書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

桂米朝 『特選!! 米朝落語全集』 第16集 「三枚起請 持参金」

2010年12月01日 | 芸術
「三枚起請」(平成2・1990年10月23日 大阪コスモ証券ホール)
 「このごろ『起請』という言葉が通じんようになったのでこの噺もやりにくうなりました」と、どこかで米朝師匠がしゃべっているのを聞いたことがあるが、“当てにならんのは女郎の起請文”という文句を、私はわりあい子供のころから、何かで読んだか聞いたかで、知っていた。自慢ではない。こんなこと、自慢になるか。

「持参金」(平成2・1990年10月23日 大阪コスモ証券ホール)
 これは、かなり難しい噺ではないか。へたをすると、相手を知らぬがゆえのこととはいえ自分のお手つきを計略づくで主人公に押し付けた番頭はイヤな奴、それをまんまと押し付けられて、事情が判っても怒りもしない主人公はお人好しの馬鹿、ということになって、非常に後味の悪いサゲになってしまう。「それでよろしおまんがな」と呑み込んで笑ってすます主人公は、脳天気な抜け作というだけでなく、そのひと言で関係者すべてを救うという、どこかふしぎな大きさも感じさせねばならず、番頭も、急に昔の借金を返せと言うわ自分の不始末の後始末を押し付けるわという、たしかに自分勝手だが、その一方そのための金策には懸命に走り回る律儀さもちゃんと持っているところを観客に印象づけねばならない。米朝師匠だからその点ぬかりはなく、手堅く纏めてあるが、ちょっと手堅すぎる気もした。この咄は、枝雀さんの演った高座を観たい。
 
(東芝EMI 2002年11月)