書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

坂本太郎 『古代史の道』

2018年08月18日 | 伝記
 池田亀艦氏が“大人の事情”で長らく助教授のまま留め置かれ、やっと教授になった矢先1年で死去したという話の原典であるので開いてみたが(207頁)、津田左右吉の記紀研究を日本史畑の人間はほとんど相手にしなかったという話も興味深かった(114頁)。辻善之助御大の「本はよく読んでいるが、ただ版本だけだね」など、何を言っているのか門外漢にはわからないながら、表面上はそれがだから何なのだろう、読んでないことでどう論旨に欠陥が生じるのか、もしそういう意味なら言挙げした人間がそれを立証しなければならない筈、まさか批判相手に、「欠陥はない」ことを証明せよと二重に間違ったことを言うているのではあるまいなと、あの大先生がまったくの没論理漢にさえ見えてたいそう面白い。

(読売新聞社 1980年6月)