなくて…やはり宝塚歌劇のショーのプロローグは華やかに主題歌を歌いトップコンビが出て総踊りがあって…という構成が私は好きです。全体にダンス・アクトという趣の意欲あるショーで、それは買うのですが…
 ところでハナちゃん、ちょっと太った…? いや、脚はあいかわらず美しゅうございましたが、なんか胴が…いつも本当にバービー人形のようにほっそくって手足が長く見えて、腕をただ真っ直ぐ下ろしていても肘とウエストの間にすごーく広い空間があるのに感動するのに、今回はそうは見えませんでした…いやあ、ホント私、どこ見てんでしょうね?
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