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松木新左衛門始末聞書13 追剥を抱く(後)

(来年の年賀状の巨木)

来年の年賀状は久し振りに出せそうである。二年続いて喪中で欠礼した。午後、女房とムサシを伴って、年賀状材料の取材に出掛けた。そんなに遠い所ではない。場所は明けての楽しみとして、こゝでは明らかにしない。ヒントではないが、来年の年賀状に使う巨木を、別アングルで撮った写真を載せた。巨木に詳しい人ならば、この写真だけで巨木を特定できると思う。

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松木新左衛門始末聞書の解読を続ける。

     追剥を抱し事(続き)
雲助どもが治兵衛を見知りたる事は、その以前、用事に付、原の旅宿へ飛脚に行きしところに、岡崎に相撲芝居あり。見物して本道を帰れと、新左衛門の申すに任せ、わざわざ道中に出て、岡崎へ行って見れば、関脇の役日なり。

※ 役日(やくび)- 節日・祝日などの特別な日。物日。

我らも取りたしと頼む。則ち諾して、前角力の弱き者と取り初めて、段々取り上りしに、何れも初め一番は、わざわざ軽く負けて、弐番目は手強く屠(ほふ)りしよし。明日は関と合せたきものと、人々申せしよし。

芝居終りて帰る時に、旅宿へ付け込み来たりて、明日関脇関と取ってくれよと、一向頼みて、是非/\という。主人より見物一日の暇をいたゞきて、明早朝に出立の積り。しかし拠(よんどころ)なし。さあらば中入りに大関の役を合わされよ。相済みてより出立すべしと約束し、翌日は前頭、小結、関脇三人を、初め壱番は軽く負けて、弐番めは手強くなげ、大関と三人の中を取りて、勝ちしよし。昨今三拾壱番取りの内、拾五番は負けて、残り拾六番は勝ちしなり。中にも大関をば手痛く投げしよし。勝拾六番はあらゆる手を取りて屠(ほふ)りしとなり。

※ 一向(いっこう)- ひたすら。

その日も黄昏なる故、翌早朝に立ちて道中を急ぎて帰り、その夜は浜松に泊る時、岡崎の角力取りども、拾人追い来て申す様、今一芝居致すべし。立ち帰りて取りてくれよと是非頼む。主命背きがたし。罷りならずと申し切れども、是非というて口論に及ぶ処に、雲助ども群がり来て、其奴(そやつ)引きずり出して打ち殺せ、と立ち懸りしが、究竟の角力取りども、治兵衛壱人に手を束(つか)ねて儘(まま)を見て、あきれて見物して居たり。
※ 究竟(くっきょう)- きわめて力の強いこと。すぐれていること。また、そのさま。屈強。

然れども立ち帰りて勤むる事はいよいよならざるに、熟談して、治兵衛を饗応して、暇を請うて別れし由。これによりて雲助ども、さてはこの羽衣はすさまじき角力取りかな。噺に聞けばきくほど、剛(こわ)き者かなと肝を潰せしよし。これゆえに、一目見て、羽衣様何方へ御通り有りと申せしとなり。
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