映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

火宅の人(1986年)

2020-01-05 | 【か】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv17495/


 作家の桂一雄(緒形拳)は、妻ヨリ子(いしだあゆみ)と4人の子供があり、ようやく直木賞を受賞し、作家として足場を固めつつあったところで、若い女優志望の矢島恵子(原田美枝子)と出会い、“コトを起こした”。

 恵子と同棲生活を始めた一雄は、家に寄りつかなくなるが、恵子との生活にも疲れ、放浪の旅に出た先で、行きずりの女・葉子(松坂慶子)と関係を持つなどするが、結局、いずれも破綻し、家族の下へと戻るのであった。


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 今年の初レビュー。昨年末に見たのだけど、うだうだしていたら年を越してしまいました。


◆若い頃に見なくて良かった。

 この作品、公開当時に宣伝されていたのを何となく覚えているけど、モデルが檀一雄で、その女遍歴を描いた私小説を映画化したものだということは知っていたから、まだオコチャマだった私は“けっ、そんな恥知らずな話、よー書くわ、映画化なんてよーするわ、、、(軽蔑)”……みたいに思っていたのだった。檀ふみのことは結構好きだったから、“実の父親のあんな恥さらしな作品の映画に、何で出るのかね?”などとさえ思っていた。

 だから、当然、本作を見たのは今回が初めてで、原作の小説ももちろん未読。大分前に、沢木耕太郎が「檀」というノンフィクションを上梓したとき、当時は沢木のこと結構好きだったので、「何で彼が檀一雄のことを……?」と思ったけど、読もうとは思えなかった。その後、沢木のこともあんまし好きじゃなくなって、ますます彼の本を手に取る機会もなくなっていた。

 けれども、今回、本作を見て、原作も、沢木の「檀」も、読んでみようかという気になった。

 ……というのも、檀一雄、、、いえ、本作での桂一雄という男が、なんだか妙に人間臭くて愛嬌がある人だと感じたから。ここまで見事に愚かしさをさらけ出されると、却って好感を抱いてしまう。ヘンに取り繕うこともせず、まぁ、悪くいえば開き直っているとも言えるが、なんかそこまでの開けっぴろげさもない、ただただ、右往左往して成り行きに戸惑いながら、とりあえず今を何とか生きている“だけ”の醜態っぷりが突き抜けていて微笑ましい。実際、自分の夫があんなんだったら、微笑ましいどころの話じゃなく、殺意さえ湧くと思うが。

 実際はどうだったのかは分からないが、本作では一雄が恵子に走ったのは、二男の病気がかなり影響しているように見え、何となく一雄の心境も理解できないではない、、、という気がしてしまったのも事実。若い頃に見ていたら、全く違う感想を抱いたと思うが、これは歳を重ねて、モラルや正論では切り刻めないモノが人間にはあるということを身をもって知ったことが大きいのだろうなぁ。

 二男の後遺症で、ヨリ子さんが神頼みに走った心境も、また理解できる。何でもイイから拝みたい縋りたい、、、という気持ちになることが、人生には起き得る。夫の相手なんかしちゃいられない、とにかくこの子を何とかしたい、元通りにしたい、、、そういう母親の気持ち。私には子はいないが、想像は出来る。

 そんな妻と家に居場所を感じられなくなり、要は一雄は現実から逃避したんだわね。本作中で、恵子のことを「あれほど惚れ抜いた人」みたいに言っていたけど、実際惚れたに違いないだろうけど、逃避する場所(恵子)が都合良くすぐそこにあった、、、ってのが大きいんじゃないかなー、と感じた次第。実際、二男が亡くなると、恵子との関係も完全に終わる。そして、とぼとぼと、妻と子供の下へと帰っていくのだ、一雄は。それくらい、夫婦の間には、二男の病気というのが大きく横たわっていたのだと感じられた。

 みんシネでの本作の評価はかなり厳しくて、おおむね“底が浅い”という感想が主だったけれど、私は、そうは感じなかった。人間の営みなんて、あんな風に右往左往して、圧倒的な現実の前にただオロオロするしかなく、みっともないのが基本じゃないかしらね。それを“底が浅い”と感じるのは、多分、生きる意味とかを信じていることの裏返しなのだと思う。私は、生きることについての意味も意義も、とっくに放棄しているから、こういう愚かしい人間の有様をただ描いているだけみたいな作品が“底が浅い”とは思わない。


◆やはり緒形拳は名優。

 本作は、深作監督作品の中では“駄作”とも言われているらしいけど、深作映画をそんなにたくさん見ていないから何とも言えないが、決して駄作だとは感じなかった。

 何より、やっぱり緒形拳が素晴らしい。昭和のだめんずを見事に愛嬌ある男として演じていらっしゃる。ハッキリ言って笑っちゃうシーンが多々あり、そのほとんどが、一雄の愚かしさから来る行動に対して。何というか、基本的に憎めない男に描いているのだよねぇ。原作でもそうなのかしらね。

 一雄を取り巻く女性たちが豪華女優陣。原田美枝子も松坂慶子も美しく大胆な濡れ場シーンで眼福だが、私が一番印象に残ったのは、なんつっても、妻を演じたいしだあゆみ様。二男の回復祈願でヘンな宗教にはまって髪振り乱して拝んでいるのも鬼気迫るが、一雄を振り切って出ていくシーンなんか、思わず、ぷぷっ、と噴き出しそうになる。あんだけ「二度と戻りません」なんて啖呵切っておいて、戻ってきちゃったりとかも、なんか可愛い。そして、何だかんだ言っても、一雄のことはぜ~んぶお見通し、、、という不敵な笑みも怖い。

 警察で、恵子とヨリ子が鉢合わせになるシーンが面白い。恵子のおでこを、ヨリ子がペシッと叩くんだけど、それが「何よ、この女!!」という感じじゃなく、「めっ!!」という感じで、思わず笑ってしまった。それを横で見ている一雄の間抜けっぷり。警察官役の蟹江敬三もイイ味出している。

 恵子と一雄の壮絶な喧嘩シーンは、深作監督らしいバイオレンス調で、見応え有り。中原中也の真田広之は、ちょっと違和感有りだが、太宰と喧嘩した後で突然「汚れちまった悲しみにぃ~」とか大声で喚きだすのは、正直言ってドン引きというか、小っ恥ずかしいというか、、、いたたまれなくなってしまった。岡田裕介の太宰はまぁまぁ感じ出ていたかな。

 檀一雄の作品、一つも読んだことないので、ちょっと読んでみようと思います。ついでに沢木の「檀」も。

 

 

 

 

 


その後の檀家は、、、

 

 

 

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2 コメント

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今年こそ情痴 (松たけ子)
2020-01-06 21:17:11
すねこすりさん、明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願い申し上げます(^^♪
私、この映画すごく好き!ていうか、緒形拳が好き!ダメ男っぷりが笑えて可愛い!コメディ調だけど、男女の生々しい相克や性愛も描かれていて、役者といい内容といいもう今のポリコレ邦画では製作不可能な映画だな~と、昭和を懐かしんでしまいます。
いしだあゆみの拝み演技、クレイジーで笑えた!いしだあゆみ、最近お見かけしないので心配。ブルーライトヨコハマまたTVで歌ってほしいです。
邦画はもう漫画ものだらけだけど、2月公開の妻夫木聡の「Red」は大人の恋愛ものなので楽しみにしてます。
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Unknown (すねこすり)
2020-01-06 23:52:52
たけ子さん、こんばんは!
こちらこそ、よろしくお願いいたします♪
私もこの映画、気に入っちゃいました。緒形拳、本当に良い俳優さんだと改めて思います。
いしだあゆみ、確かに最近見掛けないかも、、、。彼女も、シリアスからコメディまで、すごく上手い女優さんだと思います。
お!Red、やっぱりたけ子さんご覧になる? 私も、一応チェックしているんだけど、、、どうしようかな~。
ぶっきーも、緒形拳みたいな味わい深い俳優になれるでしょうか???
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