映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

太陽の蓋(2016年)

2016-07-17 | 【た】




 311の震災と原発事故、その時、官邸で何が起きていたかを、ある記者の視点から掘り起こす。総理や官房長官らは実名。

 綿密な取材を基に構成されていることは分かりますが、再現ドラマではないので、念のため。

 

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 演劇『BENT』を鑑賞後、夕方時間があったので見に行ってみました。


◆本作品を制作する意義

 総理や官房長官等が実名ということからも分かりますが、本作はかなり官邸の側に立った作品で、東電関係者や、被災者の方々見たら、憤りを感じる部分も多々あるだろうな、とは思います。思いますが、それでも、こういう映画を作ったその志には、敬意を表したい。

 アメリカだったら、もっと早くに作られていたでしょう。日本の映画業界は、こういう政治色の濃い、実際に起きた事故や事件についての映画を作ることに、非常に腰が引けているので、まずはよく作ったな、と思います。

 出演した役者さんも、相当、覚悟を要したことでしょうし、監督を始めスタッフも大変だったろうと思います。こういう映画を作ることに、役者や制作者たちが過剰な覚悟を求められること自体、現在の日本の業界風土がいかに幼稚であるかを物語っており、まずは、こういう幼稚な業界気質を、映画愛好者たちによって改善していくことが第一歩ではないかという気がします。


◆あの時、官邸で何が起きていたか

 大分前に、菅直人著『東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと』を読んでいたので、菅さん実名での作品ということは、多分、あの本の内容と概ね一緒だろうとは思っていましたが、だから、本作を見て初めて知ったことはほとんどなかったように思います。

 菅さんの本を読んだ時も思ったし、NHKの検証番組を見た時も思ったんですが、原子炉が爆発しなかったのは、本当に、ただただ“運が良かった”という、運頼みだったことの恐ろしさです。そして、本作でもそれは描かれていて、何度聞かされても戦慄する事実です。やはり、映像で見ると当時の切迫感はさらに増しますね、、、。正直、怖かったです。

 そして何より、原発を動かしていた東電自身も、ほとんどお手上げ状態だったということには、恐怖ではなく憤りを覚えますねぇ。

 私は個人的に、20年ほど前、東電社員に知り合いがおり(今はゼンゼン関係ありませんが)、まあ、恐らく幹部候補のエリートだったと思います。原発に当時から懐疑的だった私は、その人に「原発ってヤバくない?」と、素朴な感想を述べたところ、一笑に付されたので「チェルノブイリのことだってあるしさー」と畳み掛けたら、「あんなこと、あるわけねーじゃん。あれは、ソ連だから起きたんだよ。日本で起きるはずないって、ガハハハ!」と能天気に言っていたのを、今も鮮明に覚えております。東電には申し訳ないけど、その人1人のせいで、私は、その時、東電を“1ミリも信用できない会社”に勝手に認定しました。だから、東電のCMや広告を見ると、無性にムカムカと腹が立ったものでした。

 なので、福島の事故対応を見ていても、怒りとともに、やっぱりな、というどこか諦めに似た気持ちもありました。あんな人が幹部候補にいるような会社、ろくでもない、という予感は、当たっていたと思いますね。本作でも、東電は徹底的にダメダメに描かれており、私のような者からすれば、最早、怒りを超えて不謹慎ながら笑いさえ覚えます。

 あとは、役人たちの能天気ぶりというか、無能ぶりというか、、、。作品冒頭、官邸で、福島で何事か起きているらしい、という一報に、総理が経産省の担当者に「どうなっているんだ?」と尋ねると、「分かりません」と他人事のような答え。総理が「専門家だろ!」と畳み掛けると「私は、東大の経済出です!!」、、、脱力です。これが、日本の頭脳集団のはずである、官庁組織の実態なのです。

 あの時、官邸で何が起きていたか、、、という問いに対する答えは、もしかすると、「何も起きてはいなかった」かも。官邸も、東電も、ただただ混乱していた。皆が、右往左往していた。誰も、何も、事態をきちんと把握できていなかった。出来るような仕組みが、そもそもなかった。だって、原発は100%安全なんだから。


◆あの時、もし、、、

 私は、今も昔も、菅さんに特別な思い入れは全くありません。ずっと以前、今じゃ信じられませんけど、彼が厚生大臣時代に“次期総理に期待する人ナンバー1”になって人気者だった頃は、そういう人気に懐疑的でした。それは、菅さんの政治家の資質を見抜いていたとかではゼンゼンなく、私自身の性格の問題で、世間でもてはやされているものに、とりあえずは疑ってかかる、というひねくれ目線が常に働くからなのです。

 でも、事故当時の菅さんの言動、、、ヘリでの現地視察、東電への早朝乗り込みetc、、、は、私は、よくやったと思います。一連の彼の言動は今も非難轟轟で、右寄りの新聞など、いまだに菅さんを極悪人みたいな扱いしていますけれども、誰が総理であっても、事故自体は起きていたわけで、その後の対応についても、東電が官邸を蚊帳の外に置いたことは同じだったでしょう。

 ただこれが、もし、自民党政権だったら、、、ということは考えさせられますね。

 可能性は2つあり、1つは、東電がもう少し官邸に協力的になっていて、結果は同じだったにしても、東電と官邸の意思疎通はマシだったかもしれない、ということ。もう1つは、原子力政策を猛然と推し進めてきた自民党は、東電から上がってきた情報を隠蔽するかもしれない、ということ。いずれにしても、自民党政権だったら、菅さんよりマシな対応が出来ていたとは、到底思えません。

 何より、見ていて胸が詰まったのは、やはり、福島で被災された人たちの描写です。何を書いても上っ面になるので詳細は書きませんが、こういう人たちが今もたくさんいるのに、それを東電や政府は、どう思うのだろうか、、、と疑問は消えませんね。


◆その他もろもろ

 本作で、菅さんを演じたのは、三田村邦彦ですが、ズラが丸分かりで、深刻なシーンなのに、何か可笑しかった。三田村さん、久しぶりに見たなぁ。あんまし歳とらないですね、彼。必殺の秀のイメージが強いんですが、あまり崩れていないような。

 一番ハマっていたのは、枝野さんを演じた菅原大吉さんですかね。髪と耳たぶは付けたんだと思いますが、ちょっと猪首な感じとか口元とか、よく研究しているなーと。途中から、枝野さんに見えましたもん。

 北村有起哉演じる記者は、まあ狂言回しなので、ああいう描写になるのかな。何日も泊りで仕事している割に、顔も服もキレイなのはいただけないけど、無力感を覚えながらも取材を続ける姿は、なかなかサマになっていました。余談ですが、舞台『BENT』でも素晴らしかったです。彼は、ホントに声が良いですね。お父さん譲りでしょうか。舞台でも良く通る声で、映画の中でも渋い低音で一際耳を引く声でした。

 冒頭の紹介文でも書きましたが、本作は、よく取材された誠実な作品であることは間違いないけれど、再現ドラマではないので、これが現実にあったことだと鵜呑みにするのは危険だと思います。いくつも報告書が出ていますし、関係者による本もたくさん出ていますから、様々な立場からの話を見聞きして、真実を自分なりに探って行くしかないと思います。

 願わくば、東電の立場から描いた映画が作られると良いなあと。どんな内容にしても、顰蹙を買いそうではありますが、それでも、作る価値はあるのでは。もし、そうなったら、、、東電社長は、誰が演じるんでしょうか。

 本作について、作中にも登場する寺田さんがHPで感想を書いています。へぇ、と思うことも書かれていたので、読んでみても良いかもです。


班目さんの描かれ方が印象的。





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