映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

COLD WAR あの歌、2つの心(2018年)

2019-07-11 | 【こ】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv67161/

 

 冷戦下のポーランド。民族音楽舞踊団「マズレク」に所属するズーラは、ピアニストのヴィクトルと瞬時に恋に落ちる。

 愛し合う2人だが、舞踊団にソ連が介入してきて、本意ではない音楽を強いられ、ヴィクトルは自由を求めるようになる。そんな中で、東ベルリンに演奏旅行で訪れた舞踊団。ヴィクトルは、公演後に西側へ逃げようとズーラに言う。ズーラも西への脱出を約束する。……しかし、約束の時間にズーラは来なかった。仕方なく、ヴィクトルは1人で西へと向かう。

 その後、パリやユーゴで再会する2人だが、2人の時間を共有することは出来ぬまま。

 そして、東ベルリンで別れて5年後のパリ。ズーラはイタリア人の男と、ポーランドから合法的に出国するために結婚し、パリにいるヴィクトルの下へやってくる。ようやく共に時間を過ごせるようになった2人だが、共に過ごす時間が長くなるにつれ、2人の間には小さな亀裂が生じ始め、それはある日突然、ズーラのポーランドへの帰国という決裂となる。

 ズーラを失って彼女の存在の重みを思い知るヴィクトルは、彼女を追ってポーランドへと戻るが、国家を裏切った罪で投獄される。そこへ再びズーラが面会にやって来るのだが、、、。

 

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 ここ2~3年ポーランドにハマっている身としては、あくまでも個人的にだけれど、最近では公開前のワクワク度が一番高かったんじゃないだろうか、、、。とにかく、1か月前から公開を指折り数えていたし、見る前には本作のためのレクチャーまで聞きに行ってしまったくらい。でも、聞いておいて良かった! というのも、本作は、その舞台となった時代背景や、文化的な背景を知っておいた方が断然楽しめるから。知らずに見るのはもったいない。これから本作を見る予定のある方は、是非予習をなさってからご覧あれ。

 ……と言っても、予習というのは簡単で、少し早めに劇場へ行き、パンフを買ってp.09~13までを本作上映開始までに読めば良いのです。その原稿を執筆されたのが、レクチャーで講師をしてくださったポーランド広報文化センターの久山宏一氏で、ほぼレクチャーで配られたレジュメの内容と被っていますので。

 あと、できれば同監督の『イーダ』を見ておくと、さらに本作に気持ち的に入りやすいかも。

 

◆これぞ“スルメ映画”

 楽しみにしている映画の前評判は、高ければ高いほど怖ろしい。見終わった後に落胆する可能性が高くなるから。そんな作品はいっぱいある。逆に、見終わった後に期待を上回る感慨を覚える作品は、まあ、数少ない。少ないからこそ、稀少であり、自分にとって価値ある映画として胸に刻まれるのだ。

 ……そして、本作もそんな数少ない作品の一つになりそうだ。「なった」と断言しないのは、これは、何度も見て味わうべき“スルメ映画”だから。見てみれば、これがスルメ映画だと分かる。

 実際、私は今んとこ本作を劇場で2回見た。感動して憑かれたように2度目を見に行ったのではなく、いろいろともう一度見て確かめたいことがあったから。そして、2度目に見て1度目には感じなかった“痛み”と“哀しみ”がじんわり胸に来た。

 もう一度見て確かめたいと思ったというのは、本作は、非常に寡黙な映画だからだ。文字通りセリフが少ないということもあるが、とにかく省略が多く、見る者に想像力を要求される。シーンとシーンの隙間を想像力で埋める必要がある。それを見ている間にしていると、ちょっとした人物の動きや仕草を見逃してしまったり、見ていても見えていなかったりするからだ。だから、1度目を見終わって、あれ、、、あのシーンは何だったんだろう??みたいな箇所が結構出てくるのだ。

 ……想像力というと語弊があるかしらん、、、。感性の方が近いかな。感性で隙間を埋めていかないと、主人公の女性・ズーラの行動が支離滅裂に見えてしまうかも。そうすると本作の良さがかき消されてしまう。

 1度目は補いきれなかったものを、2度目で何とか補えた。補いきれなかったのに1度目を見て“つまらん映画”と思わなかったのが、きっとこの映画の持つ魅力なんだと思う。それは、本作の映像の美しさと、音楽、そして、ズーラの美しさと歌。あと、個人的なポーランド愛と、『イーダ』の魅力もあったから。

 1度目を見終わって“分かんないとこもあるけど、惹かれる”と感じれば、2度目を見たくなるでしょ? 2度目を見て腑に落ち、それがグッとくれば、また見たくなるでしょ? 本作はだから、私にとってスルメ映画なのです。そして、『イーダ』もそういう映画だったんだよねぇ。

 

◆好きなの、どーしようもなく。

 ネット上での本作の感想をチラッと見たけど、ズーラのことを「小悪魔」とか「男を振り回す女」とか書いてあるのがあったけれど、私はそれは違うと思うのよね。

 ズーラとヴィクトルは、アッと言う間に恋に落ちるし、くっついたり離れたりがブツ切りに描かれているので、ただ発情しているだけのカップルで、ズーラの言動が“気まぐれ”に見えがちだけど、そうじゃない。この2人は、理屈じゃなくお互いにひたすら好きなのよ。

 何故か分からないけど、どうにもこうにも好きでしょうがない人、、、、っているでしょ? てか、いても不思議じゃないでしょ? あんなんのどこがええの??と周りに言われて、自分でもそう思うけど、でも好き!! ってこと、あるでしょ? あってもいいでしょ? ズーラとヴィクトルはそれなのよ。だから、決定的な別れに見えても続きが起こる。

 世間ではそれを“腐れ縁”とも言うけど、本作ではもう“運命”みたいな描かれ方をしている。他の相手と一緒に暮らしたり結婚したりしても、そんなことは些末なこと。お互いが彼・彼女でなければダメだと分かっている。……そいういう関係って、確かにあるんじゃないかな、、、と思う。

 だから、私はズーラのことを、小悪魔だとも、男を振り回す女だとも思わない。ズーラはただただヴィクトルが好きなのよ。じゃぁ何でヴィクトルと一緒に西へ行かなかったのか? ……なんてのは愚問です。強いて理由を挙げれば、恐らくは祖国を捨てられなかったから。けれども、ヴィクトルと離れること=別れではないのよ、彼らにとっては。離れているだけ。常識や理屈でぶった切ることなど出来ない感情、だから厄介なのよ。

 物理的に距離がどれだけあろうが、法的に他の人の配偶者になろうが、2人の気持ちは変わらない。それを縦糸にし、音楽を横糸にして、本作は編まれているのです。

 

◆2つの心、4つの瞳。

 本作は、ヴィクトルとイレーナという女性が土着の音楽を収集しているシーンから始まる。この土着の音楽=ポーランドの民族音楽=マズルカが、本作では重要なファクターである。舞踊団の名称「マズレク」は、もちろんマズルカのこと。ショパンが数多く作曲したマズルカはこれにインスパイアされたもの。

 実際、ヴィクトルは途中でショパンを弾いている。マズルカじゃないけど。ポーランド音楽とショパンは、まあ、切っても切り離せないわね。ましてやヴィクトルはピアニストなんだし。

 で、ズーラが披露する民族音楽の歌で、本作のテーマ曲ともいえる「2つの心、4つの瞳」が実に実に印象的。マズレクで民族音楽として歌うとき、パリのジャズバー“エクリプス”でポーランド語で歌うとき、パリでアルバム制作のためにフランス語で歌うとき、どれも同じメロディなのにゼンゼン違う曲に聞こえる。フランス語で歌う「2つの心~」は、ズーラにとってはもう別の曲になってしまっていることが、後の彼女の行動から分かるシーンがとても哀しい。ヴィクトルとも不協和音マックスになる。

 ちょっと??と思ったのはエンディングで流れるバッハ。しかもグールドの曰く付きの録音盤。何でバッハなのか、、、分からない。ある意味、最後の最後で監督に謎かけされた気分。パンフで映画評論家の河原晶子氏という方は「ヴィクトルとズーラの魂を浄化するように深い余韻を残している」と書いているが、そうなのか??

 これには、本作のラストシーンをどう解釈するかが関わってくる。ラストは十字路が舞台となるが、『イーダ』でも重要なシーンで十字路が使われていた。この十字路はかなりこの監督にとって重要なファクターのようで、まあ、普通に考えれば宗教的な意味合いが大きいと思われる。実際、ヴィクトルとズーラはその前に廃墟となった教会で2人だけの結婚式を挙げるわけだが、、、。このラストシーンを、本作を見た者たちはどう解釈すれば良いのか。

 普通に考えて、この2人は、、、、と思われるけれど、それを書いちゃうとアレなので、ここではやめておきます。でもまあ、……それしかないよね、この2人には。

 ちなみに、最後に「両親に捧ぐ」という献辞が出ますが、このズーラとヴィクトルの物語は、監督の両親がモデルと言われています。実際に、亡くなったのも(詳細は語られていないものの)同じ年だったとのこと。んでもって、監督はかなりイケメン(というかシュッとしたオジサン)です。

 

 

 

 

 

 

オヨヨ~ィ♪

 

 

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2 コメント

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HOTよりCOLD (松たけ子)
2019-07-16 00:27:58
すねこすりさん、こんばんは!
わ~!ご覧になったのですね!いいなあ~!私も早く観たい~!某事務所のタレント主演の映画を観に行ってる場合じゃないわ💦この映画、今のところ今年もっとも期待してる作品なのですよね~。スルメ映画と聞いて、期待はハズレず今年ベストの予感が的中しそう(^^♪ストーリーも役者の魅力も音楽も映像も、すべてにおいて感銘を受けそう。
ポーランドのこと、無知に近いので映画観る前に勉強しときます!「イーダ」も観ねば。準備は怠らず!ポーランドに私も行きたくなることでしょうか。
イーダで外国語映画賞を受賞した時と、この映画で監督賞にノミネートされた時のオスカー授賞式の監督(名前が覚えられん💦)、なかなかの男前さんだったのを覚えてます。
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Unknown (すねこすり)
2019-07-16 21:19:20
たけ子さん、こんばんは〜!
見ましたとも! もう公開の日を指折り数えておりましたから。
期待値過剰に上げさせてしまったでしょうか。
でも私的には、期待を裏切らない逸品でした。見る者にものすごく負荷をかけてくる映画といいましょうか。ボーっと見てると???ってな感じになると思います。とにかく説明がないので。
ハネケのロマンス版…みたいな。
音楽がまた良いのです。サントラ欲しい!
「イーダ」もなかなか味わい深いです。是非ご覧ください。
そう、監督イケメンです。ご両親のロマンスもさぞや…と妄想してしまいます。
ラブストーリー苦手な私でもじわーっと感動いたしました。
たけ子さんのレビュー、楽しみにしています♪
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