駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

いのうえシェイクスピア『鉈切り丸』

2013年11月30日 | 観劇記/タイトルな行
 シアターオーブ、2013年11月24日マチネ。

 戦乱絶えない平安末期にひちりの男。名は源範頼(森田剛)、幼名を鉈切り丸。姿は醜く、顔には痣、背には瘤、片足を引きずり馬にも乗れない。しかし頭脳は明晰、人並み以上に野望を抱く…
 脚本/青木豪、演出/いのうえひでのり、音楽/岩代太郎。シェイクスピア『リチャード三世』を鎌倉時代に翻案した戯曲。全2幕。

 『リチャード三世』の演目自体は観たことがなかったのですが、いくつかの有名な台詞は知っていたので、その翻案にはなかなかににやりとさせられました。
 しかしすごい話ではある。ピカレスク・ロマンというのとも違う気がしますね。悪役が成り上がる爽快感とも、悪役が罰せられる勧善懲悪感とも無縁の芝居な気がしました。
 リチャード三世は最後に馬を求めましたが、範頼は空を飛びいつもこちらを眺めているようだったとんびに声をかけ、その翼をくれと訴えます。
 でも翼が得られたからといって飛べるとは限らない。飛んだからといって素晴らしい景色が眺められるとは限らない。彼の魂はねじけていて、そうしたものは手に入れられなかったように思えるのです。
 でも彼がそうなってしまったのは決して彼自身のせいではない。さりとて誰かが悪かったということでもない。それがせつなく、悲しく、やりきれない。
 歴史は勝者の手で書き換えられ、すべての真実がそのままに書き残されることは決してない。それでも何かは必ず残されるのだけれど…
 そんな物語に思えました。

 外来語をしゃべっちゃう頼朝(生瀬勝久)やその強すぎる妻・政子(若村真由美)も素晴らしかった。
 巴御前には初舞台の成海璃子。固い物言いがキャラには合っていたかもしれないけれど、まだまだ修行が必要かな。
 ターコさんの建礼門院(麻実れい)は幽玄でおどろおどろしくてこれまた素敵でした。

 ラップを歌っちゃう大江広元(山内圭哉)が書き付ける公文書『吾妻鏡』が為政者の命令で事実を歪曲して書かれていったり、予言や創作めいたことをするに至るあたりは、ちょっと『月雲の皇子』を思わせておもしろかったです。
 しかし長いけどな!


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