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「壺石文」 上 18 (旧)七月朔日(つづき)、十日

(散歩道のチガヤ / 5月6日撮影)

チガヤについては「壺石文 上」5月4日の分で触れた。今の季節、あちこちに白い穂が見られる。

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「壺石文 上」の解読を続ける。

阿武隈川を隔てゝ、向い寺という寺ありけり。その寺の片方(かたえ)に子安の明神という社あり。そこに時雨の楓という一木あり。

こは昔、鬼一法眼が娘、皆鶴といえるが、九郎判官を京より慕いて、この白川の里まで越しかど、判官すでに高館にて討たれぬと聞いて、この木に上の衣(きぬ)を脱ぎ掛け置いて、片方の池に身を投げぬ。
※ 鬼一法眼(きいちほうげん)-「義経記」に登場する伝説上の人物。京の一条堀川に住んだ陰陽師。源義経がその娘と通じて、伝家の兵書「六韜」を盗み学んだという伝説で有名。

「原著注」高館は「観迹聞老志」に云う。奥州磐井郡なり。衣川を去る事一町。
※ 観迹聞老志 - 1719年に完成した、全20巻に及ぶ仙台藩の地誌である。著者は仙台藩の儒学者で、絵師でもあった佐久間洞巌。
※ 磐井郡(いわいぐん)- 岩手県南西部にあった郡。


それが思いや留まりけん。この木のもと、常に時雨(しぐれ)ければ、人、時雨の楓と呼べりとなん。

   今もなお 乙女が袖の 面影に
        見えみ見えずみ 小雨そほ降る

※ 見えみ見えずみ - 見えたり見えなかったり。
※ そほ降る(そほふる)- 小雨がしとしと降る。雨が静かに降る。「そぼふる」とも。


十日、曇りみ晴れみ、さはらかならぬ空の景色なりけり。ひねもす書い遊みぬれど、駆使果てにたれば、唐国より来たれりし、駱駝(らくだ)とかいう獣(けもの)を引き来たりて、見すめるを行きて見て詠める、長歌、
※ 曇りみ晴れみ(くもりみはれみ)- 曇ったり晴れたり。
※ さはらかなり(爽らかなり)- さっぱりしている。
※ ひねもす(終日)- 朝から晩まで続くさま。一日中。
※ 書い遊む(かいすさむ)- 書きすさぶ。気の向くままに書いて楽しむ。慰みに書く。
※ 駆使果て(くしはて)- 書く題材がつきた。
※ 見す(みす)- 見せる。


ここで、菅雄さんは、駱駝という動物を見ている。ここはまだ、陸奥(みちのく)の白川の里である。この地まで駱駝が来たとは驚きであった。ネットで探してみたが、1821年(文政4)に、江戸に来ていたことは、たくさん文献などが残っている。しかし、見世物としてさらに北へ行ったという事実には行き当らなかった。

唯一、仙台の俳人・遠藤曰人(あつじん)(1758~1836)が、地元の、木ノ下白山神社の祭礼の賑わいを描いた「ぼんぼこ祭図」の中に、ラクダの見世物の看板が見えるという記事を見つけた。「ぼんぼこ祭図」は仙台市博物館所蔵という。時代も重なりそうだし、仙台まで行ったのなら、白川の里はその途中である。

駱駝についての長歌は明日に回す。
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