駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『カステル・ミラージュ/ダンシング・スピリット!』

2009年11月19日 | 観劇記/タイトルか行
 東京宝塚劇場、2002年3月5日マチネ。
 実は、宙組初観劇でした。
 ハナちゃん(花總まり)は好きだったんだけれど、雪組時代にすでに完成されて見えたので目新しさがないかなと勝手に思っていたり、ズンコちゃん(先代トップ姿月あさと)もタカちゃん(現トップ和央ようか)も特にファンという訳ではなかったので…うちの母もスッと細面で渋めの男役が好みで、タカちゃんは丸顔で可愛らしすぎるように見える、とか言っていたのですよ。
 ところがところが。劇評がわりによかったので申し込んでみるかと抽選に応募したら、SS席が取れてしまいまして。
 4列目ほぼ正面でモロに観られて、母娘そろってタカちゃんにノックアウトされて帰ってきた公演となりました。
 母はちょっと一路真輝ふうの歌声と、意外と頬が削げてすっきり見えた顔立ちと、何よりスタイルの良さにコロリとまいったらしく、私はあいかわらず顔も声も好みとちがうんだけれど、その芝居っ気というか演技っぷり(そんな日本語ありません)に惚れてしまいました。ショーが気障で派手で良かったこともあって、
「宙組、また来ようね~」
 と声をそろえてしまいました。タカちゃん、なんておこがましい、タカコ様、ってなもんです。ははは、お恥ずかしい。
 お芝居の舞台は第一次大戦前のアメリカ。ニューヨークの貧民街で、レオナード(和央ようか)とジョー(水夏希)は育つ。ストリートの青空ダンス教室の一番人気はエヴァ=マリー(花總まり)。ある日、フランク(成瀬こうき)を中心とするイタリア系少年のグループがやってきて、ジョーの賭博の借金を回収しようとする。レオナードはジョーの借りを返すためにフランクにクラップ勝負を挑む。エヴァはレオナードに、勝利の女神ミネルヴァのペンダントを渡す。マフィアのボス・アントニオ(伊織直加)はレオナードの度胸の良さを見初め、仲間に加える。そして十年後。西海岸へ進出するべくハリウッドを訪れたレオナードは、新聞王テイラー(樹里咲穂)の屋敷で、モンテカルロの歌姫アリアーヌと出会う。彼女こそ成長したエヴァだった…作・演出/小池修一郎、作曲/吉田優子。
 男役のスーツ姿がかっこよく、専科の三人を含めたキャラクターも多彩でたくさんの生徒に役がついていて、展開はスピーディーで、ストーリーもおもしろかったです。でも酔えなかった。すごーく小池先生らしい物語だと思いました。つまりこれは、男の人の夢なんじゃないかなと思うのです。格別マッチョだとかいうのとはちがうのですが、どうも本来の宝塚歌劇とは30°くらい方向性がズレている気がしないでもないのです…
 たとえば、リチャード・テイラーというキャラクターです。
 イタリアに帰国して歌や踊りの勉強を続けていたエヴァをリチャードが見出し、パトロンになってデビューさせ、過去を捨てさせ、政治から遠ざけて身の安全を図り、お金と愛情を注ぎ、妻との離婚が成立し次第結婚する気でいます。エヴァはリチャードに対して感謝も尊敬の念も抱いているけれど、でも真実の愛は感じられないでいる。自分を囚われの身と感じているのです。レオナードと再会して、エヴァはついに何もかもを捨ててリチャードのキャッスルを出るのですが、どうも作者は、リチャードのような愛が男が女に与えられる最高で最良のものであり、それを蹴るエヴァのような女は馬鹿だと考えているのではないかなーと、お芝居を観ていて私は感じちゃったのです。ジュリちゃんの演技がなんとなくあいまいで輪郭がはっきりしていない感じだったのは、そこらへんへの反発とか葛藤があったのではないかしらん、というのは考えすぎ? ちなみにこの後、レオナードのホテル建設を妨害するキャンペーンを張ったリチャードが、エヴァが頭を下げにきただけでキャンペーンを中止するのはよくわからない。これは作劇上の問題ですが。
 たとえばこの人が、お金をかけることでしか愛を示す方法を知らなかったのであり、お金でエヴァの本当の心を買えるとは思ってはいなかったのだけれど他に方法を知らなかったのであり、自分のやり方ではエヴァを幸せにすることはできないんだと気づいて彼女を自由にする、というようなキャラクターにすることも可能だったと思うのです。その場合は、ドリスや公爵の口車に乗せられていやいや妨害キャンペーンを張る、という形になるのでしょうが。で、そんなことをしても彼女は戻らないし、抜け殻だけの彼女が戻ってきてくれてももはやそれではだめなんだということに気づいてしまったし、だから彼女が頭を下げに来たときキャンペーンを取りやめて彼女は返す、というような。その方がせつないし、女性好みだと思うんですよね。リチャードはリチャードで本当にエヴァを愛していたのだ、となる訳ですから。女はそういうふうに愛してもらいたい訳ですから。宝塚歌劇は女性相手の娯楽なんですから。
 でも、この舞台のリチャードはそういうんじゃないように見えました。誰でもよかった訳ではない、と言いつつも、リチャードはエヴァを見ていません。彼女の個性を、本質を認めていません。彼が求めたのは最初っから最後まで自分の理想の女神像であり、エヴァ自身ではありませんでした。それこそが幻であり、彼の城の中にしか存在しないものであり、タイトルの別の側面にもなるのですか(このタイトルが本来示しているのは、レオナードが建設するホテルのことであり、ホテルが繁盛してもなお滅んだ彼の人生のことでしょう)、それが偽物だと思い知ること、悔いることは最後までされません。そこになんだか、往生際の悪さを感じるというか、男の頑固さみたいなものが見えるというか…小池先生は、お金があったら若い美人を捜してきて自分の思いどおりの女にするのが夢で、それが男の究極のロマンで、女もそうされるのが一番幸せだと考えてるんじゃないのかなーと、うがちすぎかもしれませんが私は思ってしまったのです。
 同様に、ラスト、レオナードの死も本当は納得がいきません。こういう滅びの美学というのも男の人特有のロマンのような気がします。本当にロシアン・ルーレットで命を落とすんだったら、それは運が悪かったということで、それはわかるんです。残された女も泣いて灰をまいて弔って想い出をよすがに生きますよ。でも6発全部自分で引き金を引くんだから、あれは自殺ですよね。それは体のいい逃げです。女は好きな男に何もかも放り出されて死なれたくなんかありません。
 組織の金を個人で使い込んだこと、遠い異国のことでも身内に対立したものは家族ごと敵と見なされること、だからどこへ行っても組織の追っ手がかかりこの世界中にふたりが暮らせる安住の地などない、ともっともっと強調されてもなお、でもどこかにあるかもしれないでしょ、一緒に逃げようよ、と言うのが女でしょう。宝塚歌劇はそこをくんでくれなくちゃ。責任を取ったつもりか何か知らないけれどさっさとひとりで死んじゃうなんて、男の目にはきれいでかっこいいかもしれないけれど、女には虚しいです。
 このような微妙なズレを感じつつも、ストーリーには破綻はなく(リチャードがキャンペーンを取りやめるところを除いて)、おもしろくは観ました。各役者の演技が本当に的確でしたしね。
 この間「好きだーっ」とか叫んでいたとはとても思えないすばらしいマフィアのドンぶりだったナオちゃん。レオナードへのライバル心や悪ぶりがこれまた上手かったオッチョン。こうやってコウモリのように上手いこと世の中渡っていくんだろうなーと思わせられるイヤーなマダムな感じが良かったアッコさん(陵あきの)。これで退団とは涙、涙です。花形記者ドリス(出雲綾)や検事マクガバン(越はるき)、リチャードの秘書カーター(朝比奈慶)も過不足がなかった。
 逆にジョーはちょっと味がなさすぎたかなー。
 主役カップルも、何がどう、と言うんじゃないんですが、よかったです。前の雪組公演でのヒロインの演技が「?」だっただけに、安心して観られて、よくストーリーが追えました。ハナちゃんは鬘がよかったです(そんなほめ方ですんません…)。最初の歌もちゃんとオペラのプリマに聞こえました。プロポーションが本当に良くてどのお衣装も似合っていたし(胸が大きくなっていた気がする…あああ、またまたすんません…)。ちょっと気だるげで、品があって、素に戻ったところもあまり子供っぽくしすぎないでいて、いいヒロインでした。
 タカコさんは何がよかったかって、なんだか男らしかったところ(笑)。これは演出のうちなんでしょうけれど、おやすみのキスにはシビれました。逆にラストのエヴァとの別れ際、ほとんど乱暴なくらいに彼女をガッと抱き寄せてキスするところは演技の良さでしょうね。うっとりしました。
 砂漠でのキスシーンも良かったなああ。そういえばこのときエヴァは裸足でしたが、身長差がつきすぎちゃって絵としてあまり美しくありませんでした。エヴァがキャッスルを出てありのままの彼女になっているということを表現したかったのかもしれませんが、ヒール、履かせてほしかったなー。
 耳に残ったのが、「あ?」とか「え?」とかのセリフ。妙にナチュラルでいい感じでした。ああ、上手く説明できない。これはもう愛ですね。タカコさんはこれがまだ3公演目。これからじっくり観ていきたいです。
 グランド・レビュー『ダンシング・スピリット!』はタイトルどおり踊りまくり歌いまくりの「これでもか!」という豪華で派手で気障なショー。作・演出/中村一徳、作曲/西村耕次。
 宙組は予算があり余っているんだろうか…なんて思ってしまうほど、久々にゴージャスで濃ゆ~いショーでした。覚え易くて健康的な主題歌が嘘っぽいくらいでした。場面数はそんなに多くないんだけれど、スターさんたちが入れ替わり立ち代わり…という印象でしたね。
 専科の三人がここでも大活躍。特に炎の男に扮したナオちゃんが若手と絡みながら銀橋を渡る第14場は、異様にエッチで、人気のあるシーンなんじゃないでしょうか。若手男役のお衣装がパンツでなくタイツだったので、中性的ででもエロティックでなまめかしく、心が騒ぎましたね。ナイショですが、ワタシ、いわゆる「もっこり」を捜してしまいましたよ。たとえばバレリーノなんてそこまでが鑑賞するべき身体でしょう? 何もナイのが不思議でしたよ。本当にあの場は倒錯していたなあ…レズビアンを見ていることになるのかホモセクシャルを見ていることになるのか、という…
 これで退団のヒナちゃん(朝比奈慶)があちこちでものすごく元気に踊っていて、うれしかったです。モエさん(萌水せりか)、アッコちゃん(第6場!)もキレたように踊っていましたね~
 そして、ハナちゃん再発見。実はプログラムを見たときに、ひと場面くらいアッコさんなりミホコちゃん(彩乃かなみ)なりに譲ればいいのに、巷で「女帝」とも噂される強権ぶりは本当なのか?とか思わないではなかったんですよ。
 でもねえ、ハナちゃん、いいんだわ。特にネズミS。こんなに踊れた印象って持ってなかったし、しかも芝居っ気あふれてて感動しました。乙に澄まして佳人ぶるところが全然ないんだもん。これは生半な新進娘役には脅かせませんよ。娘役トップになって長いんだけれど、まだまだ、やりたいだけやってほしいなあ。デュエットダンスのときのストレートロングの髪型もたいそう美しゅうございました。ドレスの裾と同じ感じでなびくのが幻想的で夢のようでした。
 ひとつだけ…プロローグとパレードの上級生娘役の、金のオーバーオールっつーかパンタロン(!)っつーかなお衣装が…ワタシ的にはちょっと…でした。
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