映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

東京物語(1953年)

2024-02-09 | 【と】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv23661/


 尾道に暮らす平山周吉(笠智衆)と妻のとみ(東山千栄子)は、東京の下町で診療所を開業している長男・幸一(山村聰)の下へと遠路はるばるやって来る。同じく東京に暮らす長女の金子しげ(杉村春子)や、戦死した二男の妻・紀子(原節子)も一堂に会し、久しぶりの再会を喜ぶ。

 しかし、幸一は往診を頼まれるなどして忙しく、しげも美容院の仕事に追われ、両親の歓待どころではない。せっかく上京して来たのに所在ない平山夫妻を、紀子が東京見物の案内をすることに。帰りには紀子のアパートにも寄って、もてなしを受けた2人は楽しい時間を過ごす。その後、平山夫妻は、しげと幸一の計らいで熱海の温泉に足を延ばすが、その温泉宿は安宿で騒がしく夜も寝られない。早々に東京に戻ってくれば、「何でもう戻って来たの?」としげに言われる始末。

 仕方がないので、尾道に帰った平山夫妻。帰って間もなく、とみが危篤になる。


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 小津映画は、ほとんど見ていなくて、もう何十年も前になぜか『大人の見る絵本 生れてはみたけれど』を見ただけ。小津映画が世間で(というか世界的に?)評価が高いのは重々承知なんだが、正直言って食指が動かなかったというか、興味を持てなかったというか、、、。

 本作は名作として度々TVでも部分的に有名なシーンを見たことはあったけれども、話の筋も何となく知っている程度だし、“いまさら名画”シリーズ第5弾として、一度ちゃんと見てみようかな、、、とアマプラで配信していたので見てみることにしました。

 ……というわけで、本作をお好きな方、小津信者の方々は、この先はお読みにならない方が良いと思います(悪意は全くありませんが、若干悪口になっているので)。


◆大人になった我が子の家を訪ねるということ

 平山周吉は、本作内の設定では70歳だそうだ。私の母方の祖父(明治生まれ)より一回りくらい年上かな。でもまあ、大体同世代と言っても良いだろう。ちなみに父方の祖父は私が生まれる前に亡くなっている。

 で、本作を見ていて、私は無意識に祖父と周吉さんを比べてしまっていたのだった。というのも、祖父は「結婚した我が子の家には絶対に行かない」を信条としていた人で、妻(祖母)にも「決して行ってはならん」と言っていたという。母方の兄弟姉妹は8人いるが、息子であれ娘であれ、祖父母が訪ねて行ったことは(全くないかどうかは分からないが)ないらしい。父方の祖母は時々我が家に来ていたが、少なくとも、私の記憶する限り、母方の祖父母が揃って訪ねてきたことは一度もない。

 なぜ、祖父がそこまで頑なに子の家庭を訪ねなかったかといえば、本作がその答えと言って良いだろう。

 結局、子には子の生活があるということだ。祖父は、自分たちが訪ねて行くことが、いかに子に物理的・経済的、そして何より精神的な負担を掛けるかを分かっていたから、頑として訪ねなかったのだと思う。

 客人が来るとなれば準備も必要、食事や茶菓子、寝具だって買い足さなきゃいかんかも知れぬ。おまけに、送迎の交通費やら、観光案内でもした日にゃ外食費やら何やら、土産代に至るまで、出費はいやでもかさむ。金の話だけじゃなく、幸一もしげも自営業ならそもそも都合をつけること自体が難しい。

 身も蓋もない話だけど、親が子の家庭を訪ねるのはトラブルの素である。ネット掲示板でも、義理の両親が訪ねて来て迷惑だという内容の書き込みは定番だ。父方の祖母が我が家へ来れば、両親は必ず揉めた。母親は専業主婦だったが、家は広くないし、経済的にも余裕があるわけじゃなし、そもそも姑である祖母を母親は嫌っていた(理由は耳タコってくらいに母親から聞かされていたがここでは割愛)。しかも祖母は一度来ると1週間は滞在していたので、昼間仕事に行ってしまう父親は丸投げで済んだが、そりゃ母親にとってはかなりの負担だったろう。

 ちなみに祖父亡き後、母方の祖母は時々我が家へやって来ては長逗留していた。そして、娘である母親と険悪になっていた(父親は適当に対応していた)。そうまでして祖母が我が家へ来る理由が分からなかったが、まあ、寂しかったのかな。ほかにも兄弟姉妹がたくさんいるのに、ソリの合わない母親の所にわざわざ来るのは不思議だった。

 それはともかく。そんな祖父と生まれ育った時代はほぼ同じ周吉さんが、子の家を泊まり歩いている姿が、私にはあまり好ましいものに見えなかったのである。おまけに、そんな子らのことを妻と「優しくない」と言ってグチっている姿は、正直言って醜悪だとさえ思えた。

 子にしてみれば、親だからこそ邪険にできず、しかし自分の生活もあるので板挟みになるのだ。そういうことに思いが及ばないのか、及びながらもなのか分からないけど、夫婦でグチる姿は、お世辞にも微笑ましいとは思えなかった。


◆本作に、日本が“悪くなった”理由が描かれている、、、らしい。

 あちこちでされている本作の紹介文を読むと、実子が冷たく親をあしらう一方で、他人である嫁が老夫婦に誠意ある対応をしたことの対比云々、、、というのが目に付くが、本気で言っているのかと書いた人の見識を疑う。

 老親はそれだけで哀愁を誘う姿である。言ってみれば「弱者」であり、バリバリ働く子たちは「強者」である。強者が弱者をいたわらない図は、たしかに非道に見える。

 けれど、紀子があのように振舞えたのは、彼女が独り身で子が居らず、勤め人で、ある程度自由が効く身だからに他ならない。あれで、戦死した夫との間に幼子でも居たら、しげのように店を構えていたら、話はゼンゼン変わって来るだろう。ましてや、紀子と周吉夫婦は赤の他人である。滅多に会わない他人だからこそ、たまに会ったときくらいは親切にできるという側面は確実にあるのであって、背景や関係性の違い過ぎる者同士を対比させて、実子のくせに冷たいだの、他人の方が優しいだの、あまりにも表層的で浅はかなのでは。

 もっとも、監督の小津はそんなことは百も承知で、だからこそ、終盤に、紀子が「私、ずるいんです」と周吉に話すシーンが入っているのだろう。

 紀子を“優しい人”と感じる人々は、かなりオメデタイと思う。もちろん、感じが悪いより良い方が誰しも好きなのは理解できるけれど、「日本の良さを体現する人物」「東京なるものに日本人の美徳が壊されていくのを辛うじて阻む存在」とか書いている人がいたのには苦笑してしまった。紀子さんの見せた“感じ良さ”は彼女のほんの一面に過ぎないということ。人間は多面体なのだよ。別の顔があるんですよ、紀子さんには。この映画では描いていないだけです。

 私が時々拝読している映画ブログ(ブログ主さまは男性で70代と思われる)では、本作が最高点になっていて、レビューでも激賞されていた。……まぁ、それは好みの問題なので良いのだが、その方は、本作のについて「家の崩壊をテーマにしている」と書かれている。「家の崩壊」とは、「家(族)制度の崩壊」「核家族の発生」という意味だそうである。さらに、戦後の小津は、そのことを懸念しており、映画でそれを訴え続けていたと。驚いたのは、「日本の社会の諸悪(少子化や犯罪の増加等)は家制度の崩壊から始まったと言っても過言ではない」とまで書かれている。

 他作品の映画評を読むと、保守寄りのリベラル、、、という印象なのだが、本作の感想は、思いっきり昭和オヤジ丸出しで、のけぞった。

 家制度ってのは、そりゃ、男(特に長男ね)にとっては実に都合の良い制度で、もっと言うと、女の犠牲の上に成り立っていたんスよ、、、。だから、こんなもんが崩壊して日本が悪くなったってぇんなら、それは家制度の地獄の側面を無視した、安直な懐古趣味に浸ってるってことです。まあ、家制度については書くと長くなるのでやめておくけど。

 また、本作の解説をしている複数のサイトで、子が成長して家族が崩壊していく様を描いているとしているのが目に付いたんだが、それは家制度下でもあった話じゃんね。男でも、二男以下は家から出ざるを得ないことが多かったんだから、必然的に家族はバラバラになるわけで。どんな制度であれ、人間が成長して老いる生き物である以上、形が変わらない家族なんてない。家族の形が変わることを「崩壊」というなら、崩壊しない家族はこの世に存在しない。

 で、考えてしまったのである。前述の私の祖父は、言ってみれば家制度のど真ん中で長男として育ってきた人でありながら、なぜ周吉さんと違って、子の家に行かないことをポリシーとしていたんだろう、、、と。祖父のことなど、ゼンゼン知らないのだよな、、、。

 本作を見て以来、祖父についてイロイロ思い出そうとして記憶をたどったのだが、祖母にはよく「女の子なんやから云々、、、」ということを言われていたが、祖父の口から「女の子だから」「女のくせに」というセリフは聞いたことがない、、、という事実に思い当たった。私の両親もしょっちゅう「女の子だから」「女のくせに」と言う人たちだったが、祖父がそんな言葉を口にしたのは全く記憶にない。むしろ、幼い孫娘である私や姉に「しっかり勉強してエエ大学行って立派になれ!」とよく言っていた(おじいちゃん、ゴメン)。

 でも。一方で、祖父は自営業で羽振りも良く、祖母も結構泣かされていたらしい、、。一体、どんな男やったん、、、おじいちゃん!!


◆嗚呼、小津映画。

 実は、本作を見る前に、昨年末にNHKBSでオンエアしていたのを録画してあった『秋刀魚の味』を見たのだけれど、本作同様、あんましピンと来なかった。それはやはり、作品内で描かれる女性の置かれた立場が、どうにも受け入れ難いものがあるからだと思う。

 小津映画が高く評価されているのは知っているが、私は撮影技術なんかはよく分からないし、構図が云々とか言われても「ふ~ん」という感じでしかない。それよりも、もっと分かりやすい、例えば、笠智衆の棒読みな演技とか、セリフ回しのくどさとか、いかにも芝居がかった演出とか、、、に目が行ってしまう。

 だから、こんなことを書くと小津信者に怒られるだろうけど、若干、過大評価されているんじゃないか、という気がしてしまう。

 ある人は「この時代に、普通の人の普通の生活の普通の話を取り上げて描いたところがスゴいんだ」みたいなことを書いていたが、そうなのか? まあ、映画史を分かっていないからツッコミようもないが、そういうもんなんですかね。

 一つの「映画作品」として見て、あんまし魅力的だとは、、、私の目には映りませんでした。良かったのは、おじいちゃんのことを思い出させてくれたこと。

 名画の誉れ高い作品に、こんな感想ですみません。他の小津映画をいっぱい見れば、印象変わるんでしょうか。

 

 


 

 

 

 

原節子演ずる紀子さんより、杉村春子演ずるしげさんの方が正直で好き。

 

 

 

 

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4 コメント

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何度か挫折してそれっきり (amore)
2024-02-10 02:29:36
山田洋二監督の『東京家族』が、小津監督の本作品をモチーフにしたものだと知って(家族をテーマにしてきた山田監督らしい)、「これ、名画なんだから」と自分に言い聞かせながら、頑張って観てみたのですが、ダメだった。

好きな役者(夏川結衣)が出てくるメリハリの効いた現代版を観た後だったというのもありますが、オリジナル版はただひたすら退屈で眠くて仕方がなかった。私の脳味噌では小津作品は理解できないんだと思っていたので、こちらのレビューを読んで、何だかホッとしました。

小津監督も笠智衆もあの時代に活躍したから、評価され映画史にも名を刻みましたが、本当のところはどうなんでしょう?

そうなんですよね、親が大人になった子どもの家を訪れて、長期滞在なんかするもんだから、こういうことになる。適度な距離やパーソナルスペースは、親子といえども互いに尊重しなくちゃいけないと思ってます。
返信する
Unknown (Lunta)
2024-02-10 11:37:34
先日尾道に行って東京物語のロケ地と知りました。
はるか大昔に一度TVで見たと思うけれど、子供の頃のことでほとんど記憶なし。ほんとに見たのかどうかも今となっては怪しい。
最近「原節子の真実」という本を読んだら、原さんは実は小津映画はお好きじゃなかったらしいです。たぶん小津の理想の女性像に対して「そうじゃない!」と反発を感じていたんでしょうね。
すねこすりさんの家族に関する考察、さすがです。
それにしても古い日本映画って役者のセリフがほとんど棒読みですよね。
今でもイギリスや韓国の役者さんたちに比べて日本人は芝居が下手だなと思ってしまいます。
返信する
おじいちゃん!!! (フキン)
2024-02-10 13:14:23
すねこすりさん!!!
レビュー拝見し、ウホホ、ハハッハ!!と爆笑しました。(はっきりと書かれているのが気持ち良かったです!)
ほんとほんと、すねこすりさんの仰る通りですよ。
思わず拍手したくなりました、マジで。笑
(小津映画に関しても、家族観に関してもです!)
私もむかーし、仕事関係の年上の方に映画が好きですと言ったら小津作品をあげられて、観たんですが
20代半ばだった私には「何やこれ、フツーやないか!!!」と唖然とし、ま、そういう映画もあったのね・・と本を閉じるように心の中にしまいました。笑 それでも、後に何本か観たりしたんですけど…やはりあまりピンとはこなかったですね。

ステキなおじいちゃまでしたね!!(^.^)
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「世界の〇〇」が好きな日本人。 (すねこすり)
2024-02-10 22:58:52
amoreさん、こんばんは☆
山田洋二監督版は未見なのですが、小津版より良さそうですね?
折角だから見てみようかな(^^♪
何というか、世界のOZU!映画でも、合わないもんは合わないのでどうしようもないですね。
記事内にも書きましたけど「秋刀魚の味」も、私はダメでした、、、(-_-;)
パーソナルスペース、本当に大事です。
距離感とか、その不快指数には個人差あるし、なかなか難しい、、、。
イタリア人は結構距離感近そうなイメージなんですか、どうなんでしょう?


Luntaさん、こんばんは!
「原節子の真実」読んでみたいと思いながら未読です。
小津映画をお好きじゃなかったというの、何となく分かる気がします。
記事内で書いた男性ブロガーさんは「この映画を嫌いな日本人はいない」みたいなことを書いていたんですけど、えぇ~~~、、(-_-;)と思っちゃいました。
飽くまでネットでの印象ですけど、本作を褒めているのは男性に多い気がしますね。
笠智衆は、小津監督から「演技するな、棒読みでいい」と言われていたとか。
俳優に「演技するな」ってすごいこと言うんだな、とビックリしました。
日本の映画やドラマは、人気俳優(タレント)頼みなところがあるので、なかなか本格派が生き残る土壌が出来ていないのかも知れません。


フキンさん、こんばんは♪
まぁ! 爆笑していただいたなんて、嬉しいです(^^;
小津ファンにはめっちゃ怒られそうなことばっか書いてしまいましたが。
そっと本を閉じるように、、、って、分かります。
それでも、その後何本か見たって、フキンさん偉い!!
私はこの後、小津映画を見る気力、、、ないかもです(*_*)
おじいちゃん、面白い人でした。
うなぎを自らさばいて七輪で焼いてくれたり、手先が凄く器用で水墨画を上手に描いたり、、、今の私と、当時のおじいちゃんで色々お話したいなぁ、なんて、今回祖父についての記憶をたどりながら思いました。
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