駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

劇団扉座『リボンの騎士』

2018年06月29日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 座・高円寺、2018年6月27日19時。

 県立鷲尾高校演劇部はほぼ女子だけの弱小演劇部。しかし今回の作品は手塚治虫の漫画を部員の池田まゆみ(吉田美佳子)が脚本化した『リボンの騎士』。おりしも暴力沙汰で取りつぶしが決まった応援団から、リーダー部長の男子(この日は白金翔太)が王子様役で参加してくれることになった。だが次々と襲いかかる困難に、部員たちは打ちのめされていき…
 脚本・演出/横内健介、原作/手塚治虫、振付/ラッキィ池田、彩木エリ。神奈川県立厚木高校演劇部で16歳のときに処女作を書いた横内健介が、進学校のショボい青春という実体験をベースに書いた戯曲で、1998年初演。今回は劇団の若手、研究生を総動員し、オーディションも開催しての何度目かの再演。サブタイトルは「県立鷲尾高校演劇部奮闘記2018」、全2幕。

 実はこの作家さん、まさに高校の先輩でして、8学年差なのでほぼほぼ同世代と言っていいでしょう。でも今まで死ってはいましたが観たこととがなく…この作品は新聞で紹介されていたのを読んで、学校名が架空のものになっていますがほぼ母校のことだろうしでも世代としてはむしろ『ブラック・ジャック』か『火の鳥』のはずなんだけどどういうことなのかなまさかミュージカルなのかな?とかいろいろ興味がわきまして、なら観ておくか!と出かけてきました。
 おもしろかった! おっくうがって見送らなくてよかったです!!

 もともと『リボンの騎士』の劇化を考えていて、それを高校の群像劇の劇中劇みたいな形にして仕上げた戯曲のようですが、それで正解だったと思いますし、舞台って、演劇っていろいろ制約はあるけれど工夫次第で本当になんでもできるし、その工夫も含めておもしろがれるもので、魅力は尽きないものだなあと改めて思いました。
 たとえば装置転換とか主役たちの着替えタイムのためとか、ダンス同好会(リーダーの彩木役はKAHO)がちょいちょい出てきてガンガン踊ったりするんだけれど、単に暗転するよりいいしアイキャッチ的にも効いているし、彼女たちの現代的なダンスがややダサくてモサい演劇部の女子たちといい対比になっているんですよね。そしてラストにはちゃんと彼女たちがチアリーディングをやる! コレ大事です!!
 いや、作者が高校生だったのは40年前、私が高校生だったのは30年前で、そしてこの作品そのものはガングロっぽいメイクした生徒がいたりつい一週間くらい前の流行り言葉が台詞に取り入れられていたりインスタを駆使する生徒がいたりと微妙にアップデートされている、というかいつの時代の高校生活でもあるように見えるように作られているとは思うのですが、しかし応援団があって対のようにチアリーディング部があった時代に私は生きていたので、そこはダンス同好会なんかじゃダメだしブレイクダンスとかじゃダメなんですよ絶対に!(笑)
 あと、この作品は正確にはミュージカルではないとは思いますが、ファンタジーとかドリームとかパワーとかを表現するためのダンスナンバーがあって、それもとてもよかったと思いました。役者さんってホントなんでもできないとダメだよねえ…

 『リボンの騎士』はヒロイン・まゆみの母親が愛読していた漫画で、母親は漫画家を目指していてプロのアシスタントもやっていて、でも結婚を機に断念し、けれど娘にサファイアのイラストを描いてやったりしていて、そこに並んで娘をキャラクター化したものも描いてあげて、それでまゆみはサファイアと親友のようなつもりで育った…という設定なのですが、きちんと説明されてはいないのだけれど(彼女が「池田まゆみ」だから「けだま」というあだ名で呼ばれている、というのも全然説明がなくて、私はかなり後半まで気づけず混乱しました…こういう愛称の付け方ってわりと近年のものですしね、おばちゃんですまんのう)、まゆみはハタキを剣に模してチャンバラをやっちゃうような男勝りのお転婆娘だったようですし、それで母親はサファイアと並べて娘を描くときに「まーくん」というキャラクターにしたのかな? それでサファイアたちはまゆみのことをそう呼んでいるのかもしれません。
 そういうジェンダーの問題とか、母親の世代は結婚でキャリアをあきらめることがあったけれど自分はがんばりたい、みたいなモチーフとか、まゆみは脚本も書くんだけれどヒロインも演じてみたいと思うとか、でも親友で美人でずっと主役をやってきたトーコ(加藤萌朝)がいて、役争いに敗れて…とか、そんなトーコはモテモテなんだけど実はちょっと男性嫌悪症みたいなところがあって…とか、ホントいろんなモチーフがあるお話で、みんなすごくおもしろかったです。かつ、変にライトでもまたディープでもなく、変に感動的にしたり説教臭くしたりもしていないのがいいなと思いました。
 当初私はこれは構造的にはまゆみトーコのユリだろうとか思ったものでしたが、実際に描かれたドラマはもちろんもっと広く深く、けれどトーコが部活に戻ってきたときにまゆみが「おかえり」と言ったのには「お、『おさラブ』…!」と思って悶えましたし、ファーストキスが舞台上で好きでもない男子となんて嫌だから、とトーコがまゆみにキスしちゃうのにはホントきゅんきゅんしました。でもそれがまた「男性作家が勝手に少女たちにドリームぶつけやがって」とかは思わなかった。役が人間として成立していて、役者がちゃんと役を生きていて、とても自然で好感度が高かったからだと思いました。
 あと、トーコも牧内くん(山中博志)も家庭の事情に振り回されていて、ああ高校時代ってそうだった、親の意向とか経済状況とかにまだまだ左右されちゃう子供だった、ってことも思い出しまして、泣けました。一般生徒たちのシラケ具合とか、生徒会長(山川大貴)の能吏な感じとか、部長の中里さん(小笠原彩)のおかんっぷりとか、三年生なのに引退せず部活にいる花本先輩(伴美奈子。初演でも同じ役だったそうな…! すごい…!!)とか、なんかもうみんなわかる、わかりみがすぎる…!って感じで、でもそれは別にこの時代のこの高校に通った者でなくても、高校生だったことがある人には多少とも肌で感じられるんじゃないかなと思いましたし、もちろん今の高校生にも伝わるだろうと思いました。
 そういえばさすがに客層が若くて観劇に物慣れない空気が開演前の客席にはめっちゃ漂っていて、ああ出演者の友人だから来たみたいな子たちばかりなんだろうなとややうんざりさせられるくらいのはしゃぎっぷりも見えたし、開演しても最初のうちはわざとらしくウケたり笑ったりするのには本当に閉口したのですが、すぐにみんな芝居に集中し出して余計な反応をしてみせなくなったことには感心しましたね。やはり伝わるものがちゃんとあるんだと思います。

 『リボンの騎士』チームは一貫して芝居の中では浮いていて(笑)、でもしっかりとそのキャラクターたちであり続けるのですが、サファイア(砂田桃子)がちゃんと宝塚ふうというかやや大仰なブルーのシャドウのメイクをしたり立ち姿も踵合わせてすらりんとしていたりしていたのに対し、フランツ(松本旭平)は気を遣っている感じは特にしなくて、ホントそういうところだぞ…!と思いました。長身なのはいいけどさあ、ホント男って…イヤある程度わざとなんだと思うんだけれど…
 というか実は私は『リボンの騎士』をきちんと読んだことがなくて(それを言うならアトムもレオもちゃんと読んだこととがありません。教養としては押さえておいたしかるべきものなのかもしれませんが、リアルエンタメの世代としては本当はズレているんだと思うんですよね…)、何度か連載されているので基本的な設定ややっていることはほぼ同じでもいろいろストーリーラインがあるような知識はあるのですが、こういうハッピーエンドになる話なんですか? 天使のミスだか悪戯だかで男の心と女の心を両方持ってしまう、だか心が入れ替えられてしまう、だかだったと思いましたが、しかしものすごい設定ですよねえ…でもこれでトーコと中島くんの間に恋が芽生えるとか、中島くんとまゆみの間に恋が芽生えるとか、そういうんじゃないのもよかったです。
 個人的にはヒロイン争いに敗れたまゆみがジェラルミン大公(高木トモユキ)の胸で泣くところにうっかり泣きました。悪役に慰められる作者とは…!
 あとヘケート(河北琴音)がキュートでとても印象的でした。

 いい意味でも悪い意味でも小劇場っぽい戯曲をあえてやっているんだろうな、とも思いましたが、とにかく楽しく観たので差別する気はまったくありません。いろいろもっと観ていきたいな、と思わさされました。いい経験になりましたし、同窓として励みになりました。もっと観てもらえるといいなー!



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« フォースター『モーリス』(... | トップ | 宝塚歌劇星組『ANOTHE... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

観劇記/タイトルや・ら・わ行」カテゴリの最新記事