魚のぶろぐ

2006/5/28~。現在復旧作業中です。ご容赦願います。 ぶろぐの写真はオリジナルです。無断転載はお断りします。

エイみたいなサメ カスザメ

2017年06月09日 10時55分18秒 | 魚紹介

今回は以前入手した魚を。カスザメ目・カスザメ科・カスザメ属のカスザメ。

カスザメは見た目がエイの仲間に似ている。サメとエイはともに軟骨魚類で、「板鰓亜綱」というグループを形成している。現生の軟骨魚類は2亜綱に分けられ、もうひとつはギンザメ目が含まれる全頭亜綱である。サメとエイは板鰓亜綱という同じグループに含まれ「サメ」と名の付くエイの仲間もいる。この二つのグループを分ける大きな違いは鰓の位置。サメの仲間は体の側面にあり、エイの仲間は腹面にある。

カスザメの鰓孔はどこにあるのか。カスザメをひっくり返してみると...

鰓孔はない。カスザメもサメの仲間で、体側にある。先ほどの写真からは見えないのですが・・・。

一方で「サメ」と名前についていても、鰓孔が腹面に開いているのはエイの仲間になる。サカタザメ目・サカタザメ科のサカタザメ(写真)は名前に「サメ」とついている。体の後方にある2基の背鰭などはサメのように見えるが腹面に鰓孔があるのでエイの仲間になる。ほか、トンガリサカタザメや水族館の人気者のシノノメサカタザメ、ほかウチワザメといった種もサメの仲間ではなく、エイの仲間になる。

英語でカスザメの仲間はAngel shark、「天使のサメ」という意味である。天使と言えば清らかなものというイメージがつよいのだがサメの仲間は大食いである。海底でじっと動かず獲物の小魚などが来るとひとのみにしてしまう。このぶろぐの読者であれば、アメリカの西岸に生息するパシフィックエンジェルシャークが、同じ海岸に生息しているネコザメの仲間のホーンシャークを丸のみにする動画を見たことがあるかもしれない。

意外なことに歯が鋭く、ヒトが咬まれると怪我をするおそれもある。ちょっかいを出したり、つかんだりしないようにしたい。カスザメもほかのサメと同様に食用として利用されている。底曳網や延縄などの漁法により漁獲され、湯引きなどで食用とされる。新鮮なものは刺身などでも食べられると思うが、残念ながらまだ食したことはない。また、ほかの種類のサメと同様に練製品などの原料として重要である。

カスザメ目はカスザメ科のみからなり、カスザメ科はカスザメ属のみからなる。日本産のカスザメ科魚類はこのカスザメと、近縁種のコロザメの2種とされていたが、近年になってタイワンコロザメという種も土佐湾で見つかっており、合計3種となった。世界でカスザメの仲間は20種ほどが知られており、いずれも似たような生活をしているようである。繁殖の様式はほか多くのサメと同様に仔魚を産む。

カスザメ科魚類の分布域は太平洋・大西洋・インド洋などのほとんど世界中の暖かい海域に及ぶ。カスザメの分布域は南は台湾、北はピーター大帝湾にまでおよび、日本においてもほとんどの沿岸から沖合に見られる。写真の個体は愛媛県宇和海で獲れたもの。

カスザメには臀鰭がない。これはツノザメの仲間やノコギリザメの仲間と同様の特徴である。以前はこれらの仲間とカグラザメ目、エイ目を合わせ「ツノザメ・エイ上目」とされていたが、近年この考え方はあまり支持されていない。今では板鰓類をサメ区とエイ区にわけ、前者にはネズミザメ上目およびツノザメ上目、後者はエイ上目のみからなり、その中にはノコギリエイ目と従来のエイ目(サカタザメ目、トンガリサカタザメ目、シビレエイ目、ガンギエイ目、トビエイ目)が含まれている。ただしエイの仲間の分類は流動的なものであり、トンガリサカタザメ目を認めなかったり、サカタザメ目をガンギエイ目の中に入れるなどしている。

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トゲヨウジ

2017年06月08日 11時40分17秒 | 魚紹介

昨日梅雨入りしました。雲は多いですが雨はまだ降っていません。そんな北関東から更新。今回は昔に採集した魚のご紹介。

トゲウオ目・ヨウジウオ科・トゲヨウジ属のトゲヨウジ。

トゲヨウジはヨウジウオの仲間なのですが、ほかの多くのヨウジウオと異なり尾鰭がなく、尾部で海藻・海草類やロープにまきつきます。ほかにタツノイトコやスミツキヨウジなどの種も同じように巻き付きます。尾でほかのものに巻き付く習性がある魚といえばタツノオトシゴがあげられますが、実際にトゲヨウジなどはタツノオトシゴ亜科に含められています。しかしFishbaseではトゲヨウジなどはヨウジウオ亜科とされ、タツノオトシゴ亜科にはタツノオトシゴのみが含められています。

分布域は紅海・東アフリカからサモアに至るインド-太平洋域。日本では千葉県以南の太平洋岸に広く分布していますが、千葉県などではおそらく越冬はしていないものと思われます。英語ではAlligator pipefish、つまりワニのようなヨウジウオという意味があります。内湾のアマモ場などにもいて、見つけさえすれば簡単に採集できます。しかし飼育については簡単でなく、生き餌が必要になります。なおトゲヨウジは本種のみの1属1種です。

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ハナトゴエソ

2017年06月05日 12時25分57秒 | 魚紹介

今回は以前入手したものの、このぶろぐでは紹介していなかった魚をご紹介します。ヒメ目・エソ科・アカエソ属のハナトゴエソ。

底曳網漁業の魚で注目されるのは、水深200m以深の「深海」に住む魚が中心です。エソ科の魚も底曳網漁業で漁獲されるのですが、残念ながら深海性のエソ科魚類、というのは多くなくあまり注目されにくいものです。その中でもこのハナトゴエソは水深150-250mほどの深さに多い種で、浅い場所では48mからも記録されていますが、深い場所では700mほどの深さからでも採集されています。

この個体は高知県産。日本では三重県、高知県、東シナ海に分布し、世界では南シナ海やインドネシア、ハワイ諸島などに分布しています。学名のSynodus kaianusの意味は不明ですが、Saurus kaianus(=Synodus kaianus)の基産地はインドネシアのカイ諸島となっており、それにちなむかもしれません。

チョウチョウエソ

ハナトゴエソによく似た種類に、チョウチョウエソというのがいます。チョウチョウエソは若狭湾・相模湾以南、東シナ海、インドー西太平洋に生息していて、インド洋のほうにも分布が広がっているといえます。チョウチョウエソも底曳網でよく漁獲されていますが、主な生息水深は100m前後で、ハナトゴエソよりも浅いのが特徴です。

この2種の見分け方は吻の長さです。ハナトゴエソは明らかに上顎が下顎よりも突出しているのに対し、チョウチョウエソでは上顎と下顎の長さが同じくらいです(写真ではわかりにくい)。基本的に標本をつくる際には顎を閉じて固定するようにいわれますので、標本を撮影したものではわかりにくい場合があります(日本の海水魚、など)。また体側の斑紋もチョウチョウエソでは飛翔したチョウのような形、あるいはX字、Y字に近いのに対し、ハナトゴエソの体側の斑紋は概ね長方形や円形に近い感じです。

ハナトゴエソの頭部(上顎が下顎とくらべ明らかに長い)

チョウチョウエソの頭部(見えにくいが上・下顎は同じくらいの長さ)

ハナトゴエソも体側の模様がY字形ですが、チョウチョウエソほど明瞭な形ではありません。

食性は動物食性で小魚などを食するのだと思われます。写真の個体は2010年5月ごろに採集された、成熟した卵をもった雌の個体で繁殖期は5~6月ごろかもしれません。分布域が広めの割には数が少なく、チョウチョウエソよりも少ないくらいです。エソの仲間の大型種、例えばマエソ、トカゲエソ、ワニエソなどのマエソ属は食用魚(練製品の原料が主)として扱われていますが、本種はあまり利用されていません。

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オグロコンニャクウオ

2017年06月02日 12時37分42秒 | 魚紹介

久しぶりに北海道の魚を。スズキ目・クサウオ科・コンニャクウオ属のオグロコンニャクウオ。

オグロコンニャクウオはその名の通りで、背鰭、尾鰭、臀鰭が黒いのが特徴。体は紫というよりは汚い桃色。「汚い」というとコンニャクウオ属には「ヨゴレコンニャクウオ」というのもおり、混同しないように注意が必要。ヨゴレコンニャクウオは本種とは吸盤の形状や胸鰭の形が違っている。分布域は青森県の太平洋岸~北海道の太平洋およびオホーツク海、海外ではアリューシャン列島付近にまで生息している。

今回の個体は神奈川県立生命の星・地球博物館の瀬能 宏博士に同定をお願いいたしまして、オグロコンニャクウオとのこと。ただし今回の個体についてはちょっと疑問点もあった。検索図鑑によればオグロコンニャクウオは両顎歯がすべて犬歯状または棒状のクラスタに含まれているが、この個体は歯の先端が3葉に分かれている感じ。雌雄の差などもあるのかもしれない。もっともクサウオの仲間は研究の途上にあり、今後新種や再記載されるべき種なども出てくると思われるが。いずれにせよX線でなければ鰭条数が測定できないなど、同定が極めて難しいということも研究が難航している理由であろう。

上顎の歯はちょっと見にくいが3尖頭

下顎の歯は3尖頭のものとへら状のものがある

生息水深は意外と幅広く(低水温をこのむ海水魚ではよくあるパターン、ただし高緯度地域限定)、100~1000mをこえる深さにまで見られるようである。今回のものはおそらくキチジ漁で漁獲されたものをいただいた。坂口太一さんと瀬能 宏博士に感謝です。ありがとうございます。

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ヤリヒゲ

2017年06月01日 12時08分20秒 | 魚紹介

ソコダラ科の魚は極めて種類が多い。今回のこのヤリヒゲは、ソコダラの仲間では普通種である。ほかのソコダラの仲間は水深200mより深い場所に生息しているが、このヤリヒゲは水深100m台の深さからも採集されている。またソコダラの仲間は基本的に太平洋岸に生息しているのだが、このヤリヒゲは日本海側でも採集されている。

ヤリヒゲはトウジン属の魚である。そのほかのトウジン属の魚とは、体側の斑紋が明瞭であること、吻の背部に広い無鱗域をもつこと、頭部下面は先端にのみ鱗があること、鱗にある小棘は弱い、などの特徴をもつ。イチモンジヒゲやトンガリヒゲとは、体側の斑紋が明瞭でないことなどで区別できるが、意外と難しいものである。

ソコダラ科魚類の同定は難しく、いつも不明なソコダラの仲間を見るたびに悩むものである。ソコダラ科の魚を同定するためのポイントは、頭部背面の鱗の有無、体側の鱗の棘の様子、肛門付近の腹面、頭部背面の鱗の配置、頭部背面の鱗の棘の配置などを見る必要がある。素人同定は個体そのものがないと、写真だけでは無理なのである。どなたか、「日本のソコダラ」なんていう書籍を作ってほしい。

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