書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

山川三千子 『女官 明治宮中出仕の記』

2016年07月29日 | 伝記
 じつに興味深い内容。そして巻末原武史氏の「解説」に、この資料のさらなる深い読み方を教えていただいた。
 なおこれは原氏はなにも仰ってはいらっしゃらないが、大正天皇の「遠眼鏡事件」につき、著者の姑の弟がその場に居合わせて実見し、あとで姑とそのことを語り合っているのを著者が耳にしたという記述がある(「故郷に帰る」315頁)。著者本人の実体験ではないし、さらにその伝聞したことが本当だったとしても、それを目撃したという姑の弟氏が本当のことを言っているとは限らないからだ。さらにははるかな後年、ほぼ半世紀後における回想録であるこの資料には著者による無意識・意識的な記憶の歪曲や再構成もあろう。

(講談社学術文庫版 2016年7月、もと実業之日本社 1960年)