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「事実証談巻4(人霊部上)」 24 第14話の2

(静岡中央図書館前花壇のツマグロヒョウモン/昨日撮影)

台風21号が近付いている。明日の投票日を危ぶみて、ミンクルは期日前投票の人で混み合っていた。自分も講座に出るついでに、投票を済ませた。

今日の講座は、「古文書に親しむ(経験者)」講座で、自分が教授である。先月に続いて、報徳関係の文書を読む。

午前中に但馬のふるさとより、渋柿を送って来た。60個ほど入っていた。台風が去って天気が回復したら、早速、干し柿にしよう。今年も干し柿の季節がやって来た。

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「事実証談巻4(人霊部上)」の解読を続ける。

かくて暫時(しばし)の程は、老母気侭(きまま)の計らいもなく、物和(やわ)らかに取なしけるまゝ、若者ども常に出入りをなし、老母の心を取りたりしが、月日ふるまゝに、又しも老母の気侭起りて、何時しかと疎ましき事ども出来つゝ、性なく疎び罵る事、多かりけれども、常の疎びに聞き流し置きけるを、なお弥増(いやま)しに怒り罵り、若者の契約に違(たが)い、終に、かの男をも追い出したり。
※ 心を取る - 機嫌をとる。
※ 性なし(さがなし)- 意地悪だ。性格が悪い。
※ 疎び(うとび)- いやがらせ。


若者は言うもさらにて、人皆な老母の、世に類い無き心様(こころざま)を悪(にく)み、それより交わりを断ちて、更に何事も取り合う者なきにより、あるに甲斐なき身とや思い定めけん。或る時、隣家の者、垣越しに見れば、二人とも髪結い、湯浴みなどして、衣服を改め、身粧(みよそお)いをなしける故、いづくへ行くにかと、余所に見なしてありし程に、外へは出ずして雨戸を鎖(さ)したり。
※ 余所に見なす(よそにみなす)- 自分とは関係のないものとして、放っておく。

隣家の者、怪しみ、密かに戸の隙間より窺い見れば、炉辺に縊れ死(くびれし)にたるさま見えたり。驚き、近隣の人々に告げて、外の方より雨戸を放ち入りて見るに、奥の方にもまた縊れ死にて有りけるが、二人とも座しながら縊れ死にたるなり。いよゝ怪しみ、村中に沙汰して、とかく言えども、詮方なき事なりければ、村中の計らいにて、二人の屍をは葬(ほうぶ)り納めたりしかど、亡き後弔う者だにも無ければ、詮方なく菩提所の寺を頼みて、七々日の霊祭までも怠り無くなさせし由。
※ 七々日(しちしちにち)- 人が死んでから49日目。四十九日。なななぬか。


読書:「山の怪談」 岡本綺堂他 著
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「事実証談巻4(人霊部上)」 23 第14話の1

(静岡中央図書館前のクササンタンカ)

午後、駿河古文書会のため静岡へ行く。図書館で大井川町史で、中村一氏と山内一豊に触れた項をコピーして帰る。天正の瀬替えについて、書かれていた。色々資料を集めて研究してみようと思う。

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「事実証談巻4(人霊部上)」の解読を続ける。

(第14話)
〇天中川(天竜川)の渚(みぎわ)に、川勾(かわわ)庄治兵衛という者有りけり。安永年中、病死の後、その妻、男女二人の子を養育し、成長を待ちけるほどに、男子また病死して、娘一人となれゝば、こゝかしこより聟を迎え、家相続の取り定めすれども、老母の心並々ならざりければ、心に合(かな)う者、更になくて、幾人となく離別せり。
※ 安永年中(あんえいねんちゅう)- 1772~1781。第11代将軍、徳川家斉の治世。

人皆な老母の性なき事を悪(にく)み、重ねて媒(なかだち)する者とても無ければ、詮方なく老母、娘、ただ二人、侘び住いし有りしを、その頃、いづくの者なりけん、そのわたりに来たり居て、こゝかしこの日雇いの働きなどして有ける男、何時しか、その所の若者と交り深く親しみける余り、
※ 性なし(さがなし)- 意地悪だ。性格が悪い。

若者ども、庄治兵衛の聟になして、その所に住居なさしめん事を思い、庄治兵衛方に至りて談じけるは、これまで幾人となく聟を取りしかど、皆な老母の心に叶わずとて、離別せしにより、今にては誰媒する者もなければ、若者の引き請けにて、何某を媒せんと思いて、談じに来たれりと言いけるを、二人とも歓べるさまにて、若い衆中の引請けにて媒し給わば、それに増(まさ)る事あらじ。何事もよきに取り持ち頼み入ると答えけるまゝ、

若者、一同に包むことなく言いけるは、我々引き請けて、何某を聟に取り持つからは、老母、気侭なる計らいをやめ給え。たとえ国々広く尋ぬとも、老母のこゝろに叶わん者有るべくも覚えず。やもめ暮らしせんよりも、善悪ともに我々に任せ給い、心に悖(さが)う事あらば、我々方へ言い越されよ。

若者の計らいに、ともこうも取り成し参らせん。我々の取り計らいにも、なり難き所行(しわざ)にても有りなば、我々方へ引き取り、離別するとも、家に障(さわ)りの無きように、我々、引き請け取り計らわん。必ず/\、相対ごとを慎み、心隔ての無きように、親しみ給え。又も気侭の計らいに、あらぬ疎びを言い出し、咎なき彼を追出さば、それを限りに、所の者の交わりを断(たゝ)むと約して、若者組合の引き請けにて、かの男を聟には媒(なかだち)せし由。
※ 疎び(うとび)- いやがらせ。


読書:「なびく髪 父子十手捕物日記10」 鈴木英治 著
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「事実証談巻4(人霊部上)」 22 第13話の3

(散歩道のコウオウソウ)

今日もまた一日雨、しかも寒い。

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「事実証談巻4(人霊部上)」の解読を続ける。

これはその老女、隣家大橋某の家に来たりて物語しけるを、怪しみて、しか夫婦まめやかに仕え、親しむ心となりし始めのことを尋ねけるに、老女もさらに知らねども、深く思い計れば、かの妹娘、闇夜に慕い来たりし時、衣類の文(あや)さやかなりしこそ、怪しけれと、
※ まめやか(忠実やか)- 心のこもっているさま。誠実なさま。
※ さやかなり(清かなり)- はっきりしている。明瞭だ。


(よろず)思い廻(めぐ)らせば、その日は母の忌日にて有りし故、世に在りし時、諸ともに夫婦の者の情なく辛かりし事を、明け暮れ歎きて、世を去りしにより、その心残りての事にや、その外、思い当たりし事なしと、物語れり。
※ 忌日(きにち)- 忌むべき日のことで、故人の死亡した日のこと。それ以後の月の同じ日を月忌 (がっき) というが、また忌日、命日ともいう。ここでは月命日のこと。

こは怪異の部に入るべきを、この部に入りしは、老女の推察にて、かの老母の霊の、然らしめしならんと言うによりてなり。かく不孝なりしものの、返りて孝心に改まりしは、めでたき事なり。親子、家族は言うもさらにて、人交わりは、親しみ深からんこそ、めでたからめ。
※ 然らしめる(しからしめる)- そういう結果・状態にさせる。 そのようにさせる。
※ さらにて - 今さらにて。


疎み疎まるゝは、皆な枉事の基(もとい)。そは人霊の祟りある事。疎ましきによれるを以って、思ひ合わされぬ。すべて子孫の栄えんことは、専ら人交わりの親しみ深きによれるなるべし。
※ 枉事(まがごと)- 病気、事故、災害など様々な禍(わざわい)によって、不幸が起きたり、続いたりすること。

さるは、かの不孝なりし者、怪しくも並々ならぬ孝心に改まり、明け暮れ老母に仕うる態(わざ)、いとまめやかなるによりて、いみじく悪(にく)み、近寄らざりし人までも、その孝心と改まりし事を怪しみ感じ、諸ともに親しみけるまゝに、自然(おのづから)その家、賑わいけるのみか、やがて、その事、地頭所へ聞えしかば、御褒美として、米弐俵給わりしと、その村長なりし人の物語に聞きしが、類い稀なる事なりけり。
※ いみじく - はなはだしく。ひどく。

(第13話おわり)
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「事実証談巻4(人霊部上)」 21 第13話の2

(散歩道のヒメツルソバ)

朝から久し振りに晴れた。しかし、午後は曇り、夜は雨、明日はまた一日雨らしい。

午前中に、Uさん宅へ「前代秘密先祖由来郷里舊記」の解読と読み下しを持参して、2時間近く、その文書についてお話をして来た。個人的な部分を除いて、町の歴史に含まれる部分は、公開されても問題ないとのお話を頂いた。さて、どのように扱おうか。

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「事実証談巻4(人霊部上)」の解読を続ける。

夫婦はかくとも知らで目覚めて見るに、妹娘在らざりけるに、驚き起き出でて、家内を尋ぬれども見えざれば、燈火を照らし、なおよく探しけれども見えず。甚く驚きて、老女に問えども、老女も常の交(まじわ)り辛(つら)かりし故、こゝにとも言わず、知らぬさまにて有りしかども、あまりに驚き騒ぎければ、夜更けて隣家までの騒ぎともならん事を思い、添い寝の事をば明かしけり。

夫婦の者歓びて、抱き取らんとするに、老女の添い寝を喜びしさまにて、寝所を出ることを嫌い、老女に寄り添いて、離れ難く見えしかども、(しか)寝さしめんことを疎み思いて、とかくすかして抱き取り、夫婦の寝所に連れ行きて寝たりけり。
※ 然(しか)- そのように。さように。
※ 疎む(うとむ)- いやだと思う。
※ すかす(賺す)- 言葉で機嫌をとったりなだめたりする。


さて、明くれば九日の朝、男とく起き出でて、茶釜の下に火を焚きつゝ言いけるは、我々こゝに養子して、親子となりし甲斐もなく、今まで母人(ははびと)に仕(つか)えざりしは、身の程知らぬ誤りなり、と言いけるを、寝所の方なる妻も起き出でつゝ、さればとよ、女の身として母親に、年月疎(うと)かりしは、我らも身の上知らぬ誤りにて、疎(おろそか)には過ぐしたり。

今より後は、諸ともに心を合せて、親子の親しみ浅からず、仕え申すべしと言いつゝ、寝所より出るを、老女はかの庇にいまだ臥し居て、夫婦の談話を聞きて、怪しと思いながら、耳をそばだてゝ窺い聞けども、しか言いしまゝにて、外に何も物語りもなく、夜中の妹娘のことは、かつて言わざりしを、

暫くありて、老女起き出でければ、何時に変わりて、夫婦ともに懇ろにもてなし、昨日までは情けなく辛かりしを、うって変えたる二人の心、計り難く、かつ歓び、かつ怪しみ、心ならずも諸ともに、親しみけり。
※ 何時に変わりて(いつにかわりて)- いつもとは違って。

かくて、日を経れども変わる事なく、親しきこと弥(いや)ましに、実母にも勝るばかりになりしは、如何なる故ならんと、老女も更にその故を知らざりけるを、幾日、数経ても変わらざりければ、大いに歓びて、その事を近隣の人々にも語りて、喜び親しみつゝ、浅からぬ親子の交わりとなりしとなん。
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「事実証談巻4(人霊部上)」 20 第13話の1

(散歩道のチョウセンアサガオ)

「前代秘密先祖由来郷里舊記」の読み下しも終えた。明日、資料を預かったUさんに報告する予定で、連絡した。

雨は止んだけれども、厚い雲に覆われた暗い一日だった。明日は太陽がお日様が顔を出すだろうか。

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「事実証談巻4(人霊部上)」の解読を続ける。

(第13話)
〇押切の渚に、齢(よわい)七十余歳の老女と五十余歳の娘と、共に侘び住居(すまい)して有けり。家極めて貧なれば、誰、養子となる者もなく、乏(とぼ)しく世を渡りしを、近隣の者の世話にて、隣家に奉公して有りし下男を養子と定め、また妻をも迎へて、老女二人を養わしめけるに、

その養子、親子の親しみ、更になくて、明け暮れ同じ住居に有りながら、老女二人の養い、いと辛かりければ、二人ともに、養子夫婦のつれなきを恨みて有るに、甲斐なき者どもなれば、追い出さんと言いしかども、また、養子となるべき者もあるべくもあらねば、隣家の人々、老女の恨みをなだめて、年月を過ごしけり。

さて夫婦の者、二人の娘を産みて、家内六人となりし故、いよゝ老女の朝夕の養いも怠り有りしに、まさりて、いと辛かりければ、老女二人、いよゝ恨み忍びかねて、隣家の人々に歎きける事、止まざりける故に、

隣家の人々も、夫婦の者にその由を語りて、よからぬ事なり。心を改むべしと諭(さと)せども、さらに改むる事なかりければ、隣家の人まで、夫婦の道ならぬ事を疎(うと)み、追い出さんなど言いけれども、よく思えば、また世継ぎとすべき人も図り難くて、徒(いたず)らに過ぎけるほどに、

文化七年の八月八日頃、七十余歳の老女病死して、五十余歳の老女一人となれり。されども、なお朝夕の養い乏しからしむるのみか、夫婦娘などは、本家にありて、同居を嫌い、聊(いささか)なる落ち庇(ひさし)を造り、老女の寝所となし、別屋に等しく住居しけれども、

二人の娘は隔てなく、老女の寝所へも、時々行きけるを、それさえ夫婦の者、疎ましく思い、娘を制して、老女の方へ遣らざりければ、娘二人も自(おのずから)親しみ無く、他家の人よりもうとかりしを、

文化八年(1811)二月六日の夜更けし頃、三歳になりける妹娘、怪しくも闇夜に老女の寝所を慕い行きしを、如何なる故にかありけん、燈火なくて老女の目に、かの娘の衣類の綾までも、さやかに見えけるを、老女怪しみつゝ、娘を抱え入れて寝させけるに、常とは異(こと)にて、娘はたゞ、実母と添い寝の如く、寄り添いて寝入りけるまゝ、老女もいとあわれに思いて寝たりけり。
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「事実証談巻4(人霊部上)」 19 第12話の2

(秋雨が降りやまない)

今日も一日雨が降り続き、うっとうしい限りである。昨日に続いて、「前代秘密先祖由来郷里舊記」の解読を続け、ほぼ読み終った。あと、読み下しと報告書のまとめが残る。

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「事実証談巻4(人霊部上)」の解読を続ける。

嫁は悲しさ、苦しさの悩みにや、流産の後、幾程もなく、六月十六日、終に果敢なくなりにけり。かく親子三人打ち続きて死せし中に、妻子の死せしは、全く両親の睦まじからざりし故なれば、憂き思いをや残しけん。

嫡男夫婦、病死の後も、祖父母は三歳の嫡孫を、忘れ形見と寵愛の心もなかりしにや、老女夜な/\抱き寝る度ごとに、嫁女は死にて世話知らず、この子を残し、毎夜/\我が世話なりと、死にての後も許しなく、去りし嫁への当て言を、伝え聞く人々も、心(さが)無き(しゅうとめ)なりと、噂せしとなん。
※ 当て言(あてこと)- あてこすり。いやみ。
※ 性無し(さがなし)- 意地悪だ。性格が悪い。


かゝる性無き老母、疎みを去りし霊の心にも、耐え難くや思いけん。同月廿九日の夜、老母、かの嫡孫を抱き寝たる夢に、兄夫婦、現にあらわれ、添い寝せし嫡孫を伴い行かんとて、抱き取るを、老母、夢心に驚き、引き戻し渡さじと争えば、嫡子、妻に言いけるは、汝じ付き添い来たりし故、渡し給わず。汝じは先へ行くべし。我れ伴い行かんと、妻をば先へ帰し、またも伴い行かんとす。

なお渡さじと、互いに挽き合うと見て、驚き覚めて見れば、その身大汗を流し、嫡孫を抱きしめて有りしかば、甚く怪しみながら、汗押し拭いつゝ、嫡孫を見るに、熱気ほのめきけり。

老母驚き、人を呼びて見せけるに、尋常(よのつね)ならぬ悩みなりとて、隣家を起して、医師を迎えしむれども、夜更けし故、時移りて明ければ、七月朔日の朝、医師来たり、大病、難治の症なりとは言いけれども、ただにも捨て置き難く、薬など含めけれども、その験(しるし)さらになく死にたりしこそ、あわれなれ。

これは老母の疎みを、兄夫婦死にての後も、聞くに耐えず、伴い行きしならんと、そのわたりの人々言い合えりしを、その隣家にて聞き糺しければ、隣家の人の物語に、かゝる老母にてあれば、聊かも包まず、恥る心もなく、口づから明白(いちじろく)物語しとて、隣家の人の詳しく語りしを糺して、かくは記せど、その地名は家蔵の秘録に残せり。
※ 口づから(くちづから)- 自分の口から。自身の言葉で。

(第12話おわり)

読書:「地獄の釜 父子十手捕物日記9」 鈴木英治 著
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「事実証談巻4(人霊部上)」 18 第12話の1

(秋雨前線に煙る西原)

秋雨前線の真っただ中に入り、今から一週間以上、雨が続くという。今やゲリラ豪雨が当たり前になった本来の梅雨よりも、「梅雨」らしい天気といえるかもしれない。

昨日、U氏から借りた、U氏の御先祖のことを記した、「前代秘密先祖由来郷里舊記」という古文書、大変興味深くて、40ページ余りのものを、残り8ページのところまで解読した。

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「事実証談巻4(人霊部上)」の解読を続ける。

(第12話)
天中川の辺りに住居する者、二人の男子ありて、嫡男には隣村より妻を迎へて、享和元年(1801)、一男子出生し、子之助と名付けて養育せしを、如何なる故にか、その妻、父母の心に叶わずして、嫡孫出生ありても、とかく常に疎(うと)みけるにより、家内睦まじからず。
※ 天中川(あめのなかがわ)- 天龍川の別名。

父母はただ、次男のみ親しみ深く、親子兄弟疎みうとまれけるに、同三年(1803)と云いし年頃、三月、麻疹(はしか)流行(はやり)て、かの兄も麻疹を煩いて病死せしが、今わの際に、妻に向いて遺言しけるは、

我れ今、大病、重症になりて、死なん事決せり。我れ死なば、汝じ父母の心に叶わざれば、必ず汝じを離別すべし。汝じ今妊娠にてあれば、我れ死して後、離別の沙汰有りとても、安産の後と断りて、胎内の子出生するまでは、必ず承け引くべからず、安産の後、離別すべし。

たとえ我が家を離別すとも、出生あらば、我が方の稲屋を、汝じが親里に移し建て、しばらく汝が住み家と定めて、出生の子、男子にもあれ、女子にもあれ、三歳までは養育して、我が家に送り返すとも、他家の養子とすとも、よきに計らえ。
※ 稲屋(いなや)- 刈稲を収容する小屋。

三歳まで養育せば、それよりの生い立ちは、その子の運に任すべし。死生は人の養育には依るべからず。さて、その子三歳の後は、汝も何方(いずかた)へなりとも、再嫁せよ。云い置く事はこれのみにて、外に思い置くことなし。必ず我が遺言を、な違えそ、と言うもしどろに、眠るが如く、終に果敢なくなりしとなん。(こは同月十九日のことなりとぞ)
※ 生い立ち(おいたち)- 育つこと。成長すること。
※ 死生(しせい)- 死ぬか生きるか。生死。
※ しどろ - 秩序なく乱れているさま。
※ 果敢なくなる(はかなくなる)- 死ぬ。


かくて妻の悲しみは、言うもさらにて、常には疎みし父母も、弟も、親子兄弟の別(わか)れはさすがにて、野辺の送りも残る方なく、跡懇ろには祭れども、有りしに変わらぬは、父母の疎みにて、一七日(ひとなぬか)過ぐるより、嫁の離別を言い出して、流産のことをぞ進めける。嫁は夫の遺言によりて、離別のことはともかくも、出産の後に御心に任すべし。流産の事は許し給えと願えども、その事さらに耳にも掛けず、情なくも強いて流産させけり。
※ 言うもさらにて(いうもさらにて)- 言うまでもなく。
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「事実証談巻4(人霊部上)」 17 第9話、第10話、第11話

(庭のシモクレンの実)

何とも奇妙な形であるが、もう少しする割れて、中から柿の種のような種が出てくる。

午後、「駿遠の考古学と歴史」講座に出席した。今日の課題は「山内一豊と中村一氏」、「天正の瀬替え」という、誰も言い出さなかった説である。

まず、「天正の瀬替え」を扱った古文書は一切ない。つまり直接の証拠がない。「天正の瀬替え」のあった天正18年は、秀吉の小田原征伐の後、家康が関東へ所領替えで、江戸へ去り、掛川に山内一豊、駿河に中村一氏が領主として来た、まさにその年で、とても瀬替えのような大工事を始める余裕はなく、その説には無理があるという論旨であった。

「天正の瀬替え」を最初に唱えた資料は「掛川史稿」だが、決して断定していない。天正18年は工事を実施したとされる中村一氏が駿河領主となった年だから、そのように云い伝えたのでだろうとしている。

ところが、いつの間にか、「天正の瀬替え」は既成の事実として独り歩きし、近年瀬替え場所の拡幅工事も、「平成の瀬替え」などと言われている。

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「事実証談巻4(人霊部上)」の解読を続ける。

(第9話)
上郷、鈴木家の下男、滝蔵と云う者、ある夜、人々と物語りするに、たゞ墓所のことをのみ言い出でて、ゆゝしき物語りして臥したりしを、
※ 上郷(かみごう)- 飯田庄上郷。現、静岡県森町飯田。
※ ゆゆしい(忌々しい)- 忌まわしい。不吉である。


その夜の夢に、親里なる妹急死せしと見て、夢は覚めたり。滝蔵思いけるは、宵の程、墓所の談話(はなし)に心移したる故にやと思いて、心にも掛けず、また寝入りけり。
※ 親里(おやざと)- 親元。実家。

さて翌朝人々に言いけるは、宵のほど、墓所の談話せし故にや、しかじかの夢を見て、甚く驚きしと物語りけるに、その日親里より、妹の急死を告げ来たりしとなん。
(第9話おわり)

(第10話)
〇また、天方郷、要蔵と云いし者、享和元年(1801)、そのわたりなる人々と伴い、西国順礼(巡礼)に行きしに、
※ 天方郷(れい)- 現、静岡県森町天方を含む広い地域。

六月廿日の夜、大和国三輪に旅宿せし、その夜の夢に、国元なる姉、病死せしと見て、驚き覚めて大いに怪しみ、伴い行きし人々、かくと語りて心に懸けるを、同行の人々、それは旅の労(つかれ)にて、さる夢見しならん。甚く疲れし時は夢見る事、珍しからずと言いけれども、とかく心に懸り、思い煩いけり。

されども為方(せんかた)なく、人々と共に廻(めぐ)り終り、国に帰りて尋ぬるに、則ち、六月廿日の夜、要蔵の姉、病死せしと聞きて、さては兄弟の(ちなみ)を尋ねて、夢中に告げしならんと歎きしとなん。これ則ち、伴い行きし人の物語りなり。
※ 因(ちなみ)- ゆかり。因縁。
(第10話おわり)

(第11話)
原田庄、西尾某、若年より浄瑠璃を好みたりければ、大坂より来たりし浄瑠璃語りを、とかく世話して、近きわたりに住居せしめ、常に交わり浅からず親しみけり。
※ 原田庄(はらだのしょう)- 現、掛川市原里。

ある時、その浄瑠璃語り、難病にて大いに悩みけれは、時々行きて懇りに訪いつゝ、何くれと心を付けて見扱いしを、長き病にて有ければ、ある
時、西尾某用事ありて、天龍川の西、石田村と云う所に逗留してありし程に、
※ 石田村(いしだむら)- 現、浜松市東区上石田町、下石田町。

ある夜の夢に、かの浄瑠璃語り、そこまで尋ね来たりしと見しを、怪しみつゝ思いけるは、かの者、遠国に来たり住みて、誰と頼み思う人も無きを、我れ常に親しみ深きを頼みて、長病の床にて我を慕いつらん。その故にかゝる夢を見つるか、また難病にてあれば、死去せしならんか、など思いて、翌日、その事を人に語りて有りける所ヘ、飛脚来たりて、かの者死にたりと告げ来たりしと。則ち、西尾某の物語りなりき。
(第11話おわり)


読書:「希望粥 小料理のどか屋人情帖10」 倉阪鬼一郎 著
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「事実証談巻4(人霊部上)」 16 第8話

(「お茶と文学者」講座の生け花、シロバナサクラタデ)


(散歩道のシロバナサクラタデ)

先月の27日、掛川図書館で「お茶と文学者」講座があり参加したが、飾られていた野の雑草の生け花の中に、気になった花があり、講座の前に講師の女性に尋ねたところ、イヌタデだと聞いた。帰って図鑑でみると、イヌタデは赤い花で、近いものはオオイイヌタデだろうかと、疑問符が付いたままでいた。この頃、散歩道で同じ花を見付け、改めて調べたところ、シロバナサクラタデと、立派な名前が付いていた。

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「事実証談巻4(人霊部上)」の解読を続ける。

(第8話)
〇太田川の近辺に甚左衛門という者あり。主は四十余歳、その妻は三十余歳にて、子の無き事を歎き、他人の子を養いて、産子(うみのこ)のごとく馴れ親しみたり。然るに、甚左衛門の老母一人あり。その老母、甚左衛門夫婦と睦ましからざりしにや、夜々老母と養子孫とは本家(ほんや)に臥し、甚左衛門夫婦は寝所を隔てゝ、物置きとて、雑具を入て置く離れ家に寝けり。
※ 産子(うみのこ)- 自分の生んだ子。実の子。

頃は文化四年(1807)と云いし年の十一月、かの妻の親里久野郷にて、一里ばかり隔たりて有りけるが、その夜、妻はかの親里に行きて有りしを、夜更けての夢に、甚左衛門髪を切り持ちて、妻のもとに至りて言いけるは、我れ、汝じと離別せんとて、その印に髪を持ち来たりしとて、手に渡さんとす。
※ 親里(おやざと)- 親元。実家。
※ 久野郷(くののごう)- 袋井市の鷲巣・久能を中心とする一帯。


妻驚き、押し返して言いけるは、我れに如何なる咎ありて、離別せんとは宣(のたま)うぞや。我が身にかゝる覚えなし、と押あい返し、差し付くれども、答(いら)えなく、後退(あとさり)に去りけるを、妻はかの髪を差し付き/\押し戻すと思うほど、何時しか、住家(すみか)居屋敷の辺(ほと)りまで差し付きて、追い行きけり。井堀の端にて、主立ち留まりし心地にて、その所を幸いに主の懐中に押し入ると思いしを、何とかしけん、主その井堀に落ち入ると見て、夢は覚めたり。

うち驚きて見れば、総身(そうみ)に大汗を流したり。夢中に苦しみし様なれば、甚く怪しみ、心良からぬ事なりと、それより、起きて思い、寝て思い、思い続けて、夜の明くるを待ちて、家に帰らんと、心そゞろに思い煩いて有りしを、明け方の頃、住家(すみか)の方より、隣家の人急ぎ来たれり。
※ 総身(そうみ)- からだ全体。全身。そうしん。

驚き怪しみ、何事ありて来たれるぞと尋ぬるに、その人言いけるは、御身こなたへ来たりて逗留のうち、主一人、例の物置きに寝たりしを、夜の九つ時過ぎし頃、大いに苦しげなる声を上げたりしかば、本家(ほんや)に臥せりし老母聞きつけて、怪しみ急ぎ行きて見るに、急病と見えて、半死半生にて有りければ、驚き慌てて隣家へかくと告げ知らせしを、皆な人驚き駈け行きて、医師(くすし)を迎えしかども、夜更けての事ゆえ、時移りて、医師の来たりし頃は絶え入るばかりにて、治療せん方もなく、急死せしと告ぐるを聞きて、その妻、かつ驚き、かつ歎き、夢に夢見し如く、思い乱して、涙ながらに、かの夢物語をせしとなん。

(第8話おわり)

読書:「身代わりの空(下) 警視庁犯罪被害者支援課4」 堂場瞬一 著
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「事実証談巻4(人霊部上)」 15 第7話

(ムサシ、リラックスし過ぎ)

夕方、散歩へ出そうと、庭のムサシをみると、石のベンチの指定席に、これは何とリラックスし過ぎだろう。頭に血が下がって大変だろうと思う。何を考えているのか?

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「事実証談巻4(人霊部上)」の解読を続ける。

(第7話)
〇また、ある家に相伝の奇薬ありて、代々伝えて売薬とせしを、家の業(なり)の助けとなること、少なからざりければ、そのを秘して、家族にも語らざりけり。
※ 方(ほう)- 処方。物のやり方。しかた。方法。

その家の主、年老いて、相続の子なきを悲しみ、他人の子を養い置いて、終には家を継がしめんとしけるに、その養子未だ若年にて有ければ、奇薬の方(ほう)を伝えずして年月を過ぐしけるに、図らずも、主、頓死せしゆえ、相伝の方を失いたり。
※ 頓死(とんし)- にわかに死ぬこと。急死。

かの養子、その事を歎き、家蔵の古き書物、ことごとく探し求むれども、書き記したるもの、さらになかりければ、甚く歎きつゝありけるを、ある夜の夢に、義父、現(うつゝ)の時の如くに、現われ出て、養子を呼び、密かに奇薬の方(ほう)を語ると見て、夢は覚めたり。

怪しみながら、その方を忘れじと、寝所より出て、薬方を書き記し、夜の明くるを待ちて、老母、家族に問えど、誰もその品を知らざりけるにより、思いけるは、常に薬品を求めし薬店あれば、試みにまづ尋ぬべしと思い、かの薬店に行きて、前々求めし薬品は、それか、これかなど、その品々を尋ぬるに、薬店の主、常に送りし品々にて有りければ、実に然り/\と語りけるを、求め帰り、製薬して、病者に与え試みるに、その功験速やかなりける故、則ち、その方を伝えて売薬としけるとなん。

されど、夢中の伝方と称しては、人々の疑いあらんことを思いてか、夢中相伝の事をば、深く包みけるよし。故ありて、その事、密かに伝え聞きたり。尋常のことならば、かの所謂(いわゆる)夢想という物にて、霊方と称すべきを、深く包むを以って、その事実は知られたり。
※ 相伝(そうでん)- ある物事を何代にもわたって受け継いで伝えること。
※ 包む(つつむ)- 心の中にしまっておいて外へ出さない。秘める。隠す。
※ 尋常(よのつね)- 特別でなく、普通であること。じんじょう。
※ 夢想(むそう)- 夢の中に神仏のお告げがあること。
※ 霊方(れいほう)- 不思議な力をもつものの処方。人知で測り知れないものの処方。

(第7話おわり)

読書:「結ぶ縁 父子十手捕物日記8」 鈴木英治 著
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