書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

『北京大学版 中国の文明』 7 「文明の継承と再生 上 明清―近代」

2018年09月02日 | 地域研究
 二年前に出版後すぐ買って読み、驚嘆し、ついでシリーズ全体に手を広げたもの。読み直してみたら、より冷静に内容を評価することができた。

 陽明学は伝統的な思想の論理的な発展の成果であり、明代中期の新しい社会の条件のもとでは、特殊な「思想解放」という大きな意義も持ちました、王陽明が創った「良知(りょうち)」〔原文ルビ〕説が、理性の「自得」と「独断」を提唱し、伝統的な経典と程朱理学の教条主義の束縛を打ち破ったことは、初期の啓蒙思潮のために新たな地平を切り開いたに等しいことでした (「第二章 初期の啓蒙思潮と政治文明の新要素」 本書101頁)

 たとえば侯外盧の『中国思想通史』に比べれば視野も広く考えも柔軟で、まさに「伝統的な経典」と「教条主義の束縛を打ち破った」「思想解放」とこの書を含む全シリーズについて言えることなのだが、どうしても譲れぬ一線というのはあるらしくて、「啓蒙思潮」は、侯外盧本においてそうであったように、あくまで(おそらくは史的唯物論に基づく世界史の基本法則によって)内発的なものでなければならず、さらには「理性」は元来ヨーロッパ思想史における一概念であるにすぎないのに、中国史においてもその存在は自明のものと、ここではされていることなど。

(潮出版社 2016年2月)