平成18年に60歳を迎える。六十と縦に書くと傘に鍋蓋(亠)を載せた形である。で、「かさぶた(六十)日録」
かさぶた日録
「キャパの十字架」を読む
沢木耕太郎著「キャパの十字架」を読んだ。推理小説を読む勢いで読んでしまった。
沢木耕太郎といえばノンフィクション作家として有名である。かつて、伝説の戦場写真家としてしられるロバート・キャパについて書かれた本を翻訳するなど、キャパに大変注目し、評価している。その作家が、ロバート・キャパが戦場写真家として世に出た、最高傑作「崩れ落ちる兵士」が、ヤラセでしかも盗作だと論証するセンセーショナルな本である。内容については先にNHK特集で放映されたので解っていたのだが、この本でより理解が出来た。
1930年代の後半に、左派人民戦線政府と、フランコが率いる右派反乱軍が戦ったスペイン内戦は、第二次世界大戦の前哨戦といわれる。若き写真家のロバート・キャパは恋人のゲルタ・タローと、内戦が始まったスペインに行く。二人ともユダヤ人でファッシズムの台頭するドイツを抜け出し、フランスからスペインの、反ファッシズムの人民戦線政府側に入り、戦場を撮ろうとしたけれども、なかなか戦場に遭遇できない。
そこで人民戦線の兵士に頼んで、模擬戦闘シーンをカメラに収めておいた。デジカメのない時代、カメラに何が撮れたのかは現像して見なければ判らない。戦場カメラマンはフィルムのままで、後方に送り、現像して報道写真として使うことは、後方部隊に任されていたようだ。カメラマンは帰ってからどのような写真が撮れて、どのように報道写真として使われたかを知ることになる。
「崩れ落ちる兵士」と名付けられた1枚は、模擬戦闘シーン撮影時に、丘の斜面で滑って後ろに倒れそうになり、銃を後ろへ放り出す瞬間が偶然にカメラに撮れてしまった。事情を知らない後方部隊は、戦闘中に弾丸を受けて後ろへ弾き飛ばされる瞬間を捉えたものとして発表してしまった。キャバが戻ると新進戦場カメラマンとして迎えられ、今さら模擬戦闘シーンだったとは言えなくなってしまった。悪いことには、その1枚はキャパの撮影したものですらなかった。恋人のゲルタがたまたま撮影したものであった。
否定できなくなったキャバは、その後のカメラマン人生で、重い十字架を背負うことになった。あの1枚を越える戦闘写真を撮らない限り、背の十字架は下せない。キャバは自らの身を、常に最前線に置いて、傑作をねらった。
ようやく、あの1枚を越える写真がノルマンディ上陸作戦で撮れた。銃弾の飛び交う中を、兵士より先に上陸して、振り返ってその兵士を撮った。これは大変なことで、カメラマンは敵に背を見せる形になり、危険極まりなく、誰にもできないことであった。
「崩れ落ちる兵士」は今でも、敗れた人民戦線側の記念すべき1枚となっている。ノルマンディ上陸作戦の1枚も、激戦だった上陸作戦を象徴する写真となっている。
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