駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『グレイト・ギャツビー』

2016年07月10日 | 観劇記/タイトルか行
 サンシャイン劇場、2016年7月9日16時半。

 1920年代、自由を謳歌していたアメリカを舞台に、真実の愛を求めたひとりの男の悲しく美しい破滅の物語が立ち上がる…
 原作/F・スコット・フィッツジェラルド、演出/錦織一清、脚本/羽原大介、音楽/岸田敏志、振付/川崎悦子。全2幕のオリジナル・ミュージカル。

 宝塚版ではアサコのものしか生で観たことがなくて、そのときの感想はこちら
 今回は、ミナコが出るというしせしるの女優デビュー作になるというので、お友達にチケットをお願いして観てきました。なかなかおもしろかったです!
 90分くらいのストレートプレイにもできるお話だと思うんだけれど(ディカプリオの映画なんかは2時間くらいかな?)、歌やダンスがけっこう多くて、ベタでわかりやすくなったかなとも思いました。
 そして、宝塚版はそもそもロマンチック・フィルターがかかるものだけれど、それがない外部でやるとなると逆に、リアルになりすぎるというよりはむしろ、露悪的になりすぎる感じはあるのかなー、とも思いました。特にトム(山口馬木也)、ね。すごくマッチョなレイシストになっていて、もちろんそういう側面はあるキャラクターだしデイジー(愛原実花)の結婚生活が鬱屈しているということの補完にもなるんだろうのでそれはそれでよかったんだけれど、ではその当のデイジーはどうかと言うと、実はこれがけっこう薄ぼんやりしていたように見えました。
 一幕前半ではベイカー(大湖せしる)の方が出番があるくらいで、これがまた宝塚の別格娘役がやりそうでいてやはりさらにそれ以上の存在感がある、濃いおもしろい役になっていて、せしるがまたすごく似合っていて達者で感心したので、なおさらヒロインのデイジーの影の薄さは気になってしまったかもしれません。ミナコのせいではなくて、脚本・演出としてこのキャラクターをどういうポジションでどう描こうとしているのかが見えない気がしました。
 というかニック(相葉裕樹)もとても達者で、スタイルが良すぎるきらいがあるくらいですがまっすぐな好青年ぶりと全体の狂言回しの仕事ぶりが素晴らしく、だから要するにどうにもぼやんとしていたのが真ん中のふたり、ギャツビー(内博貴)とデイジーだったのです。
 私は内くんは初めて舞台で観たのかな…? 彼はいつもこういう台詞回しなんでしょうか。これは癖なの? わざとなの? 単に下手であまりナチュラルじゃないってことなの? それともギャッビーのある種の浮世離れ感を表現する的確な演技だったの? 私にはよくわかりませんでした。ギャツビーって結局嘘つきですべてを装っている人だからこれで正しいのかもしれないけれど、私には芝居として全体から浮いてしまっているように見えました。
 ギャツビーは愛するデイジーのために、彼女に見合う男である自分、というものを必死で作り上げた人ですよね。その作為性を表しているようでもあったから、まあいいのかな、とも思わないでもなかった、のですが…
 でもまたデイジーがどうにも、ねえ…これまたいろいろな解釈があるでしょうが、美しいだけでつまらない現実的な女としたかったのか、夢のような幻のようなファムファタールとしたかったのか、なんかよくわからなかったのです。演出も、演技も。そもそもそんなに出番がないし。
 当時の風俗の反映として正しいのかもしれないけれど、まず登場時の髪型と服装がなんだか野暮ったいそこらの女学生みたいで、トムみたいな男がトロフィーのように欲しがる美人妻にもフラッパー・ガールにも見えなかったのが痛かったかなー。ドレス姿になるとさすがの美しさだったし、ギャツビーとの芝居はよかったんだけれど…
 娘がいる設定がすっ飛ばされていたので、それに引っ掛けての「女の子は綺麗なお馬鹿さんなのが一番よ」みたいな台詞がなかったのも、なかったのに気づいたのはもちろん終演後でしたが、だいぶ印象が変わった気がします。
 ギャツビーのデイジーへの恋は、少なくとも今の想いは、かなり自己本位でひとりよがりで押し付けがましいものですよね? デイジーには子供がいようといまいと、トムが浮気しようとしていまいと、それとは別に、そう簡単にはすべてを捨てて今のそんなギャツビーとやり直すなんてできなかったことでしょう。でもそのあたりのことを、「デイジーがこういう人間だったらこうなったんだ」という視点が、この作品にはなかった気がする…それが残念でした。
 男性が書くと(まあイケコも男性なんですけど)恋の対象であるヒロインの人格よりも、恋に酔い溺れ破滅する男性主人公を美しくせつなくナルシスティックに描くことに主眼が置かれがちなのかな…でも原作小説からすると主人公に対しもうちょっと冷笑的なところもあるのではないかしらん。そのあたりはやはりカッコいいばかりの宝塚版にももう少し欲しいところではありますが。
 でもマートル(木村花代)もすごく良くてすごく存在感があって、現代の若い女性観客にはこのキャラクターが歌う「ここから抜け出したい、この貧しい暮らしからお金持ちの世界に羽ばたきたい」みたいな主張の方が刺さる気もしましたし、あんなステロタイプの、ほとんど娼婦みたいな外見に仕立てないでやれば、なんかもっと違う地平の物語が開けそうでしたけれどね。
 だからこそ、ベイカーともマートルとも違う生き方をしたデイジーにきちんとたっていてほしかった。せっかくお人形のように美しく在ることもでき、でもしっかり芝居もできるミナコを擁していて何故、こんな薄らぼんやりしたデイジー像なんだ…と思ってしまったのでした。
 しかしこうして考えると、デイジーがギャッビーの墓に花を供えに来る宝塚版の演出は明らかに蛇足なんですね。どんなデイジー像であれ、そんなことはしないのが女でありデイジーだわ。今回はギャッビーの父(岸田敏志)が切々と歌うのに泣かされました。父親が置いていった帽子を幻のギャツビーが受け取るのもせつない。
 そのあとに軍服姿で現われたギャツビーと、ニックが幻想の中で和解するようなくだりも美しかったです。ふたりは本当には戦場では出会ってなくて、それもギャッビーの嘘だったのだろうけれど、ふたりとも兵隊だったことは事実だし、それで生まれる男同士の絆というものもあるのでしょう。そうでなくても、ニックがギャツビーを本当に嫌いになったことは一度もなかったと思うけれど。
 私は戦争が嫌いだし起きてほしくないし、この国を戦争ができる国にしようとしている人たちを嫌っています。若き日のギャツビーとデイジーが出会ったのもまた別れたのもそして再会したのも、思えば戦争のためでした。
 ラストにフィナーレめいて、軍服のギャッビーと若き日のデイジーが出会って踊ったようなイメージシーンがありました。そのままギャッビーが主題歌というかメインテーマを再度歌い上げるのがなかなかせつなくて、とても良かったです。そのままニコッと笑ってお辞儀して拍手、パレード、となったので、やはりあれはお芝居のラストというよりはフィナーレだったのかな。
 時代を超えて何度でも、どんなようにも描かれていける不朽の名作なのだな、と改めて思いました。だいもん…はちょっとこういう役はもう食傷気味だから、珠城さんで観たいわん。『Bandito』ラストの白スーツにはそれを髣髴とさせるものがありましたよねえ。あとはまこっちゃんとかどうかな、キキちゃんとかもいいかもな。芝居のしがいのある役だと思います。むしろ問題はデイジーか…鮎ちゃんばりの美しさと存在感を出せる娘役、というのはなかなか難しい人選になるかもしれません。
 そんなこんなをいろいろと考えさせられた、楽しい観劇になりました。



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4 コメント

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ギャツビー (ゾフィー)
2016-07-11 01:42:57
コメント2度目のゾフィーです。
私はギャツビーの初演雪組が宝塚初観劇だったこともあってこの作品に何となく思い入れがあり、原作、アサコさん再演、ディカプリオの映画、どれも興味深く楽しみました。
月組再演、アサコさんのギャツビーは文句なしに「カッコいい」。演出や音楽含めた全体はやはり初演が好きでした。デイジーもはまり役でしたし、1幕にエッセンスがぎゅっと詰まっていて。
宝塚のデイジーは彼女自身の苦悩やギャツビーへの思いが描かれている(最後の薔薇のシーンに象徴されているような)、原作や映画とは違うキャラクターですよね。やはり宝塚のヒロインらしい設定。
オリジナルのデイジーは、夫の浮気以外には苦悩などない、その時その時で自分の幸福感を満たしてくれる方へ流れて行くふわふわとした(薄らぼんやりキャラな)女性で、ギャツビーはそんな女性(自分が作り上げた幻想のようなもの)のために命を落とした、という哀しさが何ともいえない後味を残す作品だと思いました。
映画は原作にかなり忠実でしたね。
この舞台は観ていないのでコメントできないのですが、薄らぼんやりならそれはそれで、もっとそういうキャラがはっきり描かれていた方がよかったのかなと・・キャラ自体がよくわからないという意味での薄らぼんやりだと物足りないですよね。推測でごめんなさい。
で!私も珠城さんにギャツビーを演じてほしいと思っていまして、それを強く感じたのが『Bandito』の白スーツ姿だったのです。たま様に合ってると思うんです。こういう、かっこいいのに、どこか愚かで一途で純情な役。(でも確かにデイジーは誰が?)
長々書いて、結局言いたいことはコレでした・・すみません!
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一幕もので再演希望! (ゾフィーさんへ)
2016-07-12 14:01:02
カリンチョさん版は映像でしか見たことがないのです。
よくできていますよね、なので再演で二幕にしたとき確かに少し間延び感がありました。
デイジーは難しい役どころだと思うのですが、演じがいがある役だとも思うだけに、
今回はちょっともったいなく感じました。
でもすごくよかったとほめている意見も見たので、個人的な感覚の差が大きいのかも…?

珠城さんギャツビーはゼヒ観たいですよね!
ショーのある本公演で、二本立てで観たいです…!!
夢が広がるなあ…

●駒子●
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Unknown (mayumi)
2016-07-13 07:43:31
珠うららで観たいなぁ…!!!
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タカスペでもいい…! (mayumiさんへ)
2016-07-15 09:48:06
「朝日が昇る前に」を白スーツで歌う珠城さんの周りを
ゆうりちゃんが優雅に踊るタカスペ一場面なんて…
見たすぎる…!!!

●駒子●
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