書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

藤川隆男 『オーストラリア 歴史の旅』

2006年05月19日 | 西洋史
 オーストラリアのピルグリム・ファーザーズは、イギリスから棄民された破廉恥罪の囚人たちだった。
 また悪名高いオーストラリアの白豪政策は、周囲を取り巻くアジア人やアジアの文化を否定することで、歴史と伝統のない(白人の)オーストラリアとオーストラリア人に、国家としての独自性と国民としての一体感情を持たせるために行われたものだったという。
 してみると、オーストラリアはやはり西洋か。白豪政策をやめて以後は別としても。

(朝日新聞社 1990年8月)

池田潤 『楔形文字を書いてみよう読んでみよう 古代メソポタミアへの招待』

2006年05月18日 | 人文科学
 最古期の絵文字から楔形文字に進化する段階で、文字が90度左へ回転するのが長らく不思議だったのだが、この本で明快に答えてあった。書式が縦書きから横書きへ変わったためである。それなら当然だ。
 ではなぜ縦書きが横書きになったのだろう。不思議の種は尽きない。

(白水社 2006年3月)

中国帰還者連絡会訳編 『覚醒 撫順戦犯管理所の六年』

2006年05月16日 | 東洋史
 管理者側の回想と証言。
 それによれば、“革命教育”(思想改造)のほうが被収容者が罪を認めるよりも先に行われている。もし物事の順序がそのとおりだったのなら、これはやはり洗脳ではないのか。
 証言の中には、革命教育・思想改造はおのれの罪を認めさせるために行われたものであって、“認罪教育”とも呼ばれていたというものがある。
 
 参照。→2002年10月28日欄、野田正彰『戦争と罪責』 

(新風書房 1995年4月)

J. K. ローリング著 松岡佑子訳 『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』 上下

2006年05月14日 | 文学
 子供ではなくなったハリーたち。もう幸福な“仲よし三人組”ではない。
 彼らを取り巻く世界の状況も激変した。これまでの“お約束”が崩壊してゆき、死なない(とばかり思っていた)人物が死んで、読者も驚く。
 最新巻発売の17日までに、なんとかキャッチアップに成功。

(静山社 2004年9月)

今週のコメントしない本

2006年05月13日 | 
 元サザンオールスターズの大森隆志氏が大麻所持の現行犯で逮捕されました!

①感想を書くには目下こちらの知識と能力が不足している本
  三宅雪嶺 『同時代史』 第一巻 「万延元年より明治十年迄」 (岩波書店 1967年11月第2刷)

②読んですぐ感想をまとめようとすべきでないと思える本
  丸山雍成編 『日本の近世』 6 「情報と交通」 (中央公論社 1992年5月) 

③面白すぎて冷静な感想をまとめられない本
  久米邦武編 田中彰校注 『米欧回覧実記』 1 (岩波書店 1992年1月第12刷) (再読)

④参考文献なのでとくに感想はない本
  西順蔵編 『原典中国近代思想史』 第五冊 「毛沢東思想の形成と発展」 (岩波書店 1976年1月)
  西順蔵編 『原典中国近代思想史』 第六冊 「国共分裂から解放戦争まで」 (岩波書店 1976年1月)

  船橋洋一 『同盟漂流』 (岩波書店 1997年11月)
  宮崎正弘 『三島由紀夫「以後」 日本が「日本でなくなる日」』 (並木書房 1999年10月2刷)

  徳富猪一郎原著 『要約近世日本国民史』 1 「織田氏時代」 (時事通信社 1968年2月第2刷)

  尾佐竹猛 『国際法より観たる幕末外交物語 附 生麦事件の真相その外』 (文化生活研究会 1926年12月) 

  大橋良介編 『京都学派の思想 種々の像と思想のポテンシャル』 (人文書院 2004年2月)

  ジョン・バッテル著 中谷和男訳 『ザ・サーチ グーグルが世界を変えた』 (日経BP社 2005年11月)

⑤ただただ楽しんで読んだ本
  J. K. ローリング/リンゼイ・フレーザー著 松岡佑子訳 『ハリー・ポッター裏話』 (静山社 2001年7月)

▲「asahi.com」2006年5月12日、「逮捕の元サザンメンバー、覚せい剤も所持」
 →http://www.asahi.com/national/update/0512/TKY200605120226.html
 いつから使っていたのでしょうか。
 
 ではまた来週。

サンケイ新聞社 『改訂特装版 蒋介石秘録 日中関係八十年の証言』 上下

2006年05月12日 | 東洋史
“「蒋介石秘録」の最大の特徴は、中華民国の公的文献に準拠して書かれているところにある。(中略)執筆にあたっては、あくまでも中華民国側の文献を採用(後略)” (巻末資料「Ⅰ・引用文献」の緒言 下巻540頁)

“たしかに広大な大陸は、共産主義者たちのじゅうりんするところとなった。しかし、台湾、澎湖、金門、馬祖の島々は、自由民主の基地として維持されている” (「大陸奪還の誓い」 下巻473頁)

 だから蒋介石は正しく無謬でなければならず、だから中華民国の公式見解をそのまま掲載して一切検証も批判もしないのであり、だからたとえば「田中上奏文」を本物と見なした上で日本を非難する当時の声明(「九・一八事変十周年紀念の書告」、1941年9月)を引用紹介しながら何の注釈もしないのである(下巻96-97頁)。全編このていで、政治的な価値は満点かもしれないが、学術的な価値は零点である。
 さらに人道的見地からすればマイナス以下の評価になるだろう。以下のたわけた記述を見よ。

“五年前に日本の植民地から解放され、祖国中華民国に復帰した台湾では、すでに新しい建設がはじまっていた。(中略)しかし、ここにも共産主義者の魔手はしのび込んでいた。その一つが、一九四七年二月二八日におきた大規模な軍民衝突事件(二・二八事件)である。/この不幸な事件は、大陸から海南島を経て台湾に侵入した共産分子が群衆を煽動しておこした騒乱である。のちに共産党はこの事件を、毛沢東が同年二月一日に発した「中国革命の新高潮に対応せよ」との指令にもとづくものであると発表、内部かく乱の陰謀をみずから明らかにしている。/台湾行政長官・陳儀は、この事件の二年後、共産党に寝返ろうとした(台北で公開死刑)ことでもわかるように、共産党に利用されたのであった” (「大陸奪還の誓い」 下巻472-473頁)

 ふざけるな。

(サンケイ出版 1985年10月)

 参考。「台湾の声」2005年5月22日(No.3761)、「産経『蒋介石秘録』の背景と『一つの中国』の嘘」
  →http://sv3.inacs.jp/bn/?2005050073821722002289.3407

彭明敏著 鈴木武生/桃井健司訳 『自由台湾への道』

2006年05月12日 | 伝記
(本日『改訂特装版 蒋介石秘録 日中関係八十年の証言』より続く)
 
 たとえばこの本である。原書は1972年刊であるから『蒋介石秘録』の執筆者たちが知らなかったはずはない。確信犯の媚中(華民国)派に言っても無駄だろうが、恥を知れ、恥を。

(社会思想社 1996年2月)

彭明敏
 一九二三年、台中県生まれ。四三年東京帝国大学入学、終戦で台湾に戻り、台湾大学卒。仏パリ大学で法学博士号取得。台湾大学教授時代の六四年、「台湾人民自救宣言」を発表しようとして逮捕され、六五年特赦で出獄。七〇年スウェーデンに亡命、その後渡米し、ミシガン大学教授。台湾独立連盟世界総本部主席、台湾公共事務会会長などを務め、台湾独立運動を指導した。九二年に台湾に帰り、九六年の総統選に民進党公認で出馬するが、李登輝に敗れ次点に終わった。二〇〇〇年から総統府資政。
 (「台湾新世代・人名小事典」 http://www.gaifu.co.jp/books/2810/jinmei.html より)