家族3人で夕方からショッピングモールに買い物に行き、夕食もモール内のレストランで食べようということになりました。定食が良いということで、和洋の定食を出す店に入ることにしました。入口から見ると席は空いているようですが、なかなか案内してくれません。よく見ると店内のスタッフは1人しかいないようです。ホールをひとりで回すのは大変だろうなと思ったら、そのスタッフが調理をしています。厨房もガラス張りなので、何をしているのか丸見えです。ホールスタッフの制服を着ている男性が厨房で調理をしています。
そこそこ入口で待たされてからようやく席に案内をしてくれました。名札に「斎藤」とあります。30代前半に見える斎藤くんは水とおしぼりを持ってきて、我々の注文を聞き、次に入口で待っている客に少し待っていてくれと伝えてから、厨房で調理を始めて、出ていく客の会計をして、また厨房に入り調理をしています。席数は20席余りの小さな店ではありますが、定食を出す店なので牛丼屋のように決まった少ないメニューではありません。我々の注文も僕が煮込みハンバーグカレーソース、妻が牡蠣フライと穴子ご飯、娘が天ぷらとざる蕎麦のとろろご飯です。定食なので必ずサイドメニュー、小鉢、味噌汁にデザートまでついています。
斎藤くんが牡蠣フライを揚げているなとか、ざる蕎麦を盛り付けているなとか進行状況が見えるのでわかります。その間にも2組の客を案内して水とおしぼりを運び注文を取っていました。待たされている客も彼の動きが全部見えるのでさすがに誰も待たされても文句を言いません。悪いのはどう考えても斎藤くんではなく、フルサービスの店なのにワンオペでやらせているオーナーです。斎藤くんはスーパーマンのようにテキパキと、しかも笑みを絶やさずに愛想よく接客しています。
それだけでも我々は「斎藤すげぇ」と感心していたのですが、厨房での彼の動きを見ていて妻が言いました。「3人分同時に出そうとしている」と。ワンオペで全く違う料理を作っているのに、それを一緒にサーブするなんてできるの?と思いましたが、ちゃんと斎藤くんは持ってきてくれました。全ての料理がきちんと盛り付けられていて、冷めかけているものもなく温かく、そして何より美味しいのです。牡蠣フライと天ぷらと煮込みハンバーグを同じタイミングで出来立てを出せる斎藤くんは、スーパーマンではなく魔術師だったのかと思うほど完璧でした。これならワンオペでもいけるとオーナーも思ったことでしょう。その代わり斎藤くんには3人分くらいの給料は払ってやって欲しいです。
さすがに客が席を立った後の片付けまでは斎藤くんも手が回らずにテーブルに食器が放置されていました。そして我々が食べ終わる頃に入ってきた客に「すいません、ラストオーダー過ぎているので」と断っていました。モールの閉店時間15分前でした。ああ、だから食器をもう片付けていなかったのかと合点がいきました。全てが計算できている男、それがワンオペの神「斎藤くん」だったのです。会計でもクレジットカードで、と言ったらスムーズに処理をしてくれた斎藤くん。制服姿からも本来はホールスタッフのように見えるのですが、その割にあの調理の手際良さは素人ばなれしていました。凄い男を見ました。