駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『こうもり』

2020年12月07日 | 観劇記/タイトルか行
 新国立劇場オペラパレス、2020年12月5日14時。

 アイゼンシュタイン邸。家の外からアイゼンシュタイン夫人ロザリンデ(アストリッド・ケスラー)を、昔の恋人アルフレード(村上公太)が呼んでいる。小間使いアデーレ(マリア・ナザロワ)は妹と夜会に行くつもりでロザリンデに外出許可を求める。そこへアイゼンシュタイン(ダニエル・シュムッツハルト)が弁護士ブリント(大久保光哉)を怒鳴りながら帰ってきた。酔って役人を侮辱したのだが、弁護士の不手際で禁固刑が伸びてしまったのだ。だが友人のファルケ博士(ルートヴィヒ・ミッテルハマー)がやってきて、刑務所に行く前に楽しい夜会にこっそり行こうと誘うと…
 原作/アンリ・メイヤック、リュドヴィク・アレヴィ、台本/カール・ハフナー、リヒャルト・ジュネー、作曲/ヨハン・シュトラウスⅡ世、指揮/クリストファー・フランクリン、演出/ハインツ・ツェドニク、美術・衣裳/オラフ・ツォンベック、振付/マリア・ルイーズ・ヤスカ、再演演出/澤田康子、管弦楽/東京フィルハーモニー交響楽団。全三幕。

 バレエ版を観たときの感想はこちらこちら、宝塚歌劇星組版の感想はこちら
 というわけで実はオペラは初めて観たのでした。DVDは「小学館 魅惑のオペラ」全20巻で持っているんですけれどね。
 というかオペラ観劇自体がとても久しぶりで、B席でしたが3階1列目サブセンターブロックのセンター寄りで視界も音もなんの問題もなく、とても楽しかったです。
 まず美術がお洒落なの! 第一幕、アイゼンシュタイン邸の前の小道なのか庭なのか、ちょっとした街路樹みたいなあるいは四阿みたいなものが置かれているんですが、木だの柵だのが立体物じゃなくて、だまし絵みたいな輪郭の太いお洒落なイラストみたいな絵なんですよ。色合いも粋。第二幕のオルロフスキー(アイグル・アクメチーナ。ズボン役だったのか、素敵だったなー!)邸のセットはゴージャスだったのでこのチープ粋お洒落感はあまりなく、第三幕の刑務所もリアル寄りだったので統一感のなさが不思議といえば不思議でしたが、ラストに壁がなくなってこうもり博士と公爵に協力していた夜会客たちが一斉に現れるのがファンタスティック!でした。
 バレエ・パートも良かったなあ。またドイツ語上演でしたがちょいちょい日本語を挟んできて、うまく笑いを取るのも楽しかったです。
 私はロザリンデもアルフレードとの密会をまあまあ楽しむのかなとか思っていたのですが、ロザリンデは元カレに迫られて悪い気はしないもののちゃんと一線を引こうとしていて、でも夫のアイゼンシュタインの方は、そりゃバレリーナたちとはただ戯れているだけで肝心のことは何もしていないのかもしれませんがやはりある種の「浮気」をほぼ公然としているわけで、それをシャンパンのせいと笑ってまとめるのはフェミ的にちょっと引っかかるところではあります。アデーレが小間使いをやめて女優になる勉強を出来るようになるのはめでたいけれど、これまた刑務所長(ピョートル・ミチンスキー)の援助あってのことで、要するに半分愛人ってことなのかと思うとまたしょんぼりなわけです。でもこういう部分は現代的に改変しようもないところなのだろうから、目をつぶるしかないのでしょうね。観客の側が「ヘンだけど、音楽はいい」と鑑賞できるようになればいいだけです。これで「昔はおおらかで良かったなあ」とか大声で言うおっさんがいたら、端からつぶして滅ぼしていくしかないですね。昔良かったのは男だけで、陰で泣いてる女の存在がないものとされていただけのことなのですからね。今は許されない、未来に向けてなくしていかなければならないことです。男も女もどちらでもなくても、みんなが良い方がいいに決まってるでしょ?
 いや、アデーレのことは最終的にはオルロフスキーが引き受けたんでしたっけ? ここまでのお金持ちになればそれは愛人関係とかとは無縁のちゃんとした芸術的支援であり立派な助成であり、ノーブレスオブリージュでもあるし美しいオチですね。ズボン役だったので女性同士の連帯とも捉えられる。なら、いいか(笑)。
 酒は飲んでも飲まれるな、というのは不変の真理です。アガる序曲を愛し続けていくのと同様、何度でも繰り返し唱え続けていかないといけませんね。しかしそれでも人は酒に溺れて間違いを犯すんだよなあ、何千年してもいっこうに賢くなっていないところがむしろ笑えます。でもこちらはご愛敬に落とし込める。人権の問題はそうではないので、少しずつでも前進していかないといけませんね。と、古典を観ると広い視野が持てる気がするので、やはりたまには触れないとダメですね。来月の『トスカ』も観よう、と思ったのでした。



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